第71話 二度と戻れない筈のあの場所
円柱の筒の中の様な構造の縦に伸びる道をピコハンは呼吸を止めて登っていく・・・
空中に浮かぶ水と言う不思議な状態の中に居るのだが今のところは単なる水でしかない。
(ん?光?)
通路の中央に垂れているロープを伝いながら上へと登っていたピコハンの頭上に光が射して来た。
もう直ぐ地上なのかとロープを持つ手に力が入りピコハンは加速して登っていく。
水中で水位の低い場所から高い場所へ早く移動したら水圧の変化に体が異常をきたすのが普通なのだがピコハンには一切影響は無かった。
それが浮いている水の中だからなのかは分からないが幸運だったであろう。
特に生物が急速に浮上すると肺等の内臓に大きな影響が与えられるので結果オーライである。
「ぷはぁ!」
水面から顔を出したピコハンは止めていた呼吸を再開してそのまま上へと登っていく。
そして、外へ手をかけて気付いた。
(これ、井戸だ!)
自分が出てきたのが井戸だった事に違和感を覚えつつ井戸の外の風景を見てピコハンは固まった。
それは仕方ないだろう、その光景と言うのが見覚えの在る村だったのだから。
「うそ・・・だろ・・・なんで・・・」
一定感覚で並ぶ藁屋根の家々、村の共有で使用する家畜小屋、そして忘れもしない我が家・・・
そこはピコハンが人捨てでダンジョンへ捨てられるまで暮らしていた村であった。
「あれ?俺・・・何してたんだっけ?服が濡れてる・・・もしかして井戸に落ちて混乱してるのかな?」
突然ピコハンは自分の体が濡れている事に驚き独り言を言い出す。
だが直ぐに気を取り直して体を拭く為に自宅へ向かって歩き出す・・・
「なんかとても大事な事をしていて・・・凄く急いでいた気がするんだけどな・・・」
そう首を傾げながらピコハンは自宅の前まで辿り着いた。
もう二度と帰る事は無いだろうと考えていた我が家。
玄関の引き戸に手を触れると突然ピコハンの目から涙が溢れ出す。
「あれ・・・?おかしいな・・・なんで俺・・・泣いてるんだ・・・?」
その状態で自分の涙の理由が分からず取っ手に手を触れたまま反対の手で涙を拭う。
そして、引き戸をスライドさせて玄関を開けて声を発する。
「ただいま!」
だが開かれた玄関から声は一切返ってこず違和感と血の匂いを感じた。
その違和感を感じ取った時にピコハンは後ろを振り返る・・・
「なんで・・・だれも・・・居ないんだ?」
太陽が出ていると言う事は日中である。
畑だけでなく様々な人が働いているからこそ村は存続出来ているのである。
だが日中だと言うのに村の中からは誰一人として姿も、声も、気配も無いのだ。
ピコハンは玄関に入り襖の様なドアを同じようにスライドさせてそこへ入る。
そして、ピコハンは見た・・・いや、見てしまった。
全身ねずみ色をした子供が4体ほどそこに居た。
そこでバリバリと音を立てて何かを喰らっていたのだ。
それはピコハンの両親であった。
首を切られその場に捨てた状態でねずみ色の子供の様な生物はその体を貪り喰らっていたのだ。
「と・・・うさん・・・かあ・・・さん・・・」
ピコハンの漏れた声に反応してねずみ色の子供の様な生物は一斉にピコハンの方へ振り返る。
今まで喰らった物が入っているのかその生物の下腹は膨れ上がっていた。
そう、ゴブリンとかではなく、餓鬼である。
その目は空洞になっており深い闇がピコハンを一斉に見詰めていた。
「お前等・・・よくも・・・」
言い終わる前にピコハンは飛び出していた!
左に居た餓鬼は一瞬でピコハンのビンタの様な一撃が炸裂し首の骨が折れたのか4回転ほど頭部が体をそのままにして回転した。
確実に即死したであろうそいつに更にピコハンは腹部目掛けて蹴りを叩き込んだ!
腹の部分が吹き飛び下半身と上体のみを残してその場に崩れる餓鬼。
仲間の死に反応したのか残りの餓鬼も一斉にピコハン目掛けて襲い掛かってきた!
「邪魔だ死ね!」
ピコハンの左フックが最初の餓鬼の顔面を捕らえて3匹纏めて横へ吹き飛ばす!
チラリとピコハンは変わり果てた両親の姿を見て歯を食いしばり吹き飛ばした餓鬼へゆっくりと歩いていく・・・
直接ピコハンの拳を喰らった最初の餓鬼は顔面の骨が砕けているのか顔半分が陥没した上体で即死していた。
残りの2体は即死したゴブリンがクッションになったのか倒れこんだままピコハンを見上げる。
「お前達が一体何なのかは知らない・・・だけどお前達はやってはいけない事をした」
そう言って座り込んでいる餓鬼の眼前へ足を上げてピコハンは歯を食いしばった!
「腹が減ってるんだろ?これでも喰えよ!」
そのままピコハンの足が餓鬼の口目掛けて差し込まれた!
ピコハンの蹴りの威力が高すぎたのか口内を突き抜け後頭部に大きな風穴が開いて直ぐにその餓鬼は即死する。
残る一匹の方を向いたピコハンは突然後ろから誰かに抱きつかれた!
「と、父さん?!」
それはピコハンの父親であった。
走馬灯の様に父との楽しかった日々が忘れられないのだろう、その手を振り払うわけでもなく体から力が抜ける。
「ピコハン、本当に大きくなったな。もう彼女とか出来たのか?」
そう耳元で囁かれたのだが生前、のあの優しかった父の言葉に涙腺が緩んだピコハンはもう平常ではいられなかった。
「あらあら、ピコハンは本当いつも忙しそうにしているわね」
そして聞こえてきたその声・・・
そう、ピコハンの母である。
だがその声は父と違い下の方から聞こえたのに気付きピコハンは視線をそちらへ向ける・・・
そして、そこにはバラバラになった体のせいで立ち上がることが出来ないピコハンの母が生首だけで話しかけてきたのであった。




