そして世界は平和になった。
用語とかは特に解説しませんし間違った使い方してる可能性もありますが雰囲気だけ楽しんでいただければと思います。
王宮。
王の鎮座する間にその知らせが届いたのは勇者が魔王討伐の旅に出向いてから半年後のことだった。
「なんと……あのアレイスが討たれるとは……」
「彼奴は勇者の血統でも一番濃い血を引くとされる者ですぞ!? それが魔王に負けるとは」
「どうせ卑怯な手を使ってアレイス殿を陥れたにきまっている!」
「そうだ! あの化け物を殺せるはずがない!」
役職持ちの上級貴族が口々に騒ぐ様子を睥睨した国王は、静まれ、と静かながらも威厳のある声で周囲を治めた。
それから一拍、大きな間を置いて口を開く。
「勇者アレイスが討たれたというのはまことに遺憾である。しかし勇者一族の直系たるアレイスが何の手出しも出来ずに負けるとは考えにくい」
「と、言いますと?」
「魔王もそれ相応の犠牲を払っているだろう。魔軍四天王の一角でも落ちていれば戦力は大幅に削れているだろうし、アレイスの実力を持ってすれば魔王自身にも一太刀浴びせた可能性すらある」
その言葉に、上級貴族達が息を呑む。
「いずれにせよ、密偵を放ち魔王軍の動きをつぶさに観察せよ。アレイスが魔王軍を弱体化――あるいはその動きを鈍化させてくれたとあれば、その間に我々は国力を上げて魔軍の襲来に備えなければなるまい」
「はっ。ではただちに密偵を放ちます!」
「軍務卿。貴様は兵力の増強に良い案を考え、財務卿と相談した後に奏上せよ」
「はっ! ただちに軍議を開かせて頂きます!」
上級貴族達が、慌ただしく動き始める。
それにかき消されてしまい、国王がぽつりと呟いた言葉は誰にも届くことはなかった。
「アレイス……あの馬鹿者が……」
***
「で、ちょっと真面目に死んだことになってるんだが、貴様は何をしているのだ?」
所変わって魔王の居城。
その最奥に位置する玉座に、ひとかたまりの男女がいた。
否、男女というには語弊がある。
玉座に腰掛けているのは王国にて「討たれた」と話題に上がっている勇者アレイスであり、そのアレイスの膝の上には10歳程度の幼女が脚をぶらぶらさせながらちょこんと座っていた。
アレイスは旅装からマントを外しただけの格好をしており、「魔王と戦う直前」と言われれば信じてしまいそうな装備を身に着けているが、膝の上の少女はネグリジェのようにも見える黒のワンピースドレス一つ身にまとっただけで、どう見ても場違いであった。
しかし、少女は人間ではなかった。
魔王・リリンリリ。
七柱いる魔王のうち、もっとも古く、そしてもっとも強大な力を持っているといわれる魔王であった。
「質問に答えよ、勇者アレイス」
リリンリリはアレイスの膝の上におとなしく座りながらも、不機嫌を隠そうともせずに言葉を重ねた。
しかし、アレイスは不機嫌そうなリリンリリの言葉に頬を緩める。
「ああ、リリィの声は可愛いなぁ。見た目も可愛くて仕草も可愛いのに声まで可愛いなんて、そんなに俺を惚れさせてどうするつもりだい?」
「ほ、惚れさせようなどと思ってはおらぬ!」
「照れてるリリィも可愛いなぁ」
「そもそもリリィなどと呼ぶでない! 妾はもっとも古くからこの地を治め、強き者達から幽き者達まですべてを庇護してきた魔王なのだぞ!?」
「わぁ、怒ったリリィのほっぺたぷにぷに~!」
「こ、こ、この大馬鹿者が! 殺してやる!」
頬を指でつつかれたリリンリリが怒りのあまり顔を朱に染めるが、アレイスはそれすら可愛いの一言で済ませて膝の上のリリンリリを抱き直した。
「ぐ、ぬ!? 何故だ! 何故人間の細腕で抱かれておるだけなのに動くことができぬ!?」
「はっはっはっ。俺よりもリリィの方がずっと華奢だからに決まってるじゃないか」
「妾の最大魔力で強化しておるのだぞ!? おかしいだろう!?」
じたばたともがくリリィを、アレイスはしまりのない顔で眺めていた。
髪を傷めないように優しげな手つきでゆっくりと撫でつつ、
「簡単なことさ。俺がリリィより魔力が多いんだよ」
「そんなわけなかろう! 妾の魔力は53万じゃぞ!?」
「俺の魔力は23兆9000億ちょっとあるよ?」
「えっ」
「だから23兆9000億ちょっとあるよ」
びしり、と固まったリリンリリの髪にキスを落としながら、アレイスは鼻歌混じりにリリンリリを抱き上げた。
そのまま半回転させて向かい合うように座らせる。
「リリィのびっくりした顔も可愛いなぁ……あ、ちゅーしてもいい?」
「……」
「無言は同意とみなしまーす」
ちゅ、と軽く頬に口付けると同時、リリンリリが再起動したかのように動き出した。
「じゃなーい!!! そもそもおかしいだろう!? なんだ23兆って!」
「まぁ俺、勇者だし?」
「ならば妾をさっさと殺すが良い! 何を企んでいるか知らぬが、貴様の謀りのせいで人間どもの王国は混乱の最中にあるぞ!?」
「別に良いよ。俺のことを兵器か何かだと思っているような奴らの集まりだし」
「というか何故妾にくちづけをした!? 何の呪法だっ!?」
「呪法なんかじゃな……いや、呪法だな」
アレイスはいいことを思いついた、という顔でリリンリリに向き直った。
「ククク。リリィに掛けたのは禁断の呪法……解いて欲しければ俺にちゅーするんだな」
「何?! 口づけをすれば解けるのだな!?」
「ああ。チューしてくれれば一発で解ける」
「むむ……仕方が……ってそんなわけないだろう! 騙されんぞ!?」
「惜しいなぁ。仕方ないから俺からちゅーしてあげよう」
ちゅ。
「ななななな、何を考えておるのだ!?」
「リリィのこと?」
「そうじゃない! 何故さっきから妾のことをベタベタと触り、あまつさえ口づけなどというはしたないことを繰り返すのかと聞いておるのだっ」
「リリィのことが好きだから」
アレイスはリリィの髪先を弄びながら、
「だって人間って俺に頼りっきりなのに俺のこと化け物呼ばわりするし。唯一友達っぽい友達は王様やってるからフツーに話しかけたら不敬とか言われちゃうしさ。寂しかったんだよ」
「それとなんの関係があるっ!?」
「いや、魔力が23兆もあると色々大変でさ。街中にいると力を抑えてても近づいただけで失神されたりするんだよ。解放したら魔物だって雑魚は近づいただけで死ぬし。だから、俺を見てビビらない子がいてメッチャ嬉しいんだよね」
しかも、とアレイスは言葉を続ける。
「そのビビらない子が超絶好みどストライクの美少女と来たもんだ。スキンシップとったりチューしたりくんかくんかしたくなるのが人情ってもんだろう!?」
「貴様の発言が怖いわっ!」
じたばたと暴れるも、リリンリリがアレイスの腕から抜け出せる様子はない。
「ぐぬぬぬぬ……」
「安心して良いよ。俺、無理やりとかは好きじゃないから」
「どういう意味じゃ!? まったく安心できんぞ!?」
「ね、とりあえず付きあおうよ。モノは試しって言うしさ」
「唐突じゃの!?」
「あ、付き合うって言うまで離さないから」
「か、監禁されておる……この妾が人間ごときに監禁されておる……!」
***
「あれから5年。魔軍には未だ目立った動きはありませんが……」
「勇者アレイスの決死の一撃は魔王にとっても相当な深手だったようですな」
「よもや、相打ちやも知れませぬぞ」
「馬鹿な。魔王の星の輝きは未だ衰えておりません!」
王宮でがやがやと騒ぐ上級貴族たちに、王は言葉を掛けようとして、しかし口を閉ざした。
(……言えぬ……アレイスと魔王が結婚するなどと……ましてや結婚式に招待されておるなどとは決して言えぬ……)
***
「結婚式楽しみだなー」
「何故じゃ……こんなはずじゃなかったというに……」
「ほら、でも同意したわけだし」
「ぐぬっ。あれは反則だろう!? 寝起きだから思わず『はい』って言ってしまっただけだ!」
「でも同意は同意だからね。あー、早く結婚したいなー。新婚旅行はどこいこうか? 冥界? それとも神界? あ、妖精界もいいよね」
「妖精界のフルーツを使ったタルトが……って、だから無効! 無効だと言っておろう!」
「妖精界でスイーツ食べ歩きにしようか。もう、リリィは可愛いなぁ」
そして世界は平和になった。
ご愛読ありがとうございました!