表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

英語タイトル

TimeSleep

作者: 雪つむじ

カーテンの向こうがひときわ明るくなる。

朝が来た。

瞼の向こうで、天気がそう告げる。

「う……ん……」

ベッドの上で身じろぎをする。

朝は、苦手だ。

『おはようございます』

目覚まし時計の音か。

「ん……?」

いや。

話をする目覚ましを買った覚えはないな。

鼻に吸い込む空気は少し甘く。

まだはっきりしない頭が。

瞼を開けて。

天井は今日も。

見慣れない天井だった。



『おはようございます、ルームサービスのお時間です』

何度目かの、声。

「うん……おはよう……」

刺激が入った瞼は、まだ重い。

気だるい体を、順に確認。

手を握ったり。

腕を持ち上げたり。

「今日は、何月何日?」

声を出す喉は、カラカラだ。

『本日は、2月4日です』

そうか。

「よい、しょ」

ゆっくりと、体を起こす。

何もかけていなかった割には、体は温かい。

床に足を付けると、思ったよりもひやっとして。

『只今、替えの服をご用意します』

そう言ってコツコツと部屋から出ていった目覚まし時計は、どうやら自分で動けるらしかった。

「ここは、どこだろう」

腰掛けているベッドから、立ち上がる気力がまだわかない。

気力がわかないというより、筋力がまだ湧いてこない。

自分の体を支えている腕も、小刻みに震えて。

見やると。

窓の外は明るく、天気だと思っていた空はグレーで。

白い羽虫が、ちらちらと降ってきているようだ。

「ホテル?病院?」

壁は冷たく。

白く。

ベッドの傍まで続いていて。

手を伸ばして触れたそれは。

金属のような手触り。

「クリーンだな」

思わず、フフッと。

笑いがこぼれた。

『お待たせしました』

開いたドアから、着替えの入ったカゴが入ってきた。

合わせのシャツに、ゆったりとしたズボン。

下着一式。

今着ているものと、大差ない。

「脱いだものは?」

『そのカゴにお入れください』

もちろん、カゴは喋らない。

目覚まし時計の髪は長く。

すらっとしていて。

「とりあえず、見られていると恥ずかしいかな」

そう言っても、どうやら気にしないらしい。



着替えると、思ったよりも寒くなかった。

空調が効いているのだろう。

用意された靴を履いて、改めて窓際まで歩いていく。

世界は見下ろせる位置にあって。

空は思ったよりも近くて。

地面は、空と同じ色。

「ここは?」

『ここは、という定義がわかりません』

そうだな。

「水が、飲みたいな」

『ご用意いたします』

そう言うと、また出ていく。

コツコツ、コツコツ。

規則正しく、音が響く。

コンプレッサーの音も、エアポンプの音もしない。

バイタルゲージのディスプレイすらもない。

なのに。

「外は、どうしたのかな」

嵌め殺しの窓は開かない。

乾いた目で見ても、動く影が世界にはいない。

「僕だけか」

わだちの跡も。

獣道も見えない。

『お待たせしました』

ガラスのコップに入った水は、少しねばっとして。

「おいしくない」

半分も体が受け付けず。

その代わり、瞼はまたくっつきそうだ。

「次はいつ?」

『次の定義がわかりません』

ガラスのコップに聞いても無駄か。

部屋のベッドは、いつの間にか新しいものにかわっていて。

「今度はこれ?」

『ベッドメイキングは完了しております。以前よりもよくお休みいただけます』

そうか。

また、すぐに眠るのか。

「起きている時間より、眠っている時間の方が長い感じだ」

再びぼうっとし始めた頭は、きっとさっき飲んだ水のせいだろう。

『あさが来たら、お声をかけさせていただきます』

そう言った部屋は、独りでに消灯されて。

『お休みなさいませ』

やや甘い空気と共に。

瞼を。



まどろみの中で思い出す。

窓から見えた世界は、広大な冷却空間。

ふっていた羽虫は、自由落下する冷却された塊の欠片。

空も地面も。

円筒形のこの世界では同じ色。

目的地に着くまでは。

ベッドメイキングのようなイレギュラーが無い限り。

誰も、目を覚まさない。

夢は、見ない。

追い求めている、長い旅の途中だから。

たまにジャンル違い。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ