神様のレシピ2
第二章 いつかの夢で見た未来
佐伯理太という僕の名前は僕のお婆ちゃんである佐伯由加が名付けたものである。
僕はお婆ちゃんの若いころを何一つ知らないが”佐伯由加”が僕の人生に及ぼした影響は計り知れないものだった。
僕は何かの本で”男の人生で大切な異性との出会いは3回訪れる。そのうち一つは母親との出会い、2つ目は配偶者との出会い、3つ目は娘との出会いである”
という話を読んだことがあるが現時点で僕の人生に最も影響を及ぼしているのは間違いなくお婆ちゃんであるといえるだろう。
もっとも”大切な異性”に含まれるかどうかは微妙なところがある。しかし、今の僕を作っているのは間違いなく祖母の影響があったからなので
今の自分に満足している僕にとっては十分大切な出会いだったのではないだろうか。
普段僕は好きな女の子の為に知恵を絞っておかしな話を言い聞かせているが
今日は僕が”何故か知っている”若き日のお婆ちゃんが見た夢の話をしよう。
まず、僕がどうしてお婆ちゃんの見た夢を知っているのかというと、
それはお婆ちゃんが何度も見た夢の内容を詳細に日記に記していたということと
押入れの奥で埃をかぶっていた”それ”が70年の時を経て蘇ったということが関係している。
以下にその日記の内容を抜粋する。
一九四三年 十一月七日
今日はいつもならすぐに忘れる夢を
ハッキリと思い出せたので忘れないうちに
ここに書いておこうと思う。
今日私が見た夢は
今よりもっと先の未来の世界(たぶん私がしんだ後の世界)で
私の孫であろう男の子が思いを寄せている女の子と結ばれるという話だった。
その子は不幸に見舞われて何度もしのうとする女の子を
巧みな話術で説得して最後には口説き落としてた。
私はまだ結婚もしていないし子供も産んでいないけど
夢に出てきた男の子は確かに私の孫だと分かった。
最近人生は辛いことが山ほどあると実感しているけど
自分の孫がいつかこんなに素敵な恋愛をしてくれるならそれにも耐えられると思ったの。
・・・これが今から70年前に僕のお婆ちゃんが書いた日記である。
夢に出てきた男の子とはもちろん僕のことであり、そこに書かれていることは今まさに僕がしていることだった。
僕がこの日記の存在を知ったのは確か未緒と出会ってからのことで(ちなみに未緒というのは僕が思いを寄せる女の子の名前)
初めて読んだときは本当に不思議なこともあるものだと思った。
なんせ僕が生まれる前から僕の人生は運命の渦中にあったのだ。これぞ神様のレシピなのだと思う。
きっと僕がいつも未緒のことを心配しているのも神様が決めたレシピの分量によるものなのだろう。
きっと僕もお婆ちゃんも、それから未緒も、運命は過酷なことばかりではないと気付く日が来るだろう、
天国でお婆ちゃんが2人の行く末を見守っていてくれますように。
僕は美緒の為にに考えた作り話をまとめながら気付けば夢みごこちで寝息を立てていたのだった。