第3話 襲撃と遭遇 ◇
それから五年。
わたしを取り巻く環境はあまり変わりません。
いえ、ひょっとしたらご主人様次第で変わるのかもしれません。良くも悪くも。
だから、わたしにとっては不安だけでなくちょっとの期待もあったりするのです。
でも、他のみなさんはそうでもないようで、俯いて暗い顔をしています。
輸送中の奴隷であるわたしたちに今できることは祈ることくらいでしょうか。
いいご主人様に巡り合うことができますように、と。
そんなことを考えているときでした。
「――ぐはっ」
「どうし――ぐっ……」
幌の外が騒々しくなります。
「敵襲だっ!」
「たった二人だぞっ。やっちまえ!」
喧騒は進行方向前方の馬車の方から聞こえます。
男たちの悲鳴や不快な金属音、地面を打つ鈍い音も聞こえ、戦闘臭いにおいもします。
わたしもそうですけど、周りのみんなも怯えて縮こまってしまっています。
――神様、どうかわたしたちが無事で済みますように。どうかお願いします。
きっとどなたかはこのように祈っているのではないでしょうか。
しばらくするとどなたかの倒れる音を最後に物音が無くなります。
「し、静かになった……」
「……どうなったのかしら」
「私たち、助かった……の?」
みなさん、まだ不安そうな顔を隠せません。
ふと、荒々しい声音が聞こえました。
何やら揉めてます。
でも、それもわずかのことで、すぐにどなたかがこちらの荷台に近づいてくる足音が聞こえます。
足音が後ろに回り込むと幌がめくられ、外光が差し込んで視界が眩みます。
急な明るさに慣れない目に人影が映り、異音がしました。
「うそ!」
誰かがつぶやきました。
わたしも心中驚きました。
常人の力ではびくともしない檻を二本の腕でこじ開けてしまっていたのですから‼
人が十分通れるような空間を確保すると影が二人入ってきます。
「ロアンナ!」
影の一方が叫びます。
「えっ? ダイアンっ!」
先ほどの目を真っ赤にさせた女性でした。
影――ダイアンさんが駆け寄ると二人は抱き合って喜びを交わします。
恋人か、夫婦だったのでしょうか。
何か不幸な事件でもあったのでしょう。引き離されたお二人が再会を果たしたであろう光景に、わたしは胸があたたかくなりました。
(よかったですね)
「――ちっ」
ふと、もう一つの影――目が慣れてローブを着込んだ男の人だとわかります――が荷台に乗り込んで檻の中を見回していました。
「やはりいない――っ⁉」
顔はローブのフードの陰になっていてよく見えませんでしたが、確かにわたしと目が合いました。そしたら驚いたような気配が伝わってきます。
同時に、他の人は気づかなかったかもしれませんが、私の目にはよろめいたのがわかりました。左手で頭を押さえ、小さく苦しそうに「くそっ」と毒づきます。
「おい、そろそろ行くぞっ」
ローブの男はもう一人――ダイアンさんに退意を投げ掛けると、不意にわたしは腕をとられて檻の外に連れ出されました。
馬車から降りた拍子に森風に煽られたフードから男の顔が顕わになり、わたしの胸がドキリと高鳴ります。
(うそっ……)
赤みがかった金髪は日の光で橙金色に輝き、鋭い双眸は碧みの強い金色の光をたたえていました。
それらは記憶の中の彼とは違っていたのだけれど、夢に出た少年の面影を感じさせる顔立ちの整った男性でした。年齢もわたしより一つか二つくらい上でしょう。
ちょうどあの少年が成長し、野性味を加えたらこうなるだろうというような。