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1-5 匠との出会い


 甲田匠の第一印象は、まずモテそうだな、ということだった。

 長髪とまではいかないが、程良く長いさらりした茶髪。その下にある顔も綺麗に整っている。

 男の総児が見ても格好良いと思うのだから、女だったら思わず見惚れていただろう。

 身長は、座っているのではっきりとは分からないが、おそらく総児と同じか少し高い位か。

 新品のはずの制服は、慣れたように着崩されている。

 匠は総児のあいさつを聞くと、教室の前の方を左手の親指で指差しながら話し掛けて来る。

「あの娘と一緒に来たよな? 同じ中学だったのか?」

 匠の見た目の印象通りの行動に、呆れるというよりも感心する総児。早速可愛い女子をチェックしているということだろう。

 となると、雪音の事を話すのに少し抵抗を感じたが、だからといって、無視して入学早々前の席の人間と険悪になるのも避けたい。

 少し考え、実際彼女の事を大して知っている訳ではないので、本当の事を答えることにする。

「いや、彼女とは今日会ったばかりだ。掲示板の所で偶然クラスが同じだって分かったから、一緒に来ただけだよ」

 と、匠はにやりと笑みを浮かべて返してくる。

「にしては、やけに親しそうに話してたじゃないか?」

 一瞬、匠の言葉の意図に気が付かずに、嘘じゃないと言いそうになったところでピンと来る。

 匠は、総児が自分と同じ様な人種、つまり、女遊びに慣れている人間だと思ったのだろう。

 確かに総児は、施設で男も女もないような生活をしてきたので、女子と話すことには慣れていた。

 けれども、自慢ではないが、こと恋愛に関してはほとんど経験がなかった。

 中学生時代、好きな子がいたことはいたが、それはどっちかと言うと憧れの様なもので、告白することもなく終わってしまっている。

 つまるところ、匠の予想は外れている。

「んなことはないさ、あれ位普通だろ」

「そうかねぇ~。まぁそう言うならそれで良いが」

 なにやら含みを持たせた言い方だったが、総児は気にしない。

「で、彼女の名前は?」

 と、総児が応えるよりも早く、匠の質問が続く。

 名前位なら、今ここで答えようが答えまいが、同じクラスならすぐ分かるだろう。そう判断した総児は素直に応える。

「氷室雪音」

 ただそれだけ口にすると、総児の内心などお構いなしといった感じで匠は続ける。

「雪音ちゃんねぇ~、ひゅう。見た目通り可愛い名前だな」

 ちらりと前を振り返り、にんまりと笑みを浮かべる匠。

 それを見ながら、総児は違うだろうと確信しながらも、質問を投げかけてみる。

「彼女に惚れたのか?」

 その言葉に、匠は驚いたように目を丸め、そして、噴き出す。

「はっ、まさかっ! 取り敢えず、学校の可愛い娘を皆チェックしてるところよ。どうするかは、それからそれから」

 予想通りの反応で、総児は苦笑い。

 ふぅ、と息を吐いたところで、教室の前の入口から入ってきた一人の少女が目に入る。

 そこで、丁度良いと思って問いかける。

「じゃあ、あの娘はどうよ?」

 その少女は、雪音とはまた違った魅力のある少女だった。

 雪音が春の日差しの中、野に咲く小さなタンポポだとしたら、その少女は、茨に囲まれた中に一輪だけ咲き誇っている真っ白な薔薇。そんなイメージだ。

 雪の様に白い肌にかかるつややかな漆黒の髪は、その背中の中程まで伸ばされていて、毛先は綺麗に切り揃えられている。

 何処かのお嬢様だと言われても、素直に頷ける。それ程の浮世離れしたオーラを放っていた。

 匠は振り返り、その少女を視界に収め、

「うげっ……」

 予想外の、心底嫌なものを見たような声を、思わずといった感じで漏らした。

「何だ、知り合いか?」

 そんな反応に興味をそそられた総児は、少女へと視線を向けたまま匠へと問いかける。

 この反応、過去に振られでもしたのかと幾分期待しながら返事を待つが、一向に言葉が返ってくる気配がない。

 そうこうしているうちに、件の少女は一通り教室の中を見回す様な仕草を見せた後、すぐにその身を翻し、入ってきた入口から何事もなかったかのように颯爽と去って行く。

 誰か人でも探していたのかな、などと考えていると、

「ふぅーーーーーーーーーっ」

 総児にもはっきりと聞こえる程、大きく息を吐く音が聞こえてくる。

 匠へと総児が視線を戻すと、そこには長い悪夢から目を覚まし安堵しているような表情が見て取れた。

「はぁ~、びびったぜ。まさか同じクラスなのかと思っちまった」

 ようやく口を開いた匠の言葉に、総児は眉根をひそめる。

 流石に匠の反応は大きすぎる。


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