1-16 真昼の白夜叉
匠には決めていないと答えたが、総児には一応考えはあった。
新入生にとっては入学式に突然告げられた評価別のクラス替えだったが、在校生にとっては、少なくとも一年以上付き合ってきたシステムのはず。
ということは、上級生の様子を見たり、直接話が聞けたりすれば、何か分かるのではないか。そう考えていた。
とはいうものの、まずは昼食だ。昨日はバイト先での昼食となったが、今日はこのまま残るのだから、学校で済ませる必要がある。
学校の施設については説明を受けており、昼食が食べられる所は分かっていた。
まず、玄関を入って教室に向かうのと反対方向へ行くと購買がある。そこで、パン類や飲み物などが売られているという話だ。
もう一つ、食堂がある。食堂は購買とは反対、つまり教室に向かう階段を通り過ぎ、そのまま東棟の南端へと行った所にあるということだ。
食券制で先に支払いを済ませるようになっていて、それなりにメニューの種類は豊富らしい。
ひとまず、教室のある四階から一階へと下りると、総児は購買へと向かう。
校内は既に放課後ということで、生徒の話し声があちこちから聞こえてきていて、学校らしい喧騒に包まれていた。
購買に着くまでにも何人にも追い越されたり、すれ違ったりした。
そんなわけで、総児は購買に着くと、
「うわっ、凄い人だな」
購買前の人の山を見て、そう声を漏らしてしまった。
購買の前には、もう何が売られているのかも分らない程の人だかり出来ていた。
良く見ると、そのほとんどが二、三年生の上級生であり、この状況を知らないことに加えて、四階からという教室の立地条件――新入生はこの昼食争奪戦には参加出来ていないようだ。
総児も、流石に今からこの中に入っていって何かを買える自信がない。まず、何が売っているのかすら分からないのだ。
総児は早々にその人混みに背を向ける。
購買の横はちょっとした休憩スペースになっていて、テーブルと椅子が置かれている。
おそらく、三、四十人程が座れそうな数が揃っているが、既にそのほとんどが、談笑しながら昼食を取っている生徒達によって埋まっていた。
そこも、購買前と同じく新入生の姿は見当たらない。
だが、その中に一つだけ、新入生であることを表す緑色のリボンの制服姿があった。
それに気が付いたのは、上級生の中に一人だけ一年生がいたために目立っていたからでは無い。その周囲だけ、明らかに周りから浮いていたからだった。
「あれは、学長の……」
そこに座っていたのは、昨日教室で少しだけ目にした少女だった。
他のテーブルは、一つのテーブルを幾つかの椅子で囲んで、和気あいあいとした雰囲気だというのに、その一角だけは、ただ一人の少女によって占有されている。
月代サク――彼女の周囲は、明らかに違う空気が漂っていた。
彼女のいるテーブルにはもちろん他に誰もいないが、すぐ横のテーブルに座っている生徒たちも皆一様に、月代サクの方を見ないように、背中を向けるようにして、不自然な向きに椅子を動かして座っていた。
入学二日目にして、上級生にそんな対応を取られている時点で、いよいよ昨日の匠の噂話が真実味を増してくる。
けれども同時に、昨日学長と交わした言葉も思い出される。
――仲良くしてあげて――
学長の言葉。そうそう無碍に出来るものではない。
とはいうものの、今この状況で話しかけることは大いに躊躇われる。
これだけあからさまに周りから避けられている所に出て行ったら、自分が注目されるのは必至だ。入学二日目にして上級生の注目の的になるのは、御免蒙りたい。
彼女はそんな扱いを受けて平気なのかな、と総児は思ってしまったが、見ている限りでは、月代サクは周りに人などいないかのように、一人で優雅に自前の弁当らしき物を広げ、昼食を取っている様子。
今はそんなことより自分の飯の方が先だ、と自分に言い訳し、総児は月代サクから視線を外すと、食堂へと足を向けた。