2-9 放課後になって
あっという間に午後の授業も全て終わり、放課後となる。
それぞれの部活に向かう者もいればXFでの対戦に向かう者達も居るという事で、校内は一気に騒がしくなる。
もちろん、何もせずにすぐに帰宅する者もいるが、この考査前の神代高校においてそれは極少数だ。
何故なら、普段の授業態度や定期考査の成績はもちろんだが、それ以上にエレメンツを使ったXFでの戦いの結果が、能力別のクラス分けに大きく影響しているからだ。
普段部活動に集中している生徒達の中にも、この時期だけはXF通いへと変わる者達が居る程、クラス替えにおいてXFでの戦績の比重は大きい。
そのため、生徒達は日々XFでの戦いにいそしみ、その半分のエレメンツが敗れて消え去り、新たなエレメンツが生み出される事となる。
そんな中で古賀総児は、授業が終わってすぐに下校の準備をしていた。
通学鞄の中に必要なノートや教科書類を詰め込んでいると、相変わらずの悪友達が話し掛けて来た。
「今日もバイトか? ったく、そんなんじゃ何時になったらエレメンツが持てるか分からないぜ?」
「XFでの戦いってのはまだ無理でも、マナの操作の特訓するっていう選択肢があるんだぞ」
総児が鞄から顔を上げると、正二と清則が揃って後ろに立っていた。
「まあね、俺はちょっとバイト休めそうにないからな。そういう福島は、今日も部活に行って先輩からマナの扱いを教えて貰うのか?」
「ああ、俺の精霊庭球部はさー、Fクラスは俺だけしか居ないし、先輩達も心配してくれてね。まずエレメンツが居ないと競技にも参加出来ないから、エレメンツを持つのが今一番の課題だーね」
エレメンツマスターを育成する教育機関として、神代高校の部活動は普通の部活動と少し違っている。
一般には知られていないが、エレメンツを使ったスポーツや芸術なんかも世の中には存在していて、それを行っているのが部活動だ。
他地域のエレメンツマスター養成学校との交流という意味でも、部活動は推奨されている。
「加藤はどうなんだ? 流石にまだエレメンツを戦わせるってのは無理なんだろ?」
総児は清則の肩の上に浮かぶ豆粒程の光を視界に収めながら、もう一人の友人にそう問いかける。
「ああ、そうだな。俺はクラスの同じ位のエレメンツ持ちの奴らと一緒に、ちょっとマナの操作訓練をやろうって話になってる。今のエレメンツの力じゃ、何も出来ないからな。せめて、こいつに自由に動いて貰える様にはなりたいぜ」
「そっか。まだエレメンツに意志みたいのも全然無いんだっけか。赤ちゃん…よりもまだ幼い感じか」
「人間に例えるならそんな感じかもな。ってことで、皆が待ってるし俺はもう行くぜー。んじゃ、またな!」
そう言って別れを告げると、清則はさくさくと教室から出て行ってしまう。
前に聞いた話だと、屋上や中庭などの少し広いスペースが有る所で集まって練習しているらしい。あれ位のエレメンツでは、まだXFに行く必要も無いからだ。
総児と共に清則の背中を見送った正二は、清則程は急いでいない様でそのまま会話を再開する。
「にしても、考査前になってもソージは相変わらずだな。そりゃそうか、むろっちゃんのあのウェイトレス姿が見れるんだもんなー。そりゃ休めないよな!」
にやにや笑いを浮かべながらの正二の言葉に、総児は思わず溜息を漏らす。
「福島、俺は別に、氷室さんがいるからバイトしてる訳じゃ無いんだが……」
バイトと言ってまず頭に思い浮かぶのは、気難しい老人の姿。今も喫茶店の店先で、沢山の雑用と共に総児を待ち構えているのだろう。
成り行き上、雪音は総児と同じ喫茶店でバイトする事になったが、元々は総児が先にそこで働いていたのだ。
けれども、二人が働いている喫茶店はウェイトレスの制服を売りにしているので、先程の正二の言葉が出て来るという事になる。
実際、総児も店の制服は可愛いと思っているのは確かだし、雪音自身も可愛いと喜んで着ているので特に不満が有る訳ではない。
だが、こういう言われ方をするのはあまり好きでは無いので、言い返せずにはいられなかった。
「分かってるって。でも、あの店は有名なんだぜー? 中学ん時でも、可愛いウェイトレス揃ってるって話題に出てた位だからな」
総児の雰囲気から、自分の言葉で総児が気分を害したという事を察した正二はそう言ってフォローする。
それ以上雰囲気を悪くするつもりは無いので、総児は自然と会話を続ける。
「正二の中学は駅から反対の方に有るんだっけ? だとしたら結構離れてるのに、凄いな」
「だろ? でも不思議なんだよなぁ。となると、男でもバイトしたいって奴は自ずと出て来るもんなのに、全っ然雇ってくれないって有名だったのによ。一体全体、総児はどんな魔法を使ったんだ?」