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1-8 一週間の判定


 遠藤先生の話をまとめると、どうやらこういう事らしい。

 この一週間、授業は午前中だけで、その間に体力測定や健康診断などを行い、それぞれの生徒のデータの基とする。

 学力に関しては、入試の結果をそのまま利用するため、改めて学力テストがあるということはないので、その点は安心して良いということだ。

 そして、学校にいる間の全てが判断されるということだが、午後からは部活動やそれぞれの自由な時間に当てられるということだ。

 上級生もこの期間は午前で授業が終わるので、午後からは部活見学して回るも良し、学内でくつろいでいても良しということだ。

 もちろん、帰っても良いと言っていた。ただ、午後から校内でどうしていたかということもクラス分けに影響するため、良く考えて行動するように、とも言っていたので、暗に、すぐ帰るようでは評価が低くなると言っているようだった。

 そして、驚くべき事実がもう一つ伝えられた。

 クラス替えが、この一回だけではないということだ。

 第一回五月末、第二回七月末、夏休みを挟んだ後の第三回十月中旬、第四回十二月中旬、そして、最後の学年末。計五回、一年間にクラス替え判定があるというのだ。

 とはいうものの、それは基本的には下のクラスから上のクラスへと上がる者がいるだけで、大幅な変化はないということだ。

 そのため、一年の初めは、特Aクラスの人数は極少数となり、逆にFクラスの人数が一番多くなるのだという。

 最後に遠藤先生は、だから、その中から徐々に上のクラスへと上がっていくこととなるので、今回のクラス分け結果をそれほど心配する必要はない、と言って本日のホームルームは終了となった。


「さーて、帰るか」

 総児の前の席で、匠がそう言って立ち上がる。

 遠藤先生の話によると、評価は明日から始まるとの事で、今日はこのまますぐ帰るということに問題はないらしい。

 総児は顔を上げると、匠に声を掛ける。

「おつかれ、また明日な」

「おつかれってか、お前んちはどっち方面? 方向同じだったら一緒に帰ろうぜ」

 匠はそう言って総児を誘ってくる。

「家は近所なんだ。歩いて十分もかからないかな。校門を出て、駅とは逆方向なんだけど」

「あぁ、それじゃあ逆方向だな。俺は駅の方だから。んじゃあな」

 と、匠は手を挙げあっさりと歩いて行ってしまう。

 総児はその背中に向かって、

「またなー!」

 そうして、教室から出て行くところまで匠を見送ると、その背中から視線を外す。

 一応、総児には放課後にしようと考えていることがあった。それは、バイト探しだ。

 学費はもちろん、生活費まで全て神名は出してくれると言っていたが、総児としては、その言葉に甘えきってしまうのは居心地が悪かった。

 自分一人の力でこの高校へ通えるのではないということは分かっていたが、せめて、生活費位はは自分でバイトをして稼ぐことで、神名の負担を少しでも減らしたいと考えていたのだ。

 だから、無事入学式を終えた今、早めにバイトを探しておきたいと思っていた。

 バイトを探すには、店の多い駅の方へ行った方が良かったのだが、

「やっぱ、一度帰って荷物置いてからの方が良いよな」

 誰にともなく、そう呟いた。

 ところが、

「何がです?」

 思いがけず、その言葉に返事があったため、

「うわっとぉ!?」

 総児は変な叫びを上げてしまう。

「ぷっ、驚き過ぎだよ」

 声の方向へと振り返ると、クスクスと笑う少女が総児の席のすぐ横にあった。

「氷室さんか。急に話かけてくるからびっくりしたよ」

 その少女、氷室雪音は特に悪びれる様子もなく、

「ごめんなさい、そんなに驚くとは思わなくて」

 と、謝罪の言葉を口にした。

「いや、別に良いけどさ。えっと、それで何か用かな?」

 変な声を聞かれてしまったことに少し気恥ずかしさを感じていたため、総児はすぐに話題を反らす。

「ううん、特に用って訳じゃないんだけど……。皆帰り始めてるのに、古賀君は席に座ったままだったから、どうしたのかなって」

 自分では、そんなに長く考え込んでいたつもりはなかったのだが、傍からはそう見えたのかと総児は思いつつ、

「いや、ちょっと考え事をしていてね」

 軽く返す。

 と、何やら、雪音はその内容までも勝手に解釈したようで、

「あー、そうだよね。いきなりクラス替えとか査定とか言われても悩んじゃうよね」

 と、納得して、うんうん頷いている。

 違うとわざわざ言うのも何だし、実際そのことも気になってはいるので話を合わせる。

「うーん、まぁねぇ。まさか、入学式になってからそんな事が明かされるなんて思ってもみなかったよ」

 特に、理事長の紹介で入学した総児は、自分にさえ、全くその事を知らされていなかったということにも驚いていて、そのことについて後で神名に訪ねてみようか、などと思っていた。

「そうだよね。せっかくクラスに友達が出来たと思ったのに、すぐにクラス替えなんてちょっとがっかりだよ……」

 しゅんとする雪音を見て、総児は励ましの言葉を探す。

「えっと、ほら、初日でもう友達が出来たんだったら、クラスが変わってもすぐに出来るって。むしろ、クラス外にも友達が出来て、そっちの方がお得な感じじゃないかな?」

 が、何やら言葉の選択を間違えてしまったらしい。

 雪音は苦笑いを浮かべて、

「あはは……。まあ、そうだよね。今からそんなこと考えているよりも、良い事を考えないとね」

 そう言いつつも、何やらちょっとがっかりしている風の雪音に、総児は何と言ったら良いのか判断できない。

 何が違ったのかと思いながらも、同意の言葉を返す。

「そうそう、前向きにね」

 そう言ったところで、教室の中へと視線を巡らせると、もうほとんど他の生徒はいなくなっていることに気が付く。

「ってことで、今日はそろそろ帰りますか」

 総児はそう続けて言いながら、席から立ち上がる。

 それで、雪音も教室から他の生徒がいなくなっていることに気が付いたようで、

「あ、そうだね。私、お母さんが待ってるんだった!」

 と、少し慌てて口にする。

 それを聞いた総児は、そういえば今日は保護者も学校に来ているんだな、と思い出す。

 自分にはずっと関係のないことだったので意識すらしていなかったが、言われてみて気が付いた。

 今の自分には、保護者と呼べるような存在として、神名がいる。もしかしたら、ここでちゃんと挨拶しに行った方が良いのかな、と今更ながら思い至る。

 などと、再び思考の海に沈みかけていた総児の意識は、

「それじゃあ、古賀君またね」

 という、雪音の声に呼び戻される。

「ああ、じゃあまたな」

 手を振る雪音に総児が手を振り返すと、雪音は小走りに廊下の先へと消えていく。

 それを見送り、今度は周りを一応確認してから呟いた。

「一応、顔は出しておくべき…だろうな」

 今度はその呟きに応える者は誰も居らず、そうして総児は一年三組の教室を後にした。



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