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第四話 春雷を望んで

「兵を発する。各都市には盟約に従って五千の兵を必ず用意していただきたい」


 リンゲンの第一人者(代表)であるクラウス・アエティウスは高圧的な口調で言った。クラウスにいささかの反発心を感じながらもオルレインの第一人者であるデキムス・ノイアは内心、


 ――ピートが陥落して隣のリンゲン、ルギィ、アミンの三都市はだいぶ焦っているようじゃな。


 と、冷静に分析をおこなった。六都市同盟の東端に位置するピートは西にリンゲン、北西にルギィ、南西にアミンと繋がっている。この晩秋に現れたトリエル軍は、一日にしてピートを占領し、周辺の村々から金品や食料を略奪して回っている。


 いま、一番被害が多いのはリンゲンとアミンである。彼らの庇護下にある村々が次々に襲われている。小都市を守る義務がある彼らは兵を出してはいるのだが、神出鬼没なトリエルの騎兵を叩くことができずにいる。


 そのため、被害にあった小都市を中心に、

「六都市同盟は当てにならない!」

「トリエルに降伏して命だけは助けてもらおう!」

「もうだめだ。北のベルジカ王国へ逃げよう」


 と、いう悲痛な声が人々の中で広まっている。

 このままピートを中心とする平野部がトリエル王国に属すようになると六都市同盟における前線がリンゲン、ルギィ、アミンまで後退することになり、広い範囲を防衛するために常時兵力を保有しなければならない。兵力を常に維持し続ける、ということはそれだけで金がかかる。いまのトリエル王国のように略奪によって戦費を稼ぐのであればそれも可能かもしれないが、防衛に徹する六都市同盟からすれば奪いたくても奪う相手がいない。どうしても都市ごとに費用を賄わなければならない。


「なんとしてもピートを奪還するのです。それしか我らに生き残る術はありません」


 目をウロウロと左右に彷徨さまよわせながら言うのはルギィの第一人者である。彼は四十代半ばであり、本来ならば男として一番脂ののった時期であるはずなのだが精彩に欠けている。市民選挙で第一人者になる以前はルギィでも一、二番の商人であったというが大店おおだなの長としての他者を威圧する重々しさは見られない。


 ――確か、トリエル軍をはねのけたベルジカ王国のオルセオロ侯爵もかつては商人であったといいうがあのような弱々しい男なのかのう。


 デキムスがあらぬ事を考えると鋭い声が向けられる。


「老デキムス! 老デキムス! 聞いておられるのか! オルレインはいつまでに兵を集めることができるのです」


 苛立ちを隠さないクラウスに、これは危うべし危うべし、と心の中で舌をだしてデキムスは真面目くさった声で、

「春には用意できましょう。ですが、どのような進路できますのかな?」

 と述べた。


 クラウスはバツが悪そうな顔で、ルギィとアミンの第一人者をかわるがわる見ながら「同盟軍は一度、リンゲンに集結させ、一挙にピートを突く」と、言った。その言葉が終わらないうちに二人の第一人者は反発の声を上げた。


「それではアミンの防衛は誰がするのだ!」

「そうだ、アミンとルギィは防衛の兵を減らして参戦するのだぞ! リンゲンに集結した隙を狙われればひとたまりもない」


 ――ひとたまりもない、ということはあるまい。それにしてもトリエルの新王ブレダ・エツェルは優秀だな。


 デキムスは思う。ピートに劣るとは言え、ルギィもアミンも城壁を持つ都市である。壁を越えられなければトリエル軍とて手は出ないに違いない。なんといっても彼らの主力は騎兵であり、攻城戦には向いていないのだ。だが、この会議に参加している第一人者の多くはピートが一日で陥落したことに目を奪われそのことを忘れている。それがブレダの企みであるのならば、よほどの難敵である。


「では、三方から時期を合わせて軍を動かしてはいかがでしょう。北部のメスはルギィに集合し、南部のオルレインはアミンに集合する。そして集合を確認したあとでリンゲン、ルギィ、アミンの三方からピートに向かうのです。そうすれば、蛮族であるトリエルは慌てふためきながら山に逃げ帰るか。我らに対するためにトリア平原まで出てくるに違いありません」


 得意げに口を開いたのはルギィの西に居を構えるメスの第一人者であるネロ・リキニウスであった。彼は六都市同盟の第一人者の中では群を抜いて若い二十代である。十代の後半から西の大国であるベリア帝国に留学した異色の経歴の持ち主であり、メスに戻ってからはベリア帝国風の農業や軍制を導入しているという。


「おお、それは良い。トリア平原であれば、会戦に持って来いだ」

「騎兵といえど、三方を囲まれれば進退に窮するに違いない」


 ルギィとアミンの第一人者は、喜色を隠さずにネロの案に両手を挙げた。それぞれの都市が五千の兵を出せば、ルギィとアミンに集結する兵は一万になり、都市に住む住民の不安も和らぐに違いない。しかし、それではリンゲンの兵だけが五千となり急所を晒すことになる。何よりもピートとリンゲンのあいだに広がるトリア平原に敵が出てきてくれるのかは予想でしかない。


「それではリンゲンの兵力が少なすぎるのではないかな?」


 デキムスが反対の声を上げると、ネロは一瞬、眉をひそめた。次に彼が口を開こうとしたが、声が発せられる前に別の者の声によってそれは防がれた。クラウスである。


「老デキムス。ご心配はありがたい。だが、リンゲンはかつてこの地が、属州スカーナと呼ばれた時代は州都が置かれた都市です。他の都市より多い兵を投入することができます。ご心配されるな」


 抑揚に乏しい声であったが、他者の介入を拒む強い声であった。デキムスはクラウスをただの高圧的な権威者ではない、と少し見直したがそれゆえに危うさを感じずにはいられなかった。


「では、各第一人者は都市へ戻り兵の準備を行っていただきたい」


 クラウスが解散を述べるとそれぞれの代表が議事堂から出て行く。デキムスがゆるゆると席を経とうと杖に手をかけると、議事堂にまだ一人だけ第一人者が残っているのに気づいた。


「何か用ですかな。ネロ殿」

「老デキムス殿。私はあなたの業績を高く買っております。ですが、もう時代は変わりつつあるのです。あなたのオルレインが誇る重装歩兵がいかに時代遅れかお見せいたします」


 それだけ言うと、ネロは足早に去っていった。


 ――まぁ、好きに言うがいい。お手並み拝見じゃ。


 デキムスは、しわだらけになった手に杖を握りながら笑った。晩秋に行われた六都市同盟の評議会はこうして幕を閉じた。冬のあいだにやるべきことは多い。齢七十に届こうというのにまだ血が滾るというのは、御し難いものだ。そう思いながらもデキムスは顔の筋肉が緩むのを止められなかった。



「本国への食料の輸送は順調のようだな」


 トリエル王ブレダ・エツェルは本国に残っている副王オクタル・エツェルからの書簡に確認すると、悲喜が混ざり合った声をあげた。オクタルからは、ピートから拠出きょしゅつさせた小麦と周辺の六都市同盟の村々から奪った食料で直近の危機であった冬は超えることができること示されていたが、春から次の収穫までの食料の不足は確実である旨が記されていた。


 春から国庫を開いて新畑と水路の開発を行い始めても、すぐに麦を作れるわけではない。大地を耕し、石を取り除き、麦を作れる環境を整えなければならないのである。おそらく、そのために次の秋まではピートを拠点に略奪を続けることになる。


 ブレダは自分が悪王としての階段を登りつつあることを自覚しながらも、ため息を付かねばならなかった。


「好き勝手に人の国を荒らしている御仁がため息なんて、どんな悩みがあるのかしら」


 そう言ったのは、ピートの第一人者であるべリグ・ゲピディアの娘であるリア・ゲピディアであった。彼女の手には略奪行に出ているアルダリックとウァラミールの二隊から送られてくる戦利品の目録が山のように握られている。


「お前のようにキィキィ鳴いていれば悩みなどなくて良いだろうな」

「なんですって!」


 声を荒げて怒りを表すリアを小馬鹿にした表情で一瞥するとブレダは彼女から目録を奪い取った。今日のリアは、初めて会ったときと違い、裾の長い長衣に厚手のストールを身につけている。ブレダの暗殺に失敗した彼女は彼に「小間使い程度だな」、と言われた翌日から、ブレダの小間使いを律儀に行っている。


「小間使いに参りました」、とふてくされた彼女が現れたとき、ブレダは何の事か分からず「ああ」と間の抜けた返事を返した。正直のところ、彼女が行った暗殺未遂など最初から見逃す気でいたのである。彼女を罰することでべリグがトリエルに反する行動をとるようになれば、ブレダはそれに応じた処置を講じなければならない。


 そうなれば兵にかける負担も増えるうえ、ピートの住民からの風当たりもよりキツくなる。最悪、今行わせている本国への食料輸送が滞ることも考えられた。ゆえに、リアがきちんと翌日に小間使いに現れた時にブレダは非常に困ったのである。


「べリグは何か言っていたか?」

 ブレダが尋ねるとリアは「陛下に従えと言われました」、と露骨に嫌な顔で言った。こうして、リアはブレダの小間使いとして働くことになったのである。


 ブレダは彼女から取り上げた目録を机上に並べざっと並べると、一枚の目録をリアに手渡した。そこにはアミンに属する市民五百名を奴隷とする、と書かれている。


「べリグに言え。この奴隷の身代金を払え」

「はっ! あんたらのせいでピートの財政は火の車よ! 奴隷の身請けなんてするお金なんてないわよ」


 目録をブレダの手に無理やり押し返すとリアは悔しそうに目をいからせた。自分たちは降伏することでまだ市民として生きている。しかし、いま目の前に奴隷五百名と書かれている人々は降伏する事を良しとせず、最後まで戦ったに違いない。リアにはそちらの方が誇り高い生き方であるように思える。


 そんな人々を身請けすることで助けられるならどれほど良いだろう。しかし、もはやピートにはそんな余力はないのである。力がなければただ隷属しかない。その現実がリアには憎らしいのである。


「お前は馬鹿なのか。買え、と言っている。支払いには幾分の猶予ゆうよを与える。こいつらの家族から巻き上げるなり、金持ちから寄付を募るなりするがいい」


 リアはブレダの言うことが分からずに目を白黒させた。


「どういうことよ」

「馬鹿の相手は面倒だな。五百人の奴隷をトリエルに運ぶためにはその監視や警護に少なからず兵を割く必要がある。だが、お前らが買うのなら移動をさせる必要はない。それにただでさえ、飢饉で食料が少ないトリエルの人口を増やす意味はない」


 目録をもう一度、リアに持たせるとブレダはリアに父であるべリグのもとへ向かうように命じた。ブレダの言うことが分からぬままべリグにこのことを伝えると、彼はしばらく考えた後に神妙な顔で述べた。


「……随分と気前のいい略奪者もいたものだ」

「気前がいい? あの蛮族が!」


 べリグはこの正直すぎる娘がもう少し思慮というものを覚えて欲しいと願った。


「支払いを待ってくれるというのだ。気前がいいだろう。支払うまでに奴らが六都市同盟と争い敗れれば金を受け取ることはできない、というのに待つという」

「それは、傲慢と貪欲がなせる技ではないですか? 六都市同盟に負けるはずがないという傲慢。そして、奪える金はすべて奪うという貪欲。それがあの男の魂胆に違いありません」


 リアは声をさらに大きくしてブレダを批難する。


「だが、これはわしらにとって良いことだ」


 べリグは出来るだけ優しい口調で娘に語りかける。


「どこがですか?」

「六都市同盟の他の都市から見れば、ピートは裏切り者だと言っていい。早々に降伏し、仲間が略奪されているのを傍観している。」

「そんな! それはやむをえなく!」

「そうだ。しかし、全ての人はそうは思わない。我らをトリエルに取り入った、と非難するものは絶対に現れる。そのときに、ピートが陰ながら奴隷となった人々の身請けをしていたことが分かれば、非難もしにくくなるだろう。そのためにもあの男の言うとおりに奴隷となった六都市同盟の市民は我々が買い取らなければならない」


 べリグの発言を聞いて、リアは何とも言えない気持ちになった。ブレダの軍は今日も周辺の村を襲撃し、抵抗する者を殺し、家を焼き、金品を奪っているのである。それによって生じた不幸な人々を救うことでピートは、他の同盟都市からの避難を躱すことができる。そして、それを命じてきたのがほかならぬブレダだということである。


「なにかの罠じゃないの! あの男は私たちから奪うことしか考えてない。それが甘い顔を見せるのならきっと裏でよからぬことを考えてるのに違いない。お父様は騙されているのです!」

「罠であっても奴隷となる人を見捨ててはいられない。もし、彼が裏で何かを企んでいるならそれをお前が見破りなさい。お前はこのピートで唯一、彼の傍にいれるのだから」


 そう言ってべリグは、奴隷一人当たり金貨二枚の身請け代を支払う、という手形を書き上げるとリアに託した。どうにも腑に落ちないものを感じながら、リアが政庁に戻ると執務室には略奪行に出ていたはずのウァラミールが戻っていた。


「いよいよ。六都市同盟が動くか」


 余裕があるという顔でブレダが微笑む。


 ――せいぜい、慢心するがいい。同盟軍に敗北して泣きっ面で現れたらそのときは、今度こそ殺してやる。


 リアが内心で、ほくそ笑んでいると「俺が同盟軍に負けると思うか?」と、ブレダが言った。


「当然よ! 同盟は盟約に従って各都市が五千の兵を出すわ。そうすれば、最低でも二万五千であんたたち一万なんて目じゃないわ!」


 勝ち誇ったように笑うと、ウァラミールはリアをきつく睨んだが、ブレダだけは笑顔を崩さなかった。


「ウァラミール。敵は最低でも二万五千は揃えられるそうだ。こちらも数で対抗するか」

「本国から援軍を呼ばれるのですか?」


 生真面目なそうな目をブレダに向けてウァラミールが尋ねる。いま、本国に援軍を求めれば春までに五千程度の騎兵は集められるに違いない。しかし、それではベルジカ方面の防備を大幅に削ることになる。また、ただでさえ制限のある中での出兵であるのにこれ以上の戦力投入を副王と宰相が認めるだろうか。


「必要ない。別に本国に言わずとも数を揃えることはできる」

「……まさか!? 奴隷を」


 はっとした表情でウァラミールが驚きをあらわにする。奴隷を戦闘に使うという例は過去に例がないわけではない。しかし、その多くは自由という見返りを餌にした無謀にも近い突撃を強いるのである。有名なものでは、奴隷を前衛にだし敵軍が奴隷と戦い疲弊したところを奴隷もろとも殺した話もある。


 いま、ブレダがその気になれば春までに一万に近い男性奴隷を徴用できるに違いない。これに女子供も加えれば奴隷だけで三万近い数を集められるだろう。数の上では同盟軍をはるかに超えることになるが、ウァラミールとしてはブレダにそのような手を使って欲しくない、という思いがある。


「この卑怯者!」


 ウァラミールが苦言を呈する前に声を上げたのはリアであった。彼女は拳を固めてブレダに殴りかかるが、ブレダはそれをあっさりとかわすと、いつかのように彼女を投げ飛ばした。また、地面に倒れることになった彼女は目にいっぱいの涙を溜めて彼をにらみつける。


「この……蛮族め。この……」


 耳を真っ赤にしてリアはブレダを罵ろうとするが、うまく言葉が出なかった。父はこの男を気の回る略奪者、といったがそんなことはなかった。ただ非道で、残虐で、卑劣な男なのだ。


「まったく、これだから馬鹿は嫌だ。誰が奴隷を使うといった?」


 冷たい眼差しでブレダは地面に倒れたままになっているリアに手を差し伸べるが、彼女はぼろぼろと涙を流すばかりでその手を取ることはなかった。ブレダは小さく「子供か」と小さくぼやいて彼女の腕を強引に掴むと引きずるようにたたせると執務室の端にある椅子の一つに座らせた。


 ウァラミールはその姿を微妙な気持ちで見た。彼女が王であるブレダを諌めたことは彼も同様の思いであるのだが、その根本は違う。彼はブレダに王として戦いには正道を歩いて欲しい、と考えているに過ぎない。一方でリアは同じ同盟の市民が非道な扱いを受けることに怒りを覚えているのだ。根本が違うのである。


「では、一体どこから兵を集めるのです?」

「揃えるのは兵ではない」


 ブレダはしれっと述べると、卓上の羊皮紙にいくつかの指示を書き込んでウァラミールに渡した。それを見たウァラミールは多少の驚きを見せたが、「これは実に我々らしいやり方です」と誇らしげに胸を張った。リアはそれを眺めながら


 ――この蛮族は一体なんなのだろう。


 と思った。


 自分たちに抵抗した衛士達は皆殺しにしながらも、父は自分を生かす。奴隷を買い取るように仕向けたりする。そう思えば、同盟軍を倒そうとしている。中途半端に優しい、と考えてしまうこと自体がおかしい。リアは涙で歪んだ視界と同じように、自分の頭の中も歪み出しているのではないか、という錯覚に襲われた。そうでなければ、こんな風に思うはずはないのである。


 そんなまとまりのない考えに支配されているうちに、執務室からウァラミールは去っていた。ブレダは何事もなかったような鉄面皮で書類に何かを書き込んだり、下士官を呼び出して指示を与えている。


「使えない小間使いだな」


 ぼーとしていたリアにブレダはそう声をかけた。リアの頭の中に小さな火が灯る。


「うるさい! あんたが投げ飛ばすからよ!」


 すべてをブレダのせいにして彼女は立ち上がった。急に立ち上がったせいで少しだけたちくらみをしたが、なんてことはない。自分自身にそう言い聞かせた彼女は、まだ安定しない足を進めてブレダが政務を行っている机の前に立った。


「なんだ。お前の泣きっ面なんぞ見ても楽しくないぞ」

「買い取るわよ。奴隷……。全部買い取るわよ。あんたが毎日捕らえてきても。何百、何千、何万になっても全部買い取ってやるわよ。これが最初の五百人」


 リアはくしゃくしゃになった手形をブレダに手渡した。ブレダはそれを受け取ると彼女を見つめた。リアはその目から逃げなかった。このどこか変な蛮族にこれ以上負けるわけにはいかないのである。


「汚いな。お使い一つまともにできない。小間使いなど聞いたことがない」

「いいことを教えてあげるわ。賢王の下には賢臣が集まるのよ。反対に愚王の下には佞臣、愚臣しか集まらないのよ。つまり、あんたみたいな悪王には私みたいな悪い小間使いでも十分なのよ」


 リアはブレダに比肩する権力も何もなかったが、畏縮するということはなかった。


「これだから馬鹿は嫌なのだ。責任を主に押し付けるだけで反省ということをしない」


 ブレダは笑貌しょうぼうをリアにみせると「喉が渇いた」と言った。

 リアは「毒入りでよろしいですね」と言うと執務室をあとにした。脳裏に本当に毒を入れようかという思いが浮かんだが、今後いくらでも盛る機会はあるだろうと思い直した。彼女が部屋から去ると、ブレダは押さえつけていたものを吐き出すように、激しく咳き込んだ。


「もうすぐ、春の嵐が来るな」


 ブレダはそう言って口元を抑えた。

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