4話 嵐の前のなんとやら
はーいこんにちはー。私だ。
現在またもや昼休み。今回は教室で食べてるよ。皆さんのご想像通り、雪乃も一緒にな。
あの事件のような衝撃の出来事から一週間過ぎた。雪乃は相変わらず私にべったりだ。いや、アレを私が雪乃に心を許したとかなんとか都合よく解釈したのか、鬱陶しさを増しような気がする。勘弁してくれよ。
ん?私か?私は……まぁ、そうだな。心を許した、というよりは諦めた。
休み時間に本を読むフリをやめて、話し掛けてきたら答えてやるようになった。自分からは話し掛けないけど。
それに、こうやって昼食を一緒に摂るようにもなったな。……だって、コイツの場合は無視する方が疲れるんだよ。何処に逃げても捕まるし。
適当に一緒に居てやって合わせてやる方がまだマシだ。
……おい誰だよ、そうやって絆されていくんだねとか思ったヤツ。話すようになったからってコイツに対する印象が変わったわけではないからな?相変わらず鬱陶しいヤツくらいにしか思ってないからな?間違っても親友だなんて思わないからな!
黙れ。ツンデレじゃねぇよ。むしろツンドラだ。
嗚呼、私を裏切らないのは焼きそばパンだけだな。美味い。焼きそばパン大好きだ。
「ねぇねぇ、凛音ちゃん!」
「なんだい、雪乃?」
いきなり大声で話し掛けられてちょっとびっくりした。耳の横で大声出すなよ、聞こえるんだから。
ていうかコイツ、何でこんなに元気なんだ?いつでも語尾に感嘆符が付いてやがる。
「その焼きそばパンっておいしいの?」
「……ああ、君は購買で物を買った事がないんだね。そうとも。シェフが魂を込めて創り上げた一品、それがこの焼きそばパンだ。美味だとも。これはこの世に比類するべき物があるのかと問いたくなる程に美味なのだよ」
「そっかー!一口ちょうだい!」
「……どうぞ」
……うーん、この癖とも言える長々とした無駄でしかない口上をそっかの一言で華麗にスルーされた。まぁ、ほぼ全てが口からでまかせの大嘘だから、それはそれでいいんだけど……。
いちいち反応されても面倒だし、何よりいつもの事だからな。諦めよう。大抵のヤツはこれで話し掛けてこなくなるんだが。
無表情に、台詞だけは表情豊かに喋ってるから見てる方からしたら不愉快だろうし、一に十で返すなんて面倒に違いないしな。
それにしても、幸せそうな顔してやがるな。うわっ、一口じゃなくてガッツリ食ってやがるし……!
「ほんとだー!おいしいね!」
「……そうかい、それはよかった」
上機嫌で焼きそばパンを頬張る雪乃に、長々と返事を返す気には到底なれなかった。
† † † †
時は過ぎ、現在放課後。部活に所属している生徒は部活動に勤しみ、帰宅部に所属している生徒は帰る、放課後だ。
私は昇降口に向かうため一直線の廊下を歩いている。何でここはこんなに真っ直ぐなんだ?無駄に長い。
ちなみに私は誰も居ない静かな場所で本を読むのが好きなので、下校時間ギリギリまで教室に残って本を読んでいる事が多い。もっとも、最近は雪乃に一緒に帰ろうと誘われる、というよりは強引に同行させられるばかりで本なんて読めていないんだが……。
今日はHRが終わった瞬間に雪乃は取り巻きに連れ去られていったから、ゆっくり思う存分好きなだけ本が読めた。取り巻き、Good job。
アイツはかなり嫌がってたけどな。最後まで「凛音ちゃーん」って叫んでたけどな。
「凛音ちゃぁぁぁぁぁん!!!」
そうそうこんな感じで…………、って、え…………?
…………おいおいおい、何事だ。雪乃が泣きそうな顔でこっちにダッシュしてくる。そしてその後ろにはこちらもダッシュしている男子。
リアル鬼ごっこでもしてんのか?そもそも何故エントランスから校舎の中へ逃げてきた。外に逃げろよ。
……それにしても、私はどうしたらいいんだろう。
私も踵を返して走るか?いや、ここは直線だし、突き当たりまで行ってしまうと二階に上がるしかない。
しかし、このままここに立ってると大変な事になりそうだし……。何でこの廊下は直線なんだよ!教員室と教材室くらいしかないから隠れられないし!とか考えてる間にかなり接近してる!
……もういいや。諦めて、場を切り抜ける方法を考えよう。
雪乃は目の前まで来るとぴたっと止まり、素早く私の背中に隠れた。女子にしては……いや、しなくても長身な私と低身長な雪乃。完全に隠れる事ができて安心したのか雪乃はふぅ、と息を吐いた。
そして雪乃を追い掛けていた男子生徒は私の前で仁王立ちをしている。顔を見る限りかなり怒っているようだけど……、おい、何したんだ、何をやらかしたんだよ雪乃……!
まぁいい。さて、どうここを切り抜けるか……。
目の前の生徒を観察。デカいな。180超えてそう。髪型は不良っぽい。制服を見れば二年だとわかる。
いやこの人知ってるぞ。赤間先輩だろ。先輩相手に何したのコイツ。
顔はそこそこ……、訂正、かなり整っている。私の死亡に関係した人の一人だったな。具体的には覚えてないけど。……?
マジで何してくれたんだよ雪乃さんよ!
ちらっと雪乃を見ると……
「り、凛音ちゃん、助けて〜!」
「…………」
涙目で助けを請われた。駄目だコイツ、使えない。
じろっと相手を見上げる。相手もこっちを睨んでくる。
さーて、どうしたもんか……。
いつもより長くなってしまいました。相変わらず脈略が行方不明です。
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