0話 突然の記憶
脈略が行方不明。
それは突然の事だった。
最初はただの夢だったような気がするし、そうでもないような気もする。
まぁとにかく、私は寝ていた。
そして、見たのだ。
誰かの記憶のような夢を。
それはまるでアルバムを見ているように、もしくは撮影した場面を見ていくように、私の頭の中をぐるぐるぐるぐる巡っていた。
幼少期から、少しずつ育っていく誰か。
他人のようで、そうじゃない気がする誰かの。
それはとても幸せだった。
まだ幼かった私が理解できるほど。
……途中までは。
突然反転した誰かの生。
誰かは、愛されていて、望まれていて、嫌われていて、憎まれていて、疎まれていた。
どろどろの感情に包まれて。
しかし誰かは強かった。
飄々と、颯爽と、強く生きていた。
……最後まで。
最期は唐突に訪れた。
誰かは階段から突き落とされた。
常に近くにいた友人の手によって。
そして、「私」の体に激痛が走った。
背中が、首が、足が、頭が、痛い。
痛い痛いいたいイタイ痛い痛いイタイ。
そして「私」は理解した。
「私」は誰かで、「誰か」は私だ。
あれは私の記憶だ。
誰かでも、彼女でもなく、私の物だ。
しかし私は「私」の名前も、あの子の顔も、覚えていない。覚えているのは事実だけ。