11話 それ以上でもそれ以下でもなく面倒
翌日。というか翌朝。
まぁいつも通りの朝だな。
ん?昨日の晩飯?勿論、零夜も一緒に食った。
隠す必要がなくなったからか、堂々とICレコーダーで録音されたけどな。確認したところ動画も撮っていたらしい。
なんかもう怒る気も失せた。もういいや、今に始まった事じゃない……って、これ何回目だ?
閑話休題、さておき、そんなことより。
雪乃に家がバレてからは、私が家を出る時間に合わせて門の前で雪乃が待ち伏せていて、仕方なく二人で行くのが常だったが……、今日は人数が増える。
というのも、いつもは私より遅く家を出る妹弟が、今日は私達と一緒に行くと言って聞かない。
私に合わせると早すぎるから付いてこなくてもいいってのに……。
「ほら梨音眠いんだろうが。もう一回寝てこい」
「違う違う、これ眠い表情じゃなくて警戒してる顔だよ」
「何をだよ。よく見たらお前も同じ顔してるし」
「凛ちゃんを誑かす女狐め……今日こそは成敗してやる……」
「なんか安部清明みたいになってるんだけど」
眉間に皺が寄って物凄い顔になってるんだが。健全な少年少女がしていい顔じゃねぇだろ。
うーん、女狐って……雪乃の事か……?アイツが女狐ってタマかぁ?
雪乃の事はコイツらも黙認してると思ってたけど。
「今まで凛姉が嫌われようとしてたの知ってたからほっといたの。でも全然あの女凛姉から離れないし?ていうか最近もっとべたべたするようになったし?ここらで僕達がビシっと物申してあげようかなって!」
「……この数珠と札があれば……覚悟しろ女狐……」
「おい梨音に安部清明が憑依してんぞ。ちょっと祈祷師連れてこい」
「大丈夫。冗談。でもあの女は始末する」
「…………」
据わった目で言われても信用出来ないんだが。てか始末とか何この子コワイ。
……まぁ、グダグダ言っても仕方ないか。早起き頑張ってたし。
ついてくるくらいはいいか。
「そろそろ出るぞー」
「あ、ちょっと待って鞄忘れてた!」
「……先行こう」
今まで何してたんだと聞きたくなるような忘れ物をしやがった。アホか、いやアホだな紫音。
どうせすぐに追いついてくるだろうから先に行く。
玄関を出て暫くすると、案の定息を切らした紫音が追いついてきた。
そもそも、玄関から門までが遠い。
よく車とかも入ってくるから仕方ないっちゃあ仕方ないけど、せめてあと10メートルくらい距離を縮めてくれてもよかったんじゃないか。
……そういえば、二人はいつも零夜と一緒に行っていたんじゃないか?
今日はアイツは一人か……。まぁ零夜だからいいか。
「おーい!凛音ちゃーん!」
「…………」
「その苦無何処から出したんだ梨音。仕舞いなさい。そもそもお前の腕力じゃ投げたって当たらないから」
大分離れた所から雪乃が声を掛けてきた。よく見えるな。そして声が大きい。
見えるのか見えないのかは知らんが睨みをきかせながら歩く二人を連れて門の外へ。
二人を見つけて雪乃はぱぁっと顔を明るく……いや最初から笑顔MAXだったわこの子。
近付いた瞬間、腕に飛びついてくる。引っ張るな痛い。
対する二人は物凄い形相で雪乃を睨んでいた。
……この顔に怯まなかったのを褒めてやってもいいかもしれない。
「おはよう凛音ちゃん!この子達は?妹と弟だよね?凛音ちゃんそっくり!でも二人はもっとそっくりだね!」
「……朝から元気だな君は……。ああそうだ、妹の梨音と弟の紫音、双子だよ」
「「………………」」
朝から五月蠅い。騒がしい。近くで大声を出すな。
……と言ってやりたいが。今までも何度か言ったがどうも直す気が無いらしく諦めた。
ニコニコと二人を眺める雪乃と、睨みつける二人。
温度差激しすぎて合成写真みたいになってんぞ。
「私は桜野 雪乃っていうの!よろしくね、紫音君、梨音ちゃん!」
「…………気安く名前を呼ばないでくださいよ。あと凛姉に引っ付かないでください」
「凛ちゃんに……っ触るなっ……」
「え?え?ちょ、ちょっとやめてよ!」
漫画かよと言いたくなるような台詞を吐く紫音と、いつもの冷静さを失ったような梨音は二人して私の腕に引っ付く雪乃を引っ張る。
当然二人の力に敵う訳もなく、元々力が強いわけでもない雪乃は簡単に離れる。
「凛ちゃんの事名前で呼ばないで。呼んでいいのは私達だけ」
「え、あの、えと、仲良くしようよー」
「「嫌です」」
「り、凛音ちゃん……」
「……私に聞かれても困るよ……」
ここまで敵意剥き出しの二人は殆ど見た事がない。
まぁ確かに人見知りで、見知らぬ人間には多少……いや、多めの警戒心を見せる子達だったけど。
何があったのやら……。
と、また私に引っ付こうとする雪乃をがしっと捕まえて、梨音がおかしな事を言い出した。
「駄目。貴方に凛ちゃんと一緒にいる資格はない」
「……何言ってんだ梨音」
「そうだよ!私にだって資格はあるよ!」
「例えば?」
「だって私、凛音ちゃんの匂い知ってるし!」
「…………」
いやお前も何言ってんの?いつ匂いとか嗅いだの?
梨音と紫音も何をそんな真剣に聞いてんの?
「じゃあどんな匂いなのか言ってみなよ」
「柑橘系の匂い!」
「残念。最近洗剤を変えたから今はほんのりバニラの香り」
「え、うそうそどんな匂い!?」
「いや嗅がせないけど。やめろ、こっちくんな」
小学生みたいな喧嘩になってきてんだけど。
何故そんなに堂々と匂いを暴露してんだよ。お前らも一緒の匂いだろうが。
「はい失格ー。凛姉の匂いを逐一把握してないなんて受験の資格もないね」
「何言ってんだお前。受験ってこれ何の検定だよいい加減にしなさい」
「凛ちゃんの匂いくらい零夜君でも知ってる。でも私達は凛ちゃんの今日の下着の色も知ってる」
「何色!?気になる!」
…………コイツらこんなに馬鹿だっけ…………。
そして梨音よ、頼むから下着の色は言ってくれるなよ。このままじゃ勢いで言いかねないぞ。
……それより、ここで何してんだ私ら。登校する筈だよな。
早めに出てるから遅刻はしないだろうけどさぁ……。……本当に、何してんだろ私……。
「部外者に教える気はない」
「じゃあ部外者じゃなければいいの?だったら将来凛音ちゃんと結婚するから!」
「同性同士は結婚できませんよ?そんな事も知らないんですか?うわーあったま悪ーい」
「そうじゃなくて、えーと、事実婚?ってやつ!」
「認めない。凛ちゃんと一緒にいるのも認めない。結婚なんて絶対断固許さない」
……………………。
「……そろそろ、学校行こうか……」
凛音は昔から人と殆ど関わってこなかったので、異常な程の二人のシスコンぶりを普通だと思ってます。
そろそろ凛音も雪乃に対しては仮面が崩れ始めてます。主にツッコミのせいで。
そして多分逆ハーには突入しません。方針がやっと決まりました。
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