こうして「日本のアニメ業界」は衰退する クールジャパンが540億円の赤字を出して廃止検討に入ったことについて
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
先日、官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)は24日、累積損失額が540億円に達し、統廃合を視野に見直すことになるという記事がありました。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20260624-GYT1T00433/
今回は、皆さんが興味があるであろうアニメを中心に、どうしてこの企画が失敗したのか? どうするべきだったのか? 将来のアニメ業界はどうなるのか? について語っていこうと思います。
質問者:
そもそも「クールジャパン」というものがどのようなものか分からないんですけど……。
筆者:
内閣府のページによりますと https://www.cao.go.jp/cool_japan/
『クールジャパンとは、世界から「クール(かっこいい)」と捉えられる(その可能性のあるものを含む)日本の「魅力」です。
「食」、「アニメ」、「ポップカルチャー」などに限らず、世界の関心の変化を反映して無限に拡大していく可能性を秘め、様々な分野が対象となり得えます。
世界の「共感」を得ることを通じ、日本のブランド力を高めるとともに、日本への愛情を有する外国人(日本ファン)を増やすことで、日本のソフトパワーを強化します。』
とあります。
政府は計1400億円、民間を合わせて2000億円規模の出資したそうですがその内訳としては、
https://www.cj-fund.co.jp/files/investment/report_r05_01.pdf
・メディア・コンテンツ分野 アニメ、映画などIP関連部門 約680億円
・ライフスタイル分野 ファッションブランド、ヘルスケア、コスメ 約400億円
・インバウンド分野 体験型テーマパーク 約350億円
・食分野 外国における日本食のレストラン展開 約300億円
などです。
ここで注目したいのは「補助金」と言う形では無く「官民ファンドによる投資」なので「儲けようとして約2000億円投じて540億円もの赤字を出した」と言う点です。
ガチで稼ごうとして大失敗した……ここに大きな問題があるのです。
質問者:
アニメや映画部門に3分の1も出資しているのに大失敗しているというのはどういう事なんでしょうか?
世界から高く評価されているのですから儲かってもいい気もするんですけど……。
筆者:
そもそも論としてドラゴンボールやワンピースなどが世界的漫画やアニメになったことは国がアプローチせずとも「勝手に広がった」と言っても過言ではありません。
国内ですら大して広がりに欠いているものを無理やり海外でゴリ押しして上手く行くはずがありません。
つまり、「日本国内でアニメや漫画のクリエーターが働きやすくする環境整備」と言うのが最も大事であり、国が売れるか分からないものを売り出す事ではないと考えます。
「日本の優良コンテンツ成長させる」と言う方向性そのものは間違っていないと思うのですが、そこに間違った方向性と「利権」として公金をせしめとる勢力がいたために赤字と言う結果になってしまったものと思われます。
◇現状のアニメ業界の問題
質問者:
それならアニメに関してはどうすれば良かったんでしょうか……。
筆者:
まず日本のアニメ界の歴史から解説していきますと、
戦後に手塚治虫氏と言う偉大なアニメ・漫画家がいました。鉄腕アトム、火の鳥、ブラックジャックなどの作品が今見ても偉大であったと同時に普及させる戦略も凄まじいものでした。
安くアニメを作ってさらに安く売る(国内の競争力を獲得)
⇒ テレビで無料で流す
⇒ 原作売り上げ、グッズ売り上げ、コラボなどのロイヤリティで稼ぐ
この戦略で爆発的に広がり国民的な作品になりました。
しかし、後の続く作品もこの「成功体験」に乗ってしまったためにそこから不幸が生れました。
というのも、その後にはインターネットの普及や色々な趣味の多様化に伴いテレビばかり見ている状況では無くなったのです。(ちなみに手塚氏は1989年に死去)
様々なメディアミックスとそれに伴う巨大収益の大本が徐々に細くなると後には「ブラック労働」だけが残ってしまったという事です。
一方で、闇の反対側にある光の部分ではありますが、こうした安く普及して複合的コンテンツで稼ぐというビジネスモデルは中々他国には出来ないものでした。
そのために「日本のアニメ」を中心とした産業というのは独自の発展を遂げ、
世界に類を見ないものとなり、評価もされていくようにもなったのです。
逆を言えば世界的コンテンツなのに携わっている末端がそんなに稼げないのもこうした理由にあります。
質問者:
なるほど……私たちが見ているアニメには数多くの苦労された方々が関わっているという事を感謝しなくてはいけませんね……。
筆者:
僕も時間が無いので2倍速で見まくっていますけど、作っている皆さんに対する感謝の念は絶やさないようにしたいですね。
現在の日本のアニメには「手塚モデル」では無く「製作委員会」と言うものが関わっています。
製作委員会と言うのは1995年のエヴァンゲリオンを皮切りに大きく普及したものとされています。
このシステムは複数の会社の出資によって作品を完成させ、完成した後は利益分配によって各会社が潤うという方向になっています。
これによって安定した財源の確保と成功した時の爆発的な収益に繋がっているそうです(だからこそ国がコンテンツ普及そのものに金を投じるのは疑問と言えます)。
要はこの製作委員会は、特定の作品に対する「アニメ完成、利益分配を行う株式会社」と思っていただければ良いです。
ところが、この方法は「出資した会社にとっては」有益であるものの、末端の現場で働く人にとっては非常に厳しい労働環境になっているようです。
と言うのも末端の映像編集や絵を描いている方は「フリーランス」であることが多く、
激務である上に収入もままならないのが若手の世代だと思われます。
スキルが上がり、こなせる仕事量が増えれば平均年収を上回る年収になるようですが、20代で年収100万円台と言う悲惨な状況のようです。
https://www.yoani.co.jp/gyokainavi-top/animator/an-knowledge/animator-salary/
現在少子化で減っている中、各社が初任給引き上げに躍起になっている中でこの収入では成り手も出てこない状況になると思うので、先細るばかりだと思います。
質問者:
筆者:
出来ないことは無いと思いますけど、「AIはこれまでのデータ学習」にとどまるので「どこかで見たキャラ」ばかりが量産されることになると思います。
そのために、「総合的に突出した映像作品」と言うのは難しくなるのではないかと思います。
質問者:
確かに、「見飽きた作品」ばかりになったら世界的にも魅力が無くなって見えますよね……。
筆者:
汎用的な背景やサブキャラに関してはAIでも構わないかもしれませんが、
主要キャラまでAIになったらそれこそ作品の個性を失うと思いますよ。
そのために「人の手」と言うのは他の作品との差別化において絶対的に必須です。
しかし、現状の様相で「製作委員会」が利益を上げるためにはAIで人間を極力減らし
キャラクターボイスまでもAIの声にする(下地の声だけ安い声優を使う)と言った事になりかねません。
とは言え、製作委員会が乱立する中、急に全部やめろという事は不可能です。そのために別の対策が必要だと思います。
◇若手をサポートする体制にするべき
質問者:
確かにアニメのテロップの最後には大体〇〇委員会ってありますよね……。委員会の構造を維持しつつ改善する方法はあるんでしょうか?
筆者:
僕はなんやかんやで人間の力、特に若手の力を必要としていると思うので、
若手時代の数年だけでも安心して仕事できるような環境整備に資金を投じるべきだと思います。
例えばそのままアニメクリエイターになれば返済不要になる貸付などを作ることなどです。
返済期限を10年後にして、10年後もクリエイターとして働いている実績があれば返済不要(返済した分は返金)と言う制度にすればお金と生活基盤は怪しいけど熱意はある人材と言うのを続々と発掘することは可能になります。
質問者:
なるほど! 「若手の離職率」の問題や「補助金搾取」の問題も大抵解決しますね!
筆者:
これは農業の若手支援など必須産業にも応用できそうな内容ですね。
しかし現実は国は消費税のインボイス制度が低賃金クリエイターを苦しめているようなんです。
質問者:
筆者:
インボイス制度は暗に言えば大企業が消費税を負担するのか? フリーランスが消費税対象業者になって消費税を支払うのか? と言った2択を迫られる――民間を分断するような地獄のような制度です。
これによって3割の声優の方が廃業を検討したと当時ありました。
https://mainichi.jp/articles/20230907/k00/00m/040/186000c
※ただし実際に廃業したかは今調べても分かりませんでした。登録されている人数は維持されていますがほとんど稼働していない「ゴースト」と言う可能性があり得ます。
優越的地位を利用して弱い側に消費税を負担させたり、報酬を減額すると言った事が懸念されていました。
(僕もあの頃、「インボイス対策はどうしたら良いんですか?」と言う質問が関わっている方から質問ラッシュで困りました)
このような弱者いじめの政策を追加しておいて「何がクールジャパンだよ!」って言いたくなります。
質問者:
崇高なお題目があるなら、収入が低い人をイジメる制度は廃止するべきですよね……。
それはただの名目で実際は周辺のお金を取りたいだけなら別ですけど……。
筆者:
「消費税は安定財源」と言う言葉がありますけど、「安定して収入が低い人や企業から搾取している」とも受け取れることが広まれば良いなと思います。 ※逆に消費者からは徴取しておらず法人税的なシステムです。
国も一応は下請法の厳格化で「適正価格で発注しなさい」と見張りを強化する方策や
IP(著作権)維持の金融・税制支援など多少の対策はしていますけど、
根本問題が何かイマイチ分かっていない印象があります。
現状ではコストを抑えるために「AIに情報を投下するための無名声優」や「AIによる無味乾燥としたどこかにかいるキャラクターばかり」になってしまう可能性が高いように感じます。
質問者:
給料が低いと、中国に引き抜かれるかもしれないという説もあるようですが……。
筆者:
中国にクリエイターを引き抜かれている説と言うのはネット上で10年以上前から言われていますが、色々分析してみると現実的にはあまり起きていないようです。
中国は政治や収益システムが安定していないという側面と、「盗む」ことを得意としているのでわざわざ日本人を連れてくるリスクを取る必要はないようです。
ただ、現状アニメクリエイターは日本政府の政策によって枯らされた上で「使い捨て」のように扱われるかもしれない――本当に酷い話だと思います。
もっとも、現在の小説家になろうでもほとんどが生成AI作品と思わしき作品が出版までたどり着けていることから、ある程度のところまでは行けると思うので、AIがコンテンツのほとんどを占めていたとしても一定の収益性はあるんじゃないかと思います。
でも真の意味での世界から評価される「クールジャパン」からは大きく遠ざかるんじゃないかと思ってしまいますね。




