『灯りのない方角』
掲載日:2026/01/16
とりあえず読んでみてください。
Ⅰ
時計のない部屋だった。
塵だけが
そこに流れた時間を知っていた。
音も、
声も、
置き去りにされたまま。
Ⅱ
閉ざされた扉の向こうに、
かすかな気配があった。
薄明かりだけが
彼の存在を
まだ見ていた。
Ⅲ
彼は、
灯りの届かぬ方角へ
手を伸ばしていた。
ただ、
手を伸ばしていた。
Ⅳ
やがて灯りも
暗闇にまぎれ、
彼の輪郭を知るものは
いつしか
消えていった。
Ⅴ
私は
その不在を、
街のざわめきの隙間で
ふと感じとった。
それは、
誰にも気づかれずに終わった
存在の ひとつの
静かな消失だった。
読んでくださった方々、ありがとうございました。




