仇岡ベアの襲来〜仇岡ベアのミルクは絶品!!〜
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それは実りの秋に起こった。
黄色く色づいた葉が舞い、少し冷たい風が吹いていた。あきとは空を見つめて大きく息を吐いた。白い息が出るかと期待していたのだが全くそんなことはなかった。あきとは立ち上がり、バス停に向かって歩き出した。
あきとはバス停の看板が見えるとそこで立ち止まった。あきとはスマートフォンを取り出した。時刻は八時十分。少し早く着きすぎたな、とあきとは思った。ネットニュースを開き、なにか面白い話題がないかと探してみる。
アイドルの不倫、ドングリの豊作、日中関係の対立……
特に面白いものはなさそうだ。あきとはスマートフォンを鞄にしまった。
あきとは絹井牧場に勤務する二十三歳の若者だ。幼い頃から牛乳を愛してやまなかった。特に乳脂肪分の高い成分無調整牛乳はたまらない。深みのあるコクと牛乳独特の味わいが相まってそれはもう美味しいのだ。そんなわけで、牧場での仕事をとても気に入っている。
あきとは流れる車窓を眺めていた。あと三分くらいすれば絹井牧場に着く、と時計を見ながら思った。今日はいつも通り牛の世話や乳搾りをする。それに加え、病気の牛の世話をしなければならない。絹井牧場の園長は、殺処分は絶対にせずなんとしても病気の動物を助けるのがモットーだ。その考えに賛同したから、あきとは絹井牧場で働くことにしたのだ。
外の景色を見ているとあっという間に牧場に着いた。料金を払い下ろしてもらうと、冷たい空気があきとの肌に触れた。あきとは牧場の丘の上へと歩いていった。丘の上のハウスで園長に挨拶をする。
「おはようございます、絹井さん。」
「おはよう、あきと君。一気に寒くなったね。」
「そうですね。絹井さんも風を引かないように気をつけてください。」
「ああ、そうするよ。ありがとう。」
あきとは牛を放している草原へと歩いていった。絹井牧場では基本的に放牧をしている。そうしたほうが牛がのびのびと暮らせるので良質な牛乳を得られるという考えだ。歩いている途中に野獣の吠えるような音が聞こえた。あきとはきっと誰かが空のミルク缶を倒してしまったのだと思った。手伝いに行ったが、缶はそのときには倒れていなかった。きっと誰かがもう直したのだろう、とあきとは思って草原へ向かうことにした。あきとの担当は高本牛という濃厚な味わいの牛乳を出す牛だ。最初は聞いたことのない品種なので親近感が湧かなかったが、最近は慣れて愛おしく感じるようになっている。特に、ホルスタインとは違う微妙な緑色の毛並みなんて最高だ。
草原へ出てみてあきとは驚いた。遠くに不審な影が見えたからだ。さっきの野獣のような鳴き声はあいつか。目を凝らしてよく見るとそれは熊だった。
どういうことだ。ドングリは豊作のはずではないか、とあきとは思った。勇気を出して一歩を踏み出し、熊を追い払いに行こうと考えた。あきとは柔道の経験者なので、腕っぷしにはある程度自信があった。
だが、その熊が普通の熊とは違うことに気がついて足を止めた。なんと頭にはアフロが揺れていた。あきとの目にはそれは仇岡ベアにしか見えなかった。あきとは幼い頃、早く寝ないと仇岡ベアに襲われるよ、と母に脅されていた。嘘だと思っていたのだが、まさか本当にいたとは。あきとは驚いて声を上げた。
「仇岡ベアだ!!仇岡ベアが出たぞ!!」
驚いている間に、熊は一頭の牛に近づいていった。牛は逃げようとする様子もなくのんびりと草を食べている。愚図愚図してはいられない。あきとは駆け出した。
「やめろおおおお!!!!」
その声を聞き、同僚たちも集まってきた。中にはライフルやトライデント、刺股などを持っているものもいる。彼らは猛然と仇岡ベアに向かっていったが、遅すぎた。
その時、仇岡ベアは驚きの行動に出た。仇岡ベアはしゃがみ、牛の腹の下に潜り込んだ。そして牛の乳首を吸い始めた。
「おいイイイ!!やめろぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」
仇岡ベアは恐ろしい吸引力で牛乳を吸っていく。あきとは頭を抱えた。これでは今日の分の搾乳が出来ないではないか。牧場にとっては大損失だ。あきとは仇岡ベアを追った。仇岡ベアは俊敏に逃げ回るが、とうとう包囲された。怯える仇岡ベアにあきとはこう告げた。
「いいですか、私達はあなたを殺す気はありません。しかし、あなたが飲んだ分の牛乳は自分で生産してください。」
あきとはそう言うと、仇岡ベアに搾乳用バケツを差し出した。仇岡ベアは命乞いをするように下半身を搾乳用バケツに擦り付けた。すると、みるみる牛乳がバケツに溜まっていった。一同は呆然とした。未だ嘗てこんなスピードで牛乳を生産した牛がいただろうか。いや、いないだろう。しかも、熊のくせに中々品質の良さそうな牛乳を出している。仇岡ベアはバケツ一杯に牛乳を溜め、そそくさと森に帰っていった。
「……なあ、この牛乳、中々美味しそうじゃないか?」
「じゃあお前が最初に飲んでみろよ」
こんな会話が同僚たちの間で交わされた。誰が飲むかの言い争いになったので、最終的にじゃんけんで飲む人を決めることになった。
「じゃんけんぽん!!」
あきとは渾身のグーを出した。しかし周りは全員パー。あきとは抵抗したが、同僚に無理やり牛乳を飲まされた。
その時だった。口の中一杯に芳醇な牛乳の味が広がった。あきとは目を見張った。
「……美味しい。」
その言葉を皮切りに、一人の同僚が牛乳を恐る恐る飲んだ。そして一人、また一人。気づけば皆、仇岡ベアの牛乳の虜になっていた。全員がもう飲めないほど飲んだが、牛乳はまだバケツの四分の三以上も残っていた。
あきとはハウスに戻り、懐疑的な目で牛乳を眺める園長にことの経緯を説明した。園長はとても驚いていたが、牛乳に恐る恐る口を着けた。
「なんだこれは!!美味しいじゃないか!!」
園長は驚いて叫んだ。
「今すぐ仇岡ベアに、私達のために牛乳を生産してくれるように頼んでくれ!!」
あきとたちは森へ向かった。洞窟の中、木の上。あらゆるところを探したが、仇岡ベアは中々見つからない。三時間にも及ぶ捜索が功を奏し、ようやく仇岡ベアを見つけることができた。あきとは仇岡ベアに語りかけた。
「ねえ、君ねえ!!これからは僕達のために牛乳を生産してくれないか!?高本牛の牛乳はあるだけ飲んでいいから、お願いだ!!」
仇岡ベアの目が輝いた。あきとは仇岡ベアをハウスに連れて帰った。
それからというもの、絹井牧場の牛乳は一躍有名になり、なんとネットニュースにもなった。毎日のように牛乳やプリンを買う客が押し寄せ、その美味しさに感動しているのを見るのはとても嬉しかった。これも仇岡ベアのおかげだ。あきとは仇岡ベアに感謝した。
ただし、絹井牧場の牛乳が、熊が生産した牛乳であることは、お客さんには秘密である。
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