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異世界チョコたび百合風味。~女神様にもらった無限チョコと全属性魔法で、可愛い仲間と甘々気ままな異世界ライフを満喫します~  作者: かわちょう


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第5話

 チュンチュン、という小鳥のさえずりが聞こえる。

 窓から差し込む朝日の眩しさに、私はうっすらと目を開けた。


「……んぅ」


 貸してもらったベッドの寝心地が驚くほど良くて、私はしばらくの間、自分がどこにいるのか思い出せずに天井を見つめていた。

 見慣れない天井。


「あ、そうだった……私、異世界に来たんだった」


 セーラー服の襟元を整え、ゆっくりと体を起こす。

 昨夜のミリアの家族との夕食は、本当に温かかったなぁ。

 思い出して、胸のあたりがじんわりと熱くなる。


 コンコン、と控えめな音が響いた。


「ハルナさん、起きてますか? お水、持ってきたんですけど……」


 扉の向こうから、ミリアの透き通った声が聞こえる。


「あ、起きてるよ! 入っていいよ」


 ガチャリと扉が開くと、ミリアが桶に汲んだ水を持って入ってきた。

 朝の光を浴びた彼女の髪は、キラキラと金色の粒子を纏っているみたいで、私は思わず見惚れてしまう。


「おはようございます、ハルナさん。昨夜はよく眠れましたか?」

「おはよう、ミリア。うん、ぐっすり! おかげで身体が軽いよ」

「よかったです。……あの、お顔拭きますか?」

「ありがとう、助かるよ」


 私は桶の冷たい水で顔を洗い、差し出された布を手に取った。

 それはノール村特産の織物だろうか。

 驚くほど肌触りが良くて、顔をうずめるとほんのりと花の香りが鼻腔をくすぐった。


「ふわふわ……。すごく気持ちいい布だね」


「えへへ、よかったです。……では、居間に朝食を準備しておきますね」


 ミリアが嬉しそうに微笑んで部屋を出ていく。

 爽やかな水の冷たさで、残っていた眠気はすっかり消えていた。


          ◇


 身支度を整えて部屋を出ると、食卓にはすでに湯気が立ち上っていた。


 朝食は昨日とはまた違う、麦の風味が豊かなリゾットのような料理だった。

 ミリアのお父さんはすでに仕事へ出かけたそうで、私とお母さん、そしてミリアの三人で食卓を囲む。


「ハルナさん、今日はこれからミリアに村を案内してもらうのよね?」


 お母さんが優しく微笑みながら尋ねてくる。


「はい、そのつもりです。何か私に手伝えることがあればいいんですけど」


「あら、そんな。お客様に働かせるなんて」


 お母さんは恐縮しつつも、ふと思い出したように言った。


「……でも、もしお父さんを見かけたら声をかけてあげて。今日は村の南側にある荒れ地の開墾作業をしているはずだから」


「開墾、まだ続きそうなの?」


 ミリアが少し困ったような顔で聞き返す。


「ええ。村を広げるために、固い土や大きな岩がある場所を畑にしようとしているらしいんだけど、すごく時間がかかるらしくて……」


 なるほど、農作業というやつか。

 魔法を使えば、何か役に立てるかもしれない。

 女神様も「使い方は私次第」って言ってたしね!


          ◇


 食事を終え、身支度を済ませた私たちは、柔らかな朝の日差しが降り注ぐ村の通りを歩き出していた。


 ノール村は、私が想像していた「異世界の村」そのものだった。

 石畳ではなく踏み固められた土の道。レンガと木材を組み合わせた可愛らしい家々。

 どこからかトントン、カラカラとリズミカルな音が聞こえてくる。


「あれは機織りの音です。この村では織物をしている家が多いんですよ」


 ミリアが誇らしげに教えてくれる。

 通りを歩いていると、すれ違う村人たちが次々と声をかけてきた。


「おや、ミリアちゃん。そちらが噂の魔法使い様かい?」

「昨日はゴブリンを退治してくれたみたいで、ありがとうねぇ」


 みんな温かい笑顔だ。

 私のセーラー服はやっぱり目立つみたいだけど、奇異な目というよりは好意的な視線を感じる。


「みんな優しいね」

「はい。小さな村ですから、みんな家族みたいなものなんです」


 広場にある古びた石造りの井戸や、村一番の雑貨屋さん(と言っても棚が二つあるだけの小さなお店だけど)を案内してもらう。

 雑貨屋のおばあちゃんからは、「お近づきの印、リンゴだよ」と真っ赤なリンゴを二つもらった。

 異世界でも、元の世界と同じようなものは結構ありそうだ。


「わぁ、美味しそう。ありがとうございます」

「よかったですね、ハルナさん。ここのリンゴ、蜜がいっぱいで甘いんですよ」


 私たちはリンゴをかじりながら、のんびりと村の外れへと向かった。


 シャクッ、という音と共に、口いっぱいに爽やかな甘酸っぱさが広がる。


 隣を歩くミリアの横顔は、朝の光に照らされてとても楽しそうだ。

 風が吹くたびに彼女の茶色い髪がふわふわと揺れて、甘いリンゴの香りと混ざり合う。


 なんだか、デートみたい?

 何故だかそんなことを考えてしまい、私は少しだけ顔が熱くなるのを感じた。


          ◇


 村の南側へ行くと、そこには汗を流しながらクワを振るう男性たちの姿があった。

 ミリアのお父さんも、その中に混じって大きな岩と格闘している。


「お父さん!」


 ミリアが声をかけると、お父さんは顔を上げ、手で汗を拭った。


「おお、ミリアか。ハルナ様もこんなところまで」

「ハルナさん、ですよ、お父さん。……作業、大変そうですね」

「ああそうだった、ハルナさん」


 お父さんは苦笑いして、目の前の荒れ地を見渡した。


「ここは昔から地盤が固くなってまして。おまけに地中に根を張った切り株やら大きな岩やらが多くて、なかなか作業が進まないんです」


 確かに周囲を見渡せば、ゴロゴロと不格好な岩が転がり、地面はひび割れて見るからに硬そうだ。

 人力でやるには相当な重労働だろう。


 よし、ここは昨日お世話になった恩を返す時!

 私は一歩前に出た。


「お父さん、私にちょっとやらせてもらってもいいですか?」


「えっ? ハルナさんが開墾を?」


 お父さんだけでなく、周囲の村人たちも驚いてこちらを見た。

 か弱い(と思われているはずの)女子高生が土木作業を申し出たのだから、当然の反応だ。


「魔法で、少しだけお手伝いします」


 私は荒れ地の前に立ち、目を閉じた。

 イメージを膨らませる。


 まずは土を柔らかくすること。

 土の中に含まれる水分を調整し、土の粒子を細かく解きほぐしていく。


 私が地面に片手を触れると、地中からゴゴゴ……という低い振動が響き渡った。

 次の瞬間、目の前の広大な荒れ地が、まるで生き物のように波打ち始める。


「な、なんだ!? 地面が動いてるぞ!」


 あ、まずいまずい。


「すいません! 少しの間、離れてていただけますか!」


 私が大声で注意を促すと、村の人たちは慌ててその場から離れていく。


 私はそのまま地中に埋まった邪魔な岩や切り株だけを選別し、地表へと押し出すイメージを強めた。

 あれはいらない、これもそれも……。

 魔法で操作し続けること数分……。よしっ! イメージが完成した。


「『グランド・リメイキング』!」


 実際にはそんな呪文はないけれど、なんとなく響きが欲しくて口に出してみる。


 すると、まるで手品のように、地面から巨大な岩が次々と浮き上がり、そのまま一箇所に積み重なっていく。

 一方で、あんなに固かった土は、まるでケーキのスポンジのようにふかふかの黒土へと変わっていった。


 数分後。

 そこには完璧に耕され、不純物を取り除かれた広大な農地が出来上がっていた。


「…………」


 静寂がその場を支配した。

 お父さんはクワを地面に落としたまま、口をあんぐりと開けて固まっている。

 ミリアも隣で「はわわ……」と声を漏らして目を丸くしていた。


「……あ、やりすぎでしたか?」


 私が首を傾げて尋ねると、お父さんが我に返って叫んだ。


「やりすぎどころの話じゃない! これは……村の男全員で一ヶ月かけてやる予定だった作業だぞ!?」


「ええっ、一ヶ月!? ごめんなさい、そんなに大変なことだったなんて……」


「いや、謝らなくて大丈夫です! すごい、すごすぎるぞハルナさん!」


 お父さんは私の肩をガシッと掴んだ。


「みんな、見たか今の!? これが本物の魔法使い様だ!」


 お父さんの叫びを皮切りに、村人たちが一斉に歓喜の声を上げて私を囲んだ。


「すごい! 伝説の魔法使いか!?」

「これで今年は食料に困らなくて済むぞ!」

「ハルナ様、万歳!」


 もみくちゃにされる私を、ミリアが慌てて割って入って守ってくれた。


「ちょっと、皆さん落ち着いてください! ハルナさんが困ってます!」


 ミリアは私の腕をぎゅっと掴み、少しだけ頬を膨らませて村人たちを牽制した。

 その必死な姿が、なんだか可愛い。


          ◇


 作業を終えた私たちは、少し離れた木陰で並んで座り、休憩することにした。

 ミリアが用意してくれた冷たい果実水が、魔法を使った後の身体に染み渡る。


「ハルナさん、本当にお疲れ様でした。……やっぱり、ハルナさんはすごいです」

「そんなことないよ。私はただ、昨日お世話になった恩返しがしたかっただけだから」

「……そういうところが、ハルナさんらしいですね」


 ミリアは私の顔をじっと見つめ、優しく微笑んだ。

 その瞳に映る自分を見て私は少し恥ずかしくなり、ポーチからチョコを二つ取り出した。


「これ、一緒に食べよう」


「あ、チョコレート! いただきます」


 二人の口の中に、とろけるような甘い幸せが広がる。

 ミルクのコクとカカオの香りが、疲れた脳を優しく包み込んでいくようだ。


「美味しいね」

「はい、とっても」


 肩を並べて風に吹かれる時間。

 それは、元の世界にいた時には感じられなかった、じんわりと心に染み入るような穏やかなひとときだった。


「ハルナさん。……私、もっとハルナさんのこと、知りたいです」


 ミリアの手が、そっと私の手の甲に重なった。


「……もし迷惑じゃなければ、ですけど」


「迷惑なんてあるわけないよ。……私も、ミリアといっぱいお話ししたいな」


 私は笑顔で、彼女の可愛い手を握り返した。

 ミリアの手は温かくて、とても安心する。


 ふと見上げると、太陽は空の真上近くまで昇り、眩い光が降り注いでいた。

 魔法で一気に片付けたおかげで、まだお昼前だ。

 本来なら一ヶ月かかる作業を午前中で終わらせてしまったのだから、お父さんたちが腰を抜かすのも無理はない。


 その時だった。


 ぐぅぅぅぅ……。


 私のお腹から、なんとも間の抜けた音が響き渡った。


「あ……」


 な、なんでこんな時に!

 かっこいいこと言った直後にこれだもん。


「ふふ、お腹が空きましたね。一度お家に戻りましょうか。お母さんがお昼を用意して待っているはずですから」


「さ、賛成! 働いた後のご飯は美味しいからね!」


 私はごまかすように言って立ち上がると、手を繋いだまま覚えたての村への道を歩き出した。

 振り返ると、真昼の日差しが新しく出来上がったふかふかの畑を明るく照らしていた。


          ◇


 家への道を歩いていると、近づくにつれて家の中から何やら話し声――というより、お父さんの大きな声が漏れ聞こえてきた。


「本当に凄かったんだ! 地面がこう、生き物みたいにうねってだな!」


 どうやらお父さんは、私たちが休憩している間、一足先に帰っていたらしい。

 ミリアと顔を見合わせてくすりと笑い合い、扉を開ける。


「ただいま戻りました」


「あ、おかえりなさい! ハルナさん、ミリア!」


 お母さんが迎えてくれる。


「今、お父さんから聞いたわ。……開墾を一瞬で終わらせてしまったんですって? 本当にありがとう。お父さんもこれで肩の荷が下りたと大喜びよ」

「いえ、私にできることをしただけですから」


 奥のリビングでは、お父さんがまだ興奮冷めやらぬ様子で、私たちの席にコップを用意してくれていた。


「おお、ハルナさん! 待っていましたよ! さあさあ、座ってください!」


 案内された席に着くと、お父さんが私のコップに波々と果実水を注いでくれる。

 なんだかお酌をされているような……? いや、されたことないけど!


 食卓には焼きたてのパンと、野菜と干し肉を煮込んだポトフのような料理が並んでいた。

 湯気と共に立ち上る香りに、さっき鳴ったお腹がまた反応しそうになるのを必死に堪えて、私はスプーンを手に取った。


「いただきます!」


 野菜の甘みが溶け出したスープは、疲れた体に優しく染み渡る。

 ふと顔を上げると、ミリアのご両親が慈しむような目で私を見ていることに気づいた。


「……あの、どうかしましたか?」


「いやぁ、ハルナさんの食べっぷりが気持ちよくてですね」


 お父さんはそう言って豪快に笑うと、真剣な表情になって私に向き直った。


「ハルナさん。もし、これから行く当てが決まっていないなら……好きなだけ、この家にいてくれませんか?」


「えっ?」


「昨夜は一晩だけという話でしたが、ハルナさんはミリアと村の大恩人です。それに、ミリアもすっかり懐いているみたいですし」


「そうよ。部屋なら空いているし、遠慮なんていらないわ。ここを自分の家だと思って、ゆっくりしていってください」


 お母さんも、重ねて優しく言ってくれた。

 その言葉に、隣に座っていたミリアがパッと顔を輝かせた。


「お父さん、お母さん……! いいの!?」


「もちろんですとも。ハルナさんが良ければ、ですが」


 三人の視線が私に集まる。

 異世界に来て、右も左もわからない私に「居場所」を与えてくれる人たち。

 その温かさが嬉しくて、私は目頭が熱くなるのを感じた。


「……ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて……しばらくの間、お世話になってもいいですか?」


「やったぁ! ハルナさん、これから毎日一緒ですね!」


 ミリアが歓声を上げて、私の腕に抱きついてくる。

 お父さんとお母さんも、嬉しそうに微笑んでくれた。


 こうして、私のノール村での滞在が決まった。

 窓の外から吹き込む風は心地よく、これからの生活がきっと素敵なものになることを予感させてくれた。

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