表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チョコたび百合風味。~女神様にもらった無限チョコと全属性魔法で、可愛い仲間と甘々気ままな異世界ライフを満喫します~  作者: かわちょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

第23話

 しばらく空の旅を楽しんだ後。

 カナンの城壁が見えてきたあたりで、私は高度を下げ始めた。


 そのまま街の上空を飛んで入るのは、さすがにまずい。


「よし、この辺で降りようか」


 私は街道から少し離れた、人目のつかない草原を選んで着地した。

 ザサッ、と軽い音を立てて三人同時に降り立つ。


「ふぅ……到着です」

「空の旅も楽しいですけどぉ、やっぱり地面に足がつくとホッとしますねぇ」


 私たちは風で乱れた服を整え街道に戻ると、そのまま徒歩で正門へと向かった。


 門の前には、入門手続き待ちをする商人の馬車や旅人の列ができている。

 けれど今の私たちは、堂々と『冒険者・ギルド関係者専用レーン』へと足を進めることができる。


 門番さんにギルドカードを提示すると、彼女は顔なじみになった笑顔で道を空けてくれた。


「あら、おかえり『クローバー』のみなさん。今日はお仕事?」

「今日は買い出しなんです!」

「あら、そうなのね。ごゆっくり」


 彼女はそう言うと、笑顔で手を振ってくれた。

 門番さんで女性は珍しいと思うけど、ここのレーンはいつも彼女が対応してくれている。


「ありがとうございまーす!」


 私たちも手を振り返すと、賑わうカナンの街へと入っていった。


          ◇


 カナンでの買い出しを終えた私たちは、行きと同じ草原まで戻ると、再び空へと飛び立った。


 帰り道は、行きよりもずっとスムーズだった。

 風に乗って滑るように進み、あっという間に我が家へと到着する。


 私はゆっくりと高度を下げ、家の前の広場へと降り立った。


「ハルちゃん、おつかれさまです」

「いえいえ。全然疲れてないし、大丈夫だよ」


 ミリアがねぎらいの言葉をかけてくれる一方で、フィエルさんは名残惜しそうに空を見上げている。

 そして、興奮冷めやらぬ様子で何やらブツブツと呟き始めた。


「イメージ、イメージ……風を纏って、重さを忘れる……」


 どうやら彼女は、浮遊の感覚を自分の中に取り込もうとしているようだ。

 フィエルさんはあまり得意ではないというが、エルフは元々風魔法が得意な種族らしい。

 なのでこの短い時間ではあるが、彼女の中でも何か掴めるものがあったのかもしれない。


「ハルナさん、私もちょっとだけ、一人でやってみていいですかぁ?」

「お、何かつかめた?」

「わかんないですけどぉ……なんとなく、コツが分かった気がしますぅ」


 そう言うと、フィエルさんはスッと背筋を伸ばした。

 目を閉じ、意識を集中させている。


 彼女の周りに、優しい緑色の風が渦巻き始めた。


「風の精霊さん……私をふわりと、浮かせてください」


 彼女の長い金髪が、重力に逆らうようにふわりと浮き上がる。

 そして――。


 ふわっ。


 フィエルさんのブーツが、地面から数センチだけ浮いた。


「あっ! フィエルさん、浮いてます!」

「すごーい! できてるよ、フィエルさん!」


 私たちが声を上げると、フィエルさんは驚いて目を開けた。


「えっ? 本当ですかぁ!?」


 自分の足元を見て、地面との隙間を確認する。


「うわぁ! やったぁ! 私、浮いてますぅ!」


 喜びのあまり、空中でバタバタと足を動かすフィエルさん。

 すると、バランスが崩れて――。


「あ、あれっ? わわわっ!?」


 くるんっ!


 空中で一回転し、そのまま頭から地面に突っ込みそうになる。


「危ない!」


 私は咄嗟に風魔法を放ち、彼女を受け止めた。


「むぎゅっ」


 見えないクッションに顔から突っ込んだフィエルさんは、アヒルのような変な声を上げて止まった。


「ぷはっ。あ、ありがとうございますぅ。調子に乗っちゃいましたぁ……」

「大丈夫? でもすごかったよ! ちゃんと浮いてた!」

「はい! 見よう見まねでできるなんて凄いです」


 私たちが駆け寄って褒めちぎると、フィエルさんは照れくさそうに頭をかいた。


「えへへ……ハルナさんのイメージのおかげですぅ。これなら、練習すればもっと自由に飛べるようになるかもしれません!」


 彼女の瞳には、新しい挑戦への炎がメラメラと燃えていた。


          ◇


 午後はそれぞれ、思い思いに過ごすことにした。

 というか、ここしばらく怒涛の日々だったので、久しぶりの完全なオフだ。


 フィエルさんは、日当たりのいいリビングの窓際で、クッションを並べてお昼寝タイム。

「むにゃ……幸せですぅ……」と幸せそうな寝息を立てている。


 ミリアは広々としたキッチンで、買ってきた食材や調理器具を嬉しそうに並べ、配置を考えているようだ。

 その様子は、新しいおもちゃを買ってもらった子供のようで微笑ましい。


 私はというと、自分の部屋に戻りベッドでゴロゴロ。

 窓から見える青い空を眺めながら、ただただぼーっとする贅沢を噛み締めていた。


 「……」


          ◇


 「――はっ!」


 ふと目を覚ますと、窓の外はもう茜色が引いて、深い藍色が空を侵食し始めていた。


 あ、いつの間にか寝ちゃった……。


 私はベッドから立ち上がり、髪を手櫛で軽く整えると部屋を出た。


 すると「寝ちゃってましたね?」と、エプロンを掛けながら、いたずらな笑みを浮かべるミリアがいた。

 ちょうど食事の準備が終わったところらしい。


「あはは、ついウトウトしちゃってたよ……もう夕飯?」

「はい! 昨日の夕食は忙しくて出来合いの物でしたから、今日は張り切っちゃいました!」


 リビングには、ミリアが腕によりをかけて作ったご馳走が並んでいた。


「わぁ! すごい!」


 湯気を立てる焼きたてのハンバーグ、具だくさんのスープ、彩り豊かなサラダが食欲をそそる。


「冷めないうちにいただきましょう。ハルちゃん、フィエルさんを呼んできてもらえますか?」

「あ、フィエルさんもまだ部屋かな?」

「はい。お部屋の整理をするって戻ったまま静かになっちゃって」

「ふふ、私と同じで寝ちゃったかな。了解、起こしてくる!」


 私はフィエルさんの部屋へと向かった。


 コンコン。


「フィエルさーん、朝……じゃなくて、夜だよー。ご飯できたよー」


 ノックをして声をかけるが、返事がない。

 予想通りではある。


「入るよー?」


 そっとドアを開けると、夕闇に沈む部屋の中で、ベッドの上に丸まったシーツの塊があった。


「すーすー……むにゃ」


 気持ちよさそうな寝息が聞こえる。

 長い金髪が枕元に広がり、どこか神秘的なのに、口元が緩んでいるのがフィエルさんらしい。


「おーい、フィエルさん。起きないとご飯なくなっちゃうよ?」


 私が枕元で囁くと、長い耳がピクリと動いた。


「……ごはん?」

「そう、今日はミリア特製のハンバーグ!」

「!!」


 その単語が聞こえた瞬間、毛布の塊がバッと跳ね起きた。


「は、ハンバーグ!? 食べますぅ! 起きますぅ!」


 フィエルさんは瞬時に覚醒し、ベッドから飛び降りると、目にも留まらぬ速さで髪を整え始めた。

 食い意地……いや、食への情熱が凄まじい。


「ささっ、行きましょうハルナさん! 冷めないうちに!」

「あはは、早いなぁ」


 私たちがリビングに戻ると、ミリアが笑顔で迎えてくれた。


「ふふ、フィエルさん、おはようございます」

「おはようございますぅミリアさん! んん~っ! いい匂いですぅ!」


 フィエルさんは席に着くなり、ハンバーグを前にして目を輝かせた。

 私たちも席に着き、手を合わせる。


「「「いただきます!」」」


 ナイフを入れると、肉汁がじゅわっと溢れ出した。


「ん~っ! 美味しい!」

「お肉が柔らかいですぅ! 口の中で解けますぅ!」


 肉汁たっぷりのハンバーグに、新鮮な野菜のサラダ、そして具だくさんのスープ。

 どれもこれも美味しい!


 私たちはわいわいと話をしながらも、あっという間に完食してしまった。


          ◇


 そして食後は、お待ちかねのバスタイム!


「わぁ! 広いですぅ!」

「窓からお星様が見えますよ!」


 自慢のお風呂には、私が火魔法で適温にしたお湯がたっぷりと張られている。

 三人で入っても余裕の広さだ。


「まずは体を綺麗にしましょう!」


 ミリアが椅子を持ってきて、私の後ろに座った。


「ハルちゃん、背中流しますね」

「うん、ありがとう。じゃあ、私はフィエルさんの髪を洗ってあげようかな」

「えへへ、お願いしますぅ」


 フィエルさんが私の前にちょこんと座る。

 私は彼女の長い金髪にたっぷりとお湯を含ませ、石鹸で泡立てていく。


「わぁ、泡がいっぱいですぅ。帽子みたいですねぇ」

「動かないでねー。目に入っちゃうよ」


 指で頭皮を優しくマッサージすると、ほんのり赤く染まった耳がふにゃりと垂れてきた。

 相変わらず可愛い。


 背中からは、ミリアがタオルで丁寧に洗ってくれる感触が伝わってくる。


「ハルちゃん、痛くないですか?」

「うん、大丈夫。気持ちいいよ」

「よかった。もっと綺麗にしますね」


 そんな風にお団子みたいにくっついて、お互いの体を洗い合う。

 異世界に来た当初はものすごーく恥ずかしかったけど、今では一緒にお風呂に入るのが当たり前になっている。


 慣れってすごいよね!


 肌と肌が触れ合う温もりと、石鹸の優しい香り。


 (なんか安心する……)


 一通り洗い終わると、私たちは湯船に浸かった。


「ふはぁ……気持ちぃ~」


 お湯に肩まで浸かると、溜まっていた疲れがじゅわ~っと溶け出していくようだ。


「ふふ、やっぱり広いお風呂はいいですね」

「ですねぇ~。手足を伸ばしてもぶつかりませんよぉ」


 フィエルさんがバタ足をして、お湯を跳ね上げる。


「こらこら、暴れないの」


 私は苦笑いしながら、大きな窓の外に目を向けた。


 そこには、空いっぱいに広がる満天の星々が見える。


「うわぁ……」


 誰からともなく感嘆の声が漏れる。


「月が、とっても綺麗ですね」

「本当だね」

「星も降ってきそうですぅ」


 湯気越しに見るその景色は幻想的で、日本にいた時の写真や、画面越しでは見ることのできない、本物の輝きがそこにあった。


「こんな景色を毎日見られるなんて、贅沢だよね」

「はい、本当に……少し前まででは考えられなかったです」

「ずっと三人でこの景色を見ようね」

「はい!」「もちろんですぅ!」


          ◇


 お風呂から上がり、ポカポカに温まった体でリビングに戻った私たちは、妖精の風(ドライヤー)で髪を乾かし合う。

 ドライヤーは現代のもの以上にハイパワーで、髪もあっという間に乾いていく。


 そして少し雑談をしたのち、それぞれの部屋に戻ることにした。


「おやすみなさぁい、ハルナさん、ミリアさん」

「おやすみなさい」

「うん、おやすみ!」


 新しい自分の部屋。

 真新しいシーツの匂いがするベッドに潜り込む。


 静かだな。


 宿屋の時とは違う静寂。

 湖のさざ波の音だけが、遠くから微かに聞こえてくる。


「ふぅ」


 一人で寝るのは、いつぶりだろう。

 快適なはずなのに、広すぎるベッドがなんだか少しだけ寂しいような気もする。


 そんなことを考えて、うとうとし始めた時だった。


 コンコン。


 控えめなノックの音がした。


「ハルちゃん? 起きてますか?」

「ミリア? どうしたの、入っていいよ」


 ガチャリとドアが開き、枕を抱えたミリアが顔を覗かせた。

 月明かりに照らされた彼女は、少し恥ずかしそうに俯いている。


「その、お部屋が広くて静かで……なんだか落ち着かなくて」


 ミリアは抱えた枕に顔を半分埋めながらこちらを見つめた。


「今日は一緒に寝ても、いいですか?」


 トクンッ!


 不意打ちの可愛さに、心臓の音が聴こえた気がした。

 寂しかったのは、私だけじゃなかったんだ。


「も、もちろん! 入って」


 少しドギマギしながらも布団をめくって手招きすると、ミリアは安堵したように目元を緩ませた。


「はいっ!」


 トテトテとこちらに走り寄り、慣れた様子で私の隣に潜り込んでくる。


「あったかいです」

「うん、落ち着くね」


 ぴったりと身を寄せ合うと、ミリアの体温と甘い香りが私を包み込む。


「ねえ、ハルちゃん。明日は何をしましょうか?」

「んー、そうだなぁ。せっかくだし、庭の手入れでもしようか? フィエルさんがお花植えたいって言ってたし」

「ふふ、いいですね。私、ハーブも育ててみたいです。料理に使えますから」

「いいね。採れたてハーブの料理、楽しみだなぁ」

「はい、お料理頑張りますね」


 私の腕の中で、ミリアが嬉しそうに微笑む気配がした。


「あ、少し庭のお手入れしたら、私はギルドで簡単な依頼を受けてこようかな。お金もしっかり稼がないとだしね」

「私たちも行きますよ?」

「ううん。明日はゆっくりしててほしいんだ。一人でもできそうなのをサクッと片付けてきちゃうから!」

「ふふ、ハルちゃんは働き者ですね」


 そうしてしばらく、とりとめのない話していると、ミリアの声がだんだんとゆっくりになっていく。


「ずっと、一緒ですよ……ハルちゃん」


 安心しきったその吐息が、私の胸元をくすぐった。


「うん。ずっと一緒だよ、ミリア」


「えへへ……おやすみなさい」


 ミリアは私の胸に顔を埋め、すぐに安心したような寝息を立て始めた。

 彼女の柔らかな髪を梳いていると、その手触りの心地よさに誘われるように、私の意識も微睡みの中へ沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ