第21話
翌朝。
私たちは宿屋『陽だまり亭』の食堂で、湯気の立つ朝食を囲んでいた。
「んん~っ! このお肉、カリカリで美味しいっ!」
私がフォークに刺した薄切りお肉を頬張ると、ジュワッと脂の甘みが口いっぱいに広がる。
とろとろの半熟目玉焼きを絡めれば、美味しさ倍増だ。
「ハルちゃん、口の端にソースが付いてますよ?」
隣に座ったミリアが、ハンカチでそっと私の口元を拭ってくれる。
その指先が唇に触れて、朝からちょっとドキッとしてしまう。
「あ、ありがと……ミリア」
「ふふ、どういたしまして」
そんな私たちの前で、フィエルさんがパンをもごもごと頬張りながら呟いた。
「お家はできましたけどぉ……まだ中身は空っぽですねぇ」
そう。
昨日、私の土魔法で立派な(?)豆腐ハウスこと『クローバーハウス』は完成したものの、中はほとんど空っぽだ。
家具もなければ、料理をする道具もない。
何より……。
「窓とドアが、まだ穴の状態ですしね。このままじゃ虫さんも入り放題ですし、不用心すぎます」
ミリアがもっともな指摘をする。
確かに、壁に穴が開いているだけの家では、セキュリティもプライバシーもあったもんじゃない。
夜中には風が吹き込んでくるだろうし、雨でも降ったら大惨事だ。
「というわけで! 今日は『新生活・お買い物ツアー』を実施します!」
私が拳を突き上げると、二人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
「賛成です! お台所用品、たくさん見たいです!」
「私はふわふわのベッドが欲しいですぅ!」
目的は二つ。
一つは、生活に必要な日用品や魔導具を揃えること。
もう一つは、あの穴だらけの開口部をなんとかしてくれる業者さんを探すことだ。
私たちは準備を整えると、期待に胸を膨らませてカナンの街へと繰り出した。
◇
向かった先は、大通りから少し入った通りにある、カナンでも人気だという魔導具店『マジカル・ライフ』。
簡素な石造りの建物の煙突からは白い蒸気が上がり、ショーウィンドウには歯車と水晶が組み合わさった不思議な機械が並んでいる。
異世界ならではの雰囲気に、私のテンションも上がる。
チリンチリン♪
軽やかなベルの音と共に扉を開けると、店内は所狭しと並べられた魔導具たちで溢れかえっていた。
微かな金属とオイルの匂い、それに魔力の気配が混じり合う独特の空間だ。
「いらっしゃい! あら、可愛らしいお嬢さんたちね。新生活の準備かい?」
カウンターの奥から現れたのは、作業用エプロンをつけ、赤茶色の髪をポニーテールにまとめた快活そうな若い女性だった。
「はい! 家を建てたので、いろいろ揃えたいんです。……あの、店主さんですか?」
「そうだよ。あたしはアンナ。よろしくね」
「私はハルナです。二人は同じ冒険者パーティーのミリアとフィエルさん」
アンナさんは「若い女の子たちが冒険者かい!」と楽しそうに笑って、店内を案内してくれた。
まず私たちが釘付けになったのは、キッチンコーナーだ。
「わぁ! これが噂の『魔導コンロ』ですか?」
ミリアが目を輝かせて駆け寄ったのは、金属製の台座にガラス質のプレートが嵌め込まれた、IHヒーターのような魔導具だった。
「そうよ。火属性の魔石をセットして、このつまみで魔力の出力を調整するの。火加減も自由自在だよ」
アンナさんが実演してみせると、プレートの上に青白い炎がボッと浮かび上がった。
「すごいです! これなら強火もとろ火も思いのままですね」
ミリアが真剣な眼差しでつまみをいじっている。
その横顔は、完全に「料理人」の顔だ。
「これがあれば、焼き加減が難しいお菓子も失敗しません!」
「えっ、本当!? じゃあこれ買おう!」
ミリアの手作りお菓子。
その響きだけで私は購入を決意し、値札を見た。
「えーっと、お値段は……」
――8万ユリー。
「は、はちまん……」
た、高い。
いや、貯金もあるから買えないことはない。
でも、これから日用品を買ったり、それにドアや窓の工事費用もかかるし、当面の食費も必要だ。
「うーん……」
私が唸っていると、ミリアがそっと私の袖を引いた。
「ハルちゃん。今回は、我慢しましょう」
「えっ? でも、ミリア欲しそうだったし……」
「大丈夫です。土魔法で台座を作って、火魔法で火加減を調整すれば、お料理はできると思います」
ミリアは自分に言い聞かせるように、ニッコリと笑った。
「それに、不便なところから少しずつ揃えていくのも、新生活の楽しみだと思うんです!」
「ミリア……」
なんていい子なんだ!
しっかり三人での生活のことを考えてくれている。
私は彼女の手を強く握った。
「わかった。カマドもしっかり作るからね! 細かい制御が必要そうな魔法は任せて!」
「ふふ、分かりました」
ということで、魔導コンロは見送ることにした。
他にも氷結庫(冷蔵庫)や魔導給湯ユニットなど、便利な魔導具がたくさんあるけれど、どれも今の私たちには高級品だ。
というより、私の魔法でなんとかなりそうなものはひとまず後回しにした方がいい。
うぅ、いつかお金持ちになったら絶対迎えに来るからね!
私が未練がましく商品を見つめていると、フィエルさんが別の棚から声を上げた。
「これってなんですかぁ? ラッパみたいな形してますけどぉ」
そんな時にフィエルさんが手に取ったのは、グリップのついた筒状の道具。
ラッパ上になった筒のグリップ側には、魔石を嵌めるであろうスロットがついている。
「それは『妖精の風』って呼んでるよ。スロットに風と熱の魔石をセットして、温かい風を出して髪を乾かす道具さ」
アンナさんが説明してくれる。
「魔石が別売りな分、本体価格はぐっと抑えてあるよ。好みのランクの魔石を使えるから経済的でしょ」
(あ、ドライヤーだ!)
お風呂上がりに自然乾燥だと、ミリアやフィエルさんみたいな長い髪は大変そうだもんね。
三人で暮らすなら毎日使う必需品だ。
お値段を確認すると、3000ユリー。
これなら買っておいてもいいかも。というか、魔石がないだけでこんなに安くなるんだ。
「へぇ~! 私の髪も、これならすぐ乾きそうですぅ」
「お値段も安めですし、これは便利かもしれませんね」
確かにみんなで使える便利アイテムだ。
お互いに髪を乾かし合ったりするのもいいかもしれない。
「アンナさん、これください!」
私は二人の様子を見て、即購入を決めた。
「毎度あり! お目が高いねぇ」
結局、魔導具コーナーでの購入はこれ一つに留めることにした。
節約、節約!
◇
さて、ドライヤーの本体は買ったけれど、これを動かすには別途「燃料」が必要だ。
そう、魔石である。
「アンナさん、これに使う魔石も買いたいんですけど」
「あいよ。火と風の魔石だね、どれにする? うちは充填済みの良質なやつが揃ってるよ」
アンナさんが棚を指差す。
色とりどりに輝く魔石が並んでいる。
赤は火、青は水、緑は風、黄色は光。
安いものは1000ユリーから、高いものは5000ユリー以上と、結構なお値段だ。
ドライヤー本体が安く買えても、こちらのお値段が馬鹿にならない。
その時ふと、棚の隅にある色のついていない透明な石が目に入った。
「あれは?」
「ん? ああ、あれは『無属性』の魔石、つまり空っぽの魔石だよ。自分の魔力を込めて使うんだけど、充填にはかなりの手間がかかるし、属性適性も必要だからあんまり売れないんだ」
空っぽの魔石。
昨日、お風呂の件でフィエルさんが言っていた仕組みを思い出す。
――魔石は魔力を溜め込んだり、放出したりする性質がありますからねぇ。
私には、女神様からもらった「全属性」適性と、膨大な魔力がある。
ということは、自分で充填できちゃうんじゃない?
「アンナさん、それっておいくらですか?」
「これかい? 空っぽだからねぇ、一つ700ユリーだよ」
700ユリー。充填済み魔石に比べたら格安だ。
照明代わりにしたり、冷蔵庫代わりにしたり、そのほかにも色々試したいこともある。
「じゃあ、えっとー……15個ください!」
私は思い切って多めに購入する事にした。
「えぇっ? そんなに買ってどうするんだい? 自分で詰めるにしても、魔法使いが交代でやって一日はかかるっていうよ?」
アンナさんが呆れたように言うけど、「大丈夫です!」と、私はニヤリと笑った。
「あ、それでアンナさん。15個で1万500ユリーですけど……切りよく1万ユリーに……なんてどうですか? まとめ買いってことで!」
私が上目遣いでお願いすると、アンナさんは「やれやれ」といった様子で楽しそうに笑った。
「ははっ、しっかりしてるねぇ。いいよ、1万ユリーで!」
「やった! ありがとうございます!」
私は代金を支払い、購入したばかりの透明な魔石を一つ手に取った。
「えへへ、ちょっと試してみたいことがあって。……ミリア、フィエルさん、見ててね」
イメージするのは、燃え盛る炎のエネルギー。
それを、この小さな石の中にギュッと圧縮して封じ込める感覚。
「……えいっ!」
私が魔力を流し込むと、透明だった魔石がカッと強く発光した。
そして次の瞬間には、内側からギラギラと燃えるような真紅の輝きを放ち始めた。
「なっ……一瞬で!?」
「さすがハルちゃん!」
「さっすが師匠~!」
アンナさんはカウンターから身を乗り出し、隣ではミリアとフィエルさんが満面のドヤ顔を決めている。
「えへへ、火属性は得意なんです!」
アンナさんの口は空いたまま、しばらく固まっていた。
「はぁ……大したもんだねぇ。これなら高級な魔石代がタダ同然だ」
アンナさんは頭をかきながらも、どこか嬉しそうに笑った。
「ハルナちゃん、もしよかったら、今度魔石を売りに来てよ。うちなら高値で買い取るからね」
「わかりました! じゃあおまけしてくれたお礼に、一つ充填させてください」
「いいのかい?」と驚くアンナさんに、私は空の魔石を一つ手に取ると、先ほどと同様に魔力を込め手渡した。
「ありがとうね、ハルナちゃん! これは高く売れそうだよ」
「どういたしまして」
魔力はタダだし、今後もお世話になるかもしれないからね。
もしかしたらギルドの報酬だけじゃなくて、魔石に魔力を充填して売る、っていうお金の稼ぎ方もありなのかもしれない。
レジで会計をしている時、私は思い切ってアンナさんに相談してみた。
「あの、アンナさん。実はもう一つ困っていることがあって……」
「ん? なんだい?」
「家は建てたんですけど、その……窓とドアがなくて、穴が開いてるだけなんです」
私が事情を話すと、アンナさんは目を丸くして、それから「ははっ!」と吹き出した。
「穴が開いてるだけって! それはずいぶんと豪快な家だねぇ! まあ、事情は察したよ」
アンナさんは笑いながら、一枚のメモを書いてくれた。
「知り合いに腕のいい建具屋がいるんだ。ドワーフの親方なんだけどね、規格外の仕事も面白がってやってくれるはずだよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「窓枠やドアは、ありあわせのものでいいなら在庫があるはずだし、一度話してみてもいいかもね」
なるほど、その手があったか。
既製品の枠を穴にはめ込んで、もしサイズが合わなくても大丈夫。
(隙間ができちゃっても、私の土魔法で埋めて固定しちゃえばいいんだ!)
それならオーダーメイドで作るより、ずっと早くて安く仕上がる。
「ご紹介助かります。ありがとうございました!」
これで最大の問題だったセキュリティ面も解決できそうだ。
◇
魔導具店を出た私たちはまず、その建具屋さんに行く途中にある雑貨屋さんに立ち寄った。
「それじゃあ、まずは毎日使うものを揃えましょう!」
ここではミリアが主導権を握る。
彼女が真っ先に選んだのは、鉄製の頑丈そうなフライパンと、大小の鍋。それに切れ味の良さそうな包丁とまな板だ。
「魔導具は高くて買えませんでしたけど、これだけは譲れません。美味しいお料理を作るためですから」
ミリアが真剣な眼差しで道具を選んでいる。
その姿は頼もしくも、やっぱり可愛い。
「あとは、お皿とコップですね。三人お揃いのものがいいです!」
「私はふわふわのタオルが欲しいですぅ!」
フィエルさんも楽しそうに商品を手に取る。
お揃いのコップに、木製のスプーンとフォーク。
生活に必要な細々としたものをカゴに入れていく。
カゴの中身はごく普通の日用品ばかり。
でも、これを使って三人で暮らすんだと思うだけで、ワクワクが止まらない。
会計を済ませ雑貨屋さんを出た私たちは、紹介してもらったドワーフの建具屋『石の金槌』へと向かった。
◇
お店の奥からは、カンカンと小気味よい金属音や、木を削る音が響いてくる。
「ごめんくださーい!」
私が声をかけると、奥から髭をたくわえた、筋肉隆々のドワーフのおじさんが出てきた。
背は私よりも小さい。
これが、ドワーフか……
「いらっしゃい……ん? ずいぶんと可愛らしいお客さんだな」
店主さんは少しぶっきらぼうだけど、職人らしい鋭い瞳の中に優しさが感じられた。
私はアンナさんに書いてもらったメモを見せながら、事情を説明した。
新しく家を建てたこと。
でも、窓とドアがなくて穴だらけなこと。
「ほほう……家を建てたはいいが、風通しが良すぎるってところだな」
親方は私の説明を聞いて、「ガハハッ!」と豪快に笑い飛ばした。
「ぜひ現場を見て、俺の最高傑作をはめ込んでやりてぇところだが……」
親方はそこで言葉を切り、申し訳なさそうに頭をかいた。
「あいにく、今は急ぎの注文が立て込んでてな。猫の手も借りたいくらい忙しいんだ。現地に行って取り付け工事をする時間は、しばらく取れねえ」
「そ、そうですか……」
私ががっくりと肩を落とすと、ミリアとフィエルさんも残念そうに眉を下げた。
やっぱり、そう上手くはいかないか。
このままでは、セキュリティゼロの穴だらけハウスのままだ。
すると、親方は顎髭を撫でながら店の奥を指差した。
「だがまあ、アンナの紹介だしな。……嬢ちゃんたちだけでできるかわからねえが、『枠付きの既製品』なら在庫があるぞ」
さっきアンナさんが言ってたものだろうか。
「ありあわせのっていうやつでしょうか?」
「ああ、そんなとこだ。最初から木の枠に固定されてるやつでな。これなら穴にはめ込んで、隙間を漆喰やなんかで埋めるだけで済む。……ま、素人にはその『埋める』作業がちと骨だがな」
やっぱり。たぶん想像通りなら、私の魔法で解決できる。
「親方、それ見せてください! 取り付けは自分たちでなんとかします!」
「ほう、若いのにいい度胸だ。ついてきな」
案内された倉庫には、様々なサイズのドアや窓がずらりと並んでいた。
私たちは採寸メモ(だいたいで測ったものだけど)を片手に、在庫を確認していく。
「えっと、まずは玄関のドア……あ、これとか良さそう! 頑丈そうだし」
私が見つけたのは、厚みがあり、落ち着いたダークブラウンの木で作られた立派なドアだ。
「あ、その彫刻、素敵ですぅ。蔦の模様が入ってますねぇ」
フィエルさんがドアの装飾を指でなぞりながら、目を輝かせている。
「はい。温かみがあって、これなら玄関にぴったりだと思います!」
ミリアも気に入ってくれたようだ。
満場一致で、玄関ドアはこれに決定。
「次はトイレ! ここも重要だからね……」
「あ、ハルちゃん。この磨りガラスが入ったのなんてどうですか? 可愛いお花柄です」
ミリアが指差したのは、木目の美しいブラウンのドアだ。
中央にはめ込まれた磨りガラスが、いい味を出している。
「いいですねぇ。落ち着いた大人の雰囲気ですぅ」
「うん、それにしよう! よし、まずはこの二つで」
私は値札を見て、思わず言葉を失った。
玄関のドアが7万5000ユリー。
トイレのドアが3万8000ユリー。
合わせて、11万3000ユリー。
「結構、高いんですね……」
「ですねぇ……。」
後ろでミリアとフィエルさんもため息をつく。
確かに物はいい。一生物と考えれば安いかもしれない。
でも、ここからさらに窓まで揃えようとしたら……。
「窓まで買うと、お財布が心配です……」
ミリアも不安そうに呟く。
貯金があるとはいえ、家具や寝具、今後の生活費を考えると、ここで一気に使い切るわけにはいかない。
「うぐぐ……。窓はまだ布とかで塞げばなんとかなるけど、ドアは防犯上も必須だもんね」
泥棒や魔物が入ってきたら大変だし、トイレのドアがないのは精神衛生上よろしくない。
私は苦渋の決断をした。
「……今回は、ドア二つだけにしよう。窓はまたお金が貯まってから!」
「賛成です。まずは安全確保が第一ですから」
「私の部屋の窓は後回しでいいですよぉ。風通しがいいってことですし!」
二人の同意を得て、私は親方に向き直った。
「親方、今日はこの玄関のドアとトイレのドアだけでお願いします!」
「おう、わかった。無理せず少しずつ揃えていくのも家を作る楽しみってもんだ。合わせて11万3000ユリーだ」
私は震える手で代金を支払った。
お財布が軽くなった気がするけど、これで安心が買えるなら安いものだ……と思いたい。
「でもこれだけの荷物、どうやって運ぶんだ? 配送となると金がかかるぞ」
心配する親方の前で、私はニヤリと笑った。
「大丈夫です! 魔法で運んじゃいますから!」
私は空間に手をかざし、『アイテムボックス』を展開した。
そして、巨大なドア枠を、次々とその中へ放り込んでいく。
「な、なんだそりゃあ!?」
親方が腰を抜かしそうになるのを横目に、私は苦笑いしながら小さく会釈をした。
「それじゃあ親方、ありがとうございました」
「お、おう……気をつけてな」
私たちは「すげえ嬢ちゃんたちだな……」と、ぼそっと呟く親方に見送られ店を後にした。
◇
それからしばらくの間、私たち『クローバー』の毎日は、まさに鬼のように「稼ぐ」日々だった。
朝食を食べるとすぐにギルドへ向かい、依頼を受注。
街の外へ繰り出し、魔物討伐や採取に精を出す。
「フィエルさん、右をお願いっ!」
「お任せをぉ! そこっ!」
「逃がしません! 『ファイアーボール』!」
フィエルさんの弓が正確に魔物を射抜き。
ミリアも守りや牽制だけでなく、状況を見て魔法で迎撃。
「とどめっ! 『トルネード・エッジ』!」
最後は私が魔法を叩き込む。
日を追うごとに私たちの連携は洗練されていき、依頼の達成スピードも上がっていった。
ギルド内での評価も上々で、報酬も順調に貯まっていく。
そして、お金が貯まると『石の金槌』へ走り、窓枠やドアを購入。
マイホームに戻って、私の土魔法でガッチリと固定する。
そんな日々を繰り返すこと、2週間ほど。
ついに、その日はやってきた。
◇
「……できた」
変わらず湖畔に佇む一軒の石造りの家。
かつてはただの「豆腐」だったその箱には、今は立派な木のドアが取り付けられ、壁にはみんなでが選んだ窓がぴったりと収まっている。
窓ガラスは陽の光を反射してキラキラと輝き、煙突からは、試し焚きしたカマドの煙が細く立ち上っている。
内装も簡易的ではあるけれど、ベッド(これは地魔法で作った)やテーブル、椅子が並び、生活の準備が整っている。
飾り気はないけれど、どこからどう見ても立派な「家」だ。
「やりましたね……ハルちゃん」
ミリアが感無量といった様子で、潤んだ瞳で家を見上げている。
「はいっ! 私たちの汗と涙の結晶ですぅ!」
フィエルさんも、バンザイをして喜びを表現している。
涙は無かったけどね……
ここにあるもの一つ一つに、私たちの思い出が詰まっている。
「うん……。今日から、ここから……新生活スタートだよ!」
私が宣言すると、二人が私の両脇にぴったりと寄り添ってきた。
「はい! やっと、私たちの新しい毎日が始まるんですね」
「楽しみですぅ! 今日のご飯はなんでしょ~! じゅるり」
温かい体温と、弾むような声。
これからここで、三人で笑ったり、美味しいものを食べたりして過ごしていくんだ。
私は胸の奥からこみ上げてくるワクワクを噛みしめながら、二人の肩を抱いた。
「さあ、帰ろう! 私たちの家に!」
「「はいっ!」」




