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異世界チョコたび百合風味。~女神様にもらった無限チョコと全属性魔法で、可愛い仲間と甘々気ままな異世界ライフを満喫します~  作者: かわちょう


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第20話

 目の前に広がるのは、空の青をそのまま映し出したような、澄み切った巨大な湖。


 水面は穏やかな風に撫でられ、キラキラと宝石を散りばめたように輝いている。

 対岸に見える森の緑と、遠くにそびえる山々の稜線は、まるで絵画のようだ。


 そんな湖畔の前に、私たちは立っていた。


 ただし、足元にあるのは先日、私が光魔法で浄化(物理)してしまった更地である。


「うん、いい景色!」


 私は大きく伸びをして、湖からの涼やかな風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 淀んでいた空気はすっかり消え、今は清浄な気配に満ちている。


 手には一枚の羊皮紙。

 ギルドの紋章と、王国の認印が押された『土地権利書』だ。


 あれから二日が経ち、ギルド職員による現地確認も無事に終了した。

 結果は「悪霊の気配なし。建物もなし。安全上の問題なし」とのことで、晴れてこの土地は正式に私たち『クローバー』のものとなったのだ。


「……ここが、私たちの場所なんだね」


 私が権利書を見つめて呟くと、隣にいたミリアが嬉しそうに頷いた。


「はい。夢のクローバーハウス計画の、第一歩です!」


 ミリアの瞳が、湖面と同じくらいキラキラと輝いている。


「ここが私たちの城……胸が高鳴りますぅ! 日当たりも最高ですし、これならお昼寝し放題ですねぇ」


 フィエルさんも、更地の上をスキップしながらはしゃいでいた。


 そう、ここが私たちの「帰る場所」になるのだ。


「さて、土地は手に入ったし。次はいよいよ……」


 私は目の前の更地を見渡した。


「『家』を作らないとね!」


 私は袖をまくり上げ、気合を入れる。


 私の土魔法があれば、建材を一から運んで組み立てる必要はない。

 地面にある土や岩を操作して、一気に形作ってしまえばいいのだ。


「ハルちゃん、どんなお家にするか決まったんですか?」


「えっと……」


 ミリアの純粋な問いに、私は少し言葉に詰まった。


 実は、具体的な設計図なんてない。

 建築の知識なんて当然ゼロだ。柱の太さがどうとか、耐震構造がどうとか言われてもさっぱりわからない。

 日本の家を思い出そうとしても、壁の中がどうなってるかなんて知らないし……。


 でも、要は雨風が凌げて、頑丈ならいいんだよね?


「……イメージはバッチリだよ! シンプル・イズ・ベスト!」


 私が自信満々に親指を立てると、フィエルさんも「期待してますよぉ、師匠!」と、長い耳をピコピコ揺らし走り寄ってきた。


「まぁ見ててよ!」


 私は更地の前に立ち、両手を地面に向けた。


 意識を集中させる。


 細かい構造は分からないけど、しっかり安定した形にすればいい。


 そう、四角い箱だ!


「――いでよ、私たちのお家!」


 ズズズズズ……ッ!


 低い地響きと共に、私の足元の地面が揺れた。


「わわっ!?」

「おおっとぉ!」


 ミリアとフィエルさんが驚いて後ずさる。


 私のイメージ通りに、地面から巨大な土の壁が四方からせり上がってくる。

 それはグングンと高さを増し、やがて上部で繋がり、一つの巨大な「塊」となった。


 最後に、強度を上げるために土を圧縮し、石材のように硬化させる。


 ――ドォォォン!


 土煙が晴れた後。


 そこには、巨大な灰色の「お豆腐」が鎮座していた。


「はいっ!……」


 窓もない。装飾もない。

 ただただ四角い巨大な石の箱。


「……で、できましたけど!」


 私が振り返ると、二人はぽかんと口を開けて、その巨大な豆腐を見上げていた。


「……おおきい、ですね」

「……四角い、ですねぇ」


 感想がシンプル!


 まあ、見た目はともかく、中身が大事だからね。


「さあ、中に入ってみよう!」


 私は正面の壁の一部を魔法で消し去り、入り口を作った。

 そこから三人で、恐る恐る(?)中へと足を踏み入れる。

 続いてライトの魔法で室内を照らした。


 コンビニくらいありそうな広い空間に、私たちの足音がコツコツと響く。


「広いです……」

「何もありませんねぇ。当たり前ですけど……」


 二人の声が反響する。


 殺風景だからか、静かなのになんだか落ち着かない。


「まぁ、ここからが本番だよ! 今はただの広い箱だけど、ここに壁を作って部屋を分けていくの」


 そう、いわゆる間取り決めだ。


 私はライトの魔法を天井にいくつか放ち、家全体を明るく照らした。


 そして、地面に木の棒で線を引いていく。


「さあ、どこをどういう部屋にしたいか、みんなで相談しながら決めよう!」


 私の言葉に、二人の目がパァっと輝いた。


「私、キッチンは絶対に広めがいいです! リビングと繋げて、みんなの顔を見ながら料理ができるようにしたくて……」


 ミリアが熱っぽく語りながら、地面に大きな四角を描く。


「料理中もハルちゃんと……あ、いえ、みんなとお話したいですから」

「おー、いいねいいね! 対面キッチン的な感じだね」


 私はミリアの指示通りに地面に線を引き、イメージを膨らませる。

 彼女がキッチンに立って、鼻歌交じりに料理をしている姿が目に浮かぶようだ。


 うん、最高にかわいい。


 ミリアと結婚する人は幸せだろうなぁ……


 ふと、そんなことを考えた時、なぜだか胸がドキリと高鳴った……


 あれ?


「私は日当たりのいいお部屋がいいですぅ! 南向きの玄関側!」


 私のそんな気持ちを吹き飛ばすように、フィエルさんが南側の壁際を陣取り、楽しそうに両手を広げた。


「ここにお昼寝用のハンモックを吊るすんですぅ。あと、植物もたくさん置きたいので、床は土のままで一部残しておいてほしいですぅ」

「了解! すっごくおしゃれ。フィエルさんらしいなぁ」

「それなら、私の部屋はここがいいです!」


 ミリアがキッチンの東側、朝日が一番に入りそうな場所を指差した。


「キッチンのすぐ隣ですし、朝起きてすぐにご飯の支度ができますから!」

「ミリア……働き者すぎるよ」

「そんなことないですよ。……それで、ハルちゃんのお部屋はどうするんですか?」

「私は、そうだなぁ……玄関の横の、ここにしようかな。フィエルさんと玄関を挟んで反対側。……つまり、ミリアの部屋のお隣さんだよ」


「……っ! お隣、ですか?」


 ミリアがパァっと顔を輝かせ、胸の前で両手を組んだ。


「う、嬉しいです! 毎朝『おはよう』って言いに行ってもいいですか?」

「もちろん!」


 そんなこんなで二人の要望を聞きながら、私も自分の希望を書き込んでいく。


 そして私が絶対に譲れない場所。それは――。


「あとはやっぱりお風呂かな! 足を伸ばして入れるくらいの大きな浴槽を作りたい!」


 私は北西の角、湖に面した位置に大きな丸を描いた。


「ここを大きな窓にして、湖を見ながらお風呂に入れるようにするの。名付けて『レイクビューバス』!」

「素敵です! お月様を見ながらの入浴もできそうですね」

「三人で一緒に入れますねぇ。楽しみですぅ~!」


 ああだこうだと言い合いながら、地面に間取り図を描いていく時間は本当に楽しい。


 プロの設計士さんが見たら、設計なんて滅茶苦茶だと思う。


 でも、これは私たちの家だ。


 私たちが使いやすいのが一番のはず!


「よし、だいたい決まったね!」


 地面には、チョークで描いた落書きのように、部屋の区割り線が引かれている。

 玄関を入ってすぐに広めのリビング。その奥にミリアこだわりのキッチン。

 南側(玄関の両隣り)にはフィエルさんの部屋と私の部屋。ミリアの部屋は私の隣(北側)。

 そして北西の湖側には、自慢の大浴場。


「じゃあ、壁を作っていくよ!」


 私は再び魔力を練り上げる。


 引いた線に沿って、地面からニョキニョキと土の壁をせり上げさせていく。


 ズズズズッ。


 広いワンルームだった空間が、みるみるうちに区切られていく。


 壁ができると、一気に「家」っぽさが増してくるから不思議だ。


「わぁ! お部屋ができました!」

「ここが私の部屋!」


 出来上がったばかりの壁を、二人が愛おしそうに撫でている。


 まだドアもないし、窓もただの穴だけど。

 そこには確かに、生活空間が生まれていた。


「あ、そうだ。部屋にドア用の穴も開けなきゃ」

「窓もお願いしますぅ! 風通しが大事ですから!」


 私は指示されるがままに、壁をくり抜いていく。


 なんだか、巨大な粘土細工で遊んでいるような気分だ。


「よし、次はミリアお待ちかねのキッチンだね」


 私はキッチン予定地に立ち、土魔法で地面を隆起させる。


 使いやすい高さの作業台と、広めのシンク。

 もちろん、洗い物を流すための排水口も底に開け、その先は床下を通して外の地中深くに繋げた。

 簡易的な造りだけど、ひとまずはこれでいいだろう。


 というか、下水とかって普通はどうなってるんだろう?


「形はできましたけど……お水はどうするんですか?」


 ミリアが不思議そうに蛇口(土で作ったオブジェのようなもの)を触る。


「ふふん、見てて」


 私はシンクの上、天井近くの壁に、これまた土でタンクを作った。


 そして、壁の中に空洞を作り水が通るようにして、下の蛇口へと繋げる。


「ここに、水魔法で水をたっぷり入れておけば……」


 私はタンクに魔力を注ぎ、清浄な水を満タンにした。


 そして、蛇口につけたコックをひねる。


 ジャーーーッ。


 重力を利用して、勢いよく水が流れ出した。


 天井に備え付ける「ウォーターサーバー」のような感じだ。


「わぁっ! お水が出ました!」

「すごいですぅ! これなら水汲みに行かなくていいですねぇ!」

「私が定期的に補充しなきゃだけど、とりあえずはこれで使えるはずだよ」


 本当はもっと良い方法があればいいんだけど、そういうことはもっと余裕ができてからでいい。


「よし、この調子でトイレとお風呂も作っちゃおう!」


 私は気合を入れ直し、次の部屋へと向かった。


 まずはトイレだ。ここも清潔感が命。


 私は土魔法で滑らかな曲線の便器を作り上げ、表面を陶器のようにツルツルに硬化させた。

 キッチンと同じように上部にタンクを設置し、レバーを引けば水が流れる水洗式にする。


 排水は……うん、とりあえず地中深くへ流す形式で。


「おお! 村のトイレとは全然違いますね。座り心地が良さそうです」

「なんだかお金持ちのトイレみたいですぅ」


 二人の反応も上々だ。


 というか、排水を綺麗にするシステムとか、そういうのってあるのかな?

 もしくは魔法でできたりとか……

 まぁ、今日から住むわけじゃないし、ひとまずはこれでいっか。

 

 そして最後は、お待ちかねのお風呂場!


 湖に面した一番眺めのいい場所に、三人でも余裕で入れる大きな浴槽を作る。

 もちろん、洗い場も広めに確保。


「わぁ……! 広いです! これなら泳げちゃいそうです」

「窓枠も大きくて、開放感抜群ですねぇ~」

「でしょ! きっと気持ちいよ~」


 今のところ解放されすぎてて、外の空気が直で入ってきちゃうんだけど……


 出来上がった浴槽に入って(服のままだけど)はしゃぐ二人を見ながら、私はふと、あることに気がついた。


「……あれ? でも、お湯ってどうするんだろ?」


 水はタンクから出るとしても、お湯はどうやって出すの?

 毎回私が火魔法で適温にする?

 いや、魔力は無限にあるんだし、全然それでもいいんだけど。


「そういえば、お風呂って、お湯の出る仕組みどうなってるの?」


 私が首を傾げて尋ねると、ミリアがきょとんとして答えた。


「えっと、たしか『魔石』を使っていたんじゃなかったでしたっけ?」


「魔石?」


 そういえば、この屋敷も魔石で結界が張られてた、とか言ってたっけ。

 どんな仕組みなんだろ?


「はい。火属性の魔石を魔道具にセットして、水を流すと熱が出る、とかだったような」


「魔石は魔力を溜め込んだり、放出したりする性質がありますからねぇ。火の魔法を注入した魔石なら熱を、風の魔法なら風を、といった具合にエネルギーとして使えるんですぅ」


 フィエルさんも補足してくれる。


「なるほど。魔法を溜めておける、ねぇ……」


 私の様々な魔法を魔石に貯めておけば、それぞれに色んな役割を持たせられるってことか。

 これは使い方次第で、もっと色々なことができそうだ。


「じゃあ、魔道具と、魔石も必要だね」

「はい。家具や日用品と一緒に、魔道具屋さんも見に行きましょうか」

「賛成ですぅ! 最新式のが欲しいですねぇ」


 家作り、というか新生活を送るためには、まだまだ必要なものがいっぱいのようだ。

 でも、その準備すらもなんだか楽しい。


 一通り作業を終えると、私は額の汗を拭った。


「ふぅ……。とりあえず、これで簡単な家としては完成かな?」


 出来上がったのは、灰色の壁で仕切られた、少し無骨な四角い家。

 おしゃれなクロスも、フローリングもない。

 でも、ここにある壁も床も、全部私たちで考え、作ったものだ。


「ハルちゃん、すごいです……。本当に、一日でお家ができちゃいました」


 ミリアがリビングの真ん中でくるりと回り、目を潤ませて私を見た。


「ここが……私たちの帰る場所なんですね」


「うん。今日からここが『クローバーハウス』だよ!」


 私が高らかに宣言すると、フィエルさんが私の背中に飛びついてきた。


「ハルナさん、最高ですぅ! これなら家賃もかかりませんね!」

「あはは、そうだね。浮いたお金で美味しいものいっぱい食べよう!」


 フィエルさんの柔らかい感触を背中に感じながら、私は笑った。


 やっぱり結構あるんだよなぁ……羨ましい!


 私たちは、まだ家具も何もないリビングで、互いに顔を見合わせて笑い合った。


「さあ、今日はお祝いだ! ……って言いたいところだけど、まだキッチン道具もないから、ご飯は宿に戻って食べようか」


 私が苦笑いしながら言うと、二人は「お腹ペコペコです」「ですねぇ」と笑った。


 家具を揃えたり、内装を綺麗にしたり、やることはまだまだ山積みだ。

 でも、その大変さすらも楽しめちゃうのが、私たちなんだと思う。


「はい、宿に着くまでのエネルギー補給!」


 私はポーチからチョコを取り出すと、銀紙を剥いてヒョイっと二人の口に放り込んだ。


 二人は不意打ちに驚きつつもパクっとそれを口に含み、とろけるような甘さに幸せそうに目を細めた。


 互いの手の温もりを確かめ合うようにギュッと握りしめ、私たちは夕暮れの道をカナンへ向けて歩き出した。


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