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異世界チョコたび百合風味。~女神様にもらった無限チョコと全属性魔法で、可愛い仲間と甘々気ままな異世界ライフを満喫します~  作者: かわちょう


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第12話(前編)

8000文字近くになってしまったため、前後編に分割しました。(前編)

 冒険者として登録してから、一週間が経った。

 私とミリアの「ハルミリア」コンビは、あれから順調に依頼をこなしていた。

 雑用のような依頼もこなしたが、主な仕事はやっぱり採取だ。


 私の風魔法による「広範囲サーチ&自動回収」は、薬草だろうがキノコだろうが、環境に配慮しつつ効率的に集めることができる。

 おかげで、ギルド内では「歩く大鎌」なんていう、あまり嬉しくないあだ名がつくまでになってしまったらしいけれど。

 お財布の中身は順調に潤ってきていた。


 ちなみに、お財布は二人で一つ。私が管理をすることになった。

「私、計算してると頭がパンクしちゃうんです……」と、ミリアが涙目で訴えてきたからだ。

 家庭的でしっかり者に見える彼女だけど、意外な弱点があったらしい。

 まあ、頼られるのは悪い気はしないし、共同生活っぽくてちょっと嬉しいかも。


「ハルちゃん、この辺りから入ってみましょうか。ギルドの資料だと、この奥に『蜜リンゴ』が自生している可能性が高いです」


 ミリアが地図を広げながら、頼もしい声を上げる。

 ここはカナンから少し離れた「迷わずの森」。

 名前とは裏腹に、木々が鬱蒼と茂り、道が入り組んでいるせいで、地元の猟師さんでも深入りは避ける場所らしい。


 でも私たちには、ミリアの鍛えられた方向感覚(+美味しい食材への嗅覚)と、私の魔法もある。

 道に迷って森で遭難……なんてことにはならなそうだ。


「蜜リンゴかぁ。ジュースにしたら美味しそうだね」


 想像しただけで、口の中に甘酸っぱい風味が広がる気がして、私はごくりと喉を鳴らした。


「はい! パイにしても絶品ですよ。……ふふ、実はですね」


 ミリアはもったいぶるように人差し指を立てると、悪戯っぽく私に顔を寄せた。


「この間、宿のお手伝いをした後に、女将さんが『空いてる時間なら厨房を使っていいよ』って言ってくれたんです!」

「えっ、本当に!? それじゃあ、そのうちミリアお手製の……」


 私の期待に満ちた視線に、ミリアが自信満々に頷く。


「はい! アップルパイ、作ってあげますからね!」

「やったー! それじゃあ、アップルパイの為にも頑張らないと!」

「もう、ハルちゃんってば……依頼の分も忘れないでくださいね」


 美味しいスイーツのためなら、森の藪漕ぎだって苦にならない。

 私たちは意気揚々と、森の奥へと足を踏み入れた。


          ◇


 木漏れ日が差し込む森の中は、ひんやりとしていて心地いい。

 時折、カサカサと草むらを揺らす小動物の気配を感じながら、私たちは道なき道を進んでいく。


 三十分ほど歩いた頃だろうか。

 私の耳が、微かな「音」を捉えた。


「……ん? ミリア、ちょっと待って」

「どうしました、ハルちゃん?」

「なんか、聞こえない? 誰かの声みたいな……」


 ミリアも目を閉じ、耳を澄ませる。


「……いいえ、私にはなにも……」


 いや、確かに……

 私は立ち止まり、もう一度耳を澄ませた。

 風に乗って聞こえてくるのは、鳥のさえずりと、葉擦れの音。

 そして――。


「……お腹すきましたぁ……」

「……誰かぁ……」


 とてものんびりと間延びした、女性の声だった。

 助けを求めているようにも感じられるが、切迫感は……なさそう?

 それでも万が一ということがある。


「ミリア、やっぱり誰かいる! 念のため行ってみよう」

「は、はい。でも、気をつけて行きましょう」


 私たちは顔を見合わせ、声のする方へと慎重に近づいた。

 茂みをかき分け、少し開けた場所に出る。

 そこには、ひときわ大きな木が一本、どっしりと立っていた。


 そして、その太い枝には。


「あ、人間さんだ。こんにちは~」


 一本のロープで片足を縛られ、逆さ吊りになっている一人の女の子がいた。


「…………」


 私は無言で一度目を閉じ、三秒数えてから、ゆっくりと開けた。

 ……うん、まだいる。幻覚じゃない。

 とりあえず、状況を整理しようか。


 まず、女の子だ。

 重力に従ってサラサラと地面の方へ落ちる長い髪は、キラキラと輝くブロンド。

 服装は、森の緑に溶け込むような深緑色のワンピースで、あちこちに木の葉や蔓の装飾がついている。

 そして何より目を引くのは、髪の間からピンと飛び出した、先端の尖った長い耳。


「……エルフ!?」


 ファンタジー知識が脳内で警鐘を鳴らす。

 エルフといえば、森の番人、高潔な種族、魔法と弓の名手……のはずだ。

 それがどうして、蓑虫みのむしみたいにぶら下がっているんだろう。


 私は魔力と神経を研ぎ澄ませ、周囲を警戒する……

 ――が、近くに魔物や人の気配はなさそうだ。

 その代わり、地面には、立派な装飾の施された弓と数本の弓矢、一本の短剣が寂しげに転がっていた。


「えっと……大丈夫ですか?」


 恐る恐る声をかけると、彼女は逆さまのまま、器用に首をかしげてニコッと笑った。

 その瞳は、新緑の若葉のように鮮やかなエメラルドグリーンだ。


「大丈夫じゃないですよぉ。見ての通り、罠にかかっちゃいました……てへっ」


 この状況で、てへっ、といえるハートの強さには素直に感心してしまう。

 彼女の体には、猟をするためのものなのか網が絡まっていて、どうやら地面にあった踏み抜き式の罠を作動させてしまったらしい。


「すぐに助けましょう! ハルちゃん!」

「あ、うん。わかった」


 ミリアに促され、私は我に返った。

 とにかく下ろしてあげないと。


「『ウィンドカッター』!」


 私は指先を軽く振るい、極小の風の刃を飛ばした。

 狙うは彼女の足を縛っているロープ一点のみ。

 ヒュンッ、という音と共に、ロープがプツリと切れる。


「あ、落ちる」

「わわっ! 危ない!」


 支えを失った彼女が、真っ逆さまに地面へ落下する。


「風よ!」


 私は追加の魔法を放ち、空気のベッドを作る。

 彼女の身体はふわりと風に受け止められ、ぽすん、という軽い音を立てて着地した。


「……ふぅ。よかった」


 私とミリアが駆け寄ると、彼女は草の上にぺたんと座り込んだまま、目を回していた。


「目が……回りますぅ……。世界がぐるぐる……」

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」


 ミリアが心配そうに背中をさする。


 しばらくして、彼女はようやく焦点が定まったのか、大きな瞳で私たちをじっと見つめた。


「助けてくれて、ありがとうございますぅ」


 彼女はペコリと頭を下げると、長い金髪をふわりと払って顔を上げた。


「私、フィエルって言います。この森の奥にある里から来ました」


 フィエルさんはそう言うと、自慢げに自分の長い耳をぴこぴこと動かしてみせる。


「見ての通り、エルフです!」


 屈託のない笑顔。神秘的な種族というイメージとは裏腹に、とても人懐っこそうだ。

 私は初対面のエルフさんに失礼がないよう、居住まいを正した。


「大事にならなくてよかったです。私はハルナ・キセと申します」


 私は丁寧にお辞儀をしてから、隣にいるパートナーを紹介する。


「そしてこちらが、パートナーのミリアです」

「ミリア・ルルンです。よろしくお願いします」


 ミリアも釣られて、少し緊張した面持ちで頭を下げる。

 すると、フィエルさんはきょとんと目を丸くした後、困ったように眉を下げて手を振った。


「あわわ、そんなに畏まらないでください~! 私、全然偉くないですからぁ」

「え?」

「命の恩人さんなんですから、もっと楽に話してください。……その方が、私も嬉しいですし」


 フィエルさんはふにゃりと笑うと、その細くてしなやかな手を差し出した。


「わかり……そっか。わかったよ」


 私は肩の力を抜いて、彼女の手を握り返す。


「じゃあ、遠慮なく。よろしくね、フィエルさん」

「よろしくお願いします。フィエルさん」

「はいっ! よろしくお願いします、ハルナさん、ミリアさん!」


 フィエルさんは嬉しそうに頷いた。


 森の中で出会った、ちょっと変わったエルフの女の子。

 この笑顔が見られただけでも、寄り道した甲斐はあったかも?


――後半へ続く。

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