表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界チョコたび百合風味。~女神様にもらった無限チョコと全属性魔法で、可愛い仲間と甘々気ままな異世界ライフを満喫します~  作者: かわちょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

第11.5話

 ずっしり、という言葉がこれほど心地よく響くものだとは思わなかった。


 宿屋『陽だまり亭』の二階、私たちの部屋。

 私は、ギルドで受け取ったばかりの報酬袋を、木製テーブルの上ドンッと置いた。


「……三万ユリー。一日でこれだけ稼げるなんて、ちょっと夢みたいだね」


 袋の隙間から覗く硬貨の鈍い輝き。

 それは、私たちがこのカナンで「冒険者」として最初の一歩を刻んだ証だ。


「はい。村にいた頃なら、お手伝いを何十回もしなければ稼げない額です……」


 隣に立つミリアが、震えながらその袋を見つめている。


「それもこれも、ミリアの知識のおかげだよ。ありがとう」


 私はそう言うと、袋の紐を緩め、中身の硬貨をテーブルの上にジャララッと広げた。

 そして、それをきっちり二等分にして、半分を袋に戻す。


「はい、これミリアの分。一万五千ユリーね」

「えっ……半分、ですか!? いけません、多すぎます!」


 差し出した革袋を見て、ミリアが慌ててブンブンと手を振った。


「私はただ場所を教えただけで……一瞬で素材を集めたのはハルちゃんですし……これじゃあ貰いすぎです!」

「ううん。ミリアがいなきゃ、どれがヒールグラスかもわからなかったし、そもそもこの依頼を選んでくれなかったら稼げなかったよ」


 私は彼女の手を無理やり取り、半分の硬貨を詰め込んだ革袋を握らせた。


「それに、私たちはパートナーでしょ? 嬉しいことも、美味しいものも、『報酬』も半分こ。……だよ!」


「ハルちゃん……」


 ミリアは手の中の重みを確かめるように、ぎゅっと握りしめた。


「……はい。ありがとうございます! 大切に使いますね」


 もじもじと指を動かす仕草が、小動物みたいで可愛い。

 思わず抱きしめたくなるのをぐっと堪えて、私は彼女の肩をぽんと叩いた。


「とにかく! 頑張って働いたことだし、今日は記念すべき初仕事のお祝いだよ。宿の夕飯食べて、ゆっくり休もう」

「はいっ!」


          ◇


 宿の食堂は、一日の仕事を終えた冒険者や商人たちの活気で溢れていた。


 運ばれてきたのは、焼きたての大きな肉厚ステーキと、ハーブをたっぷり使ったポテトサラダ。

 それに、この宿の名物だという地野菜のスープだ。


「「いただきます」」


 ふたりで手を合わせると、待ちきれない私は早速お肉を一口。


「んん〜っ! 美味しい!」


 口に入れた瞬間、私は至福の声をもらした。

 じゅわっと溢れる肉汁と、野性味のある肉の旨味。

 村で食べていた素朴な料理も大好きだけど、大きな街のプロの味は何かが違う。


「カナンのお肉は、ノール村で食べていたものより少しスパイスが効いているんですね。……噛むたびに鼻に抜ける香辛料の香りがたまらないです」


 ミリアは小さく切り分けたお肉を、味わうようにゆっくりと頬張っている。

 ただ食べるだけでなく、隠し味を探るような彼女の姿は、なんだか職人っぽくて格好いい。


「ハルちゃん、このスープも飲んでみてください。お野菜がトロトロですよ」


 ミリアに勧められて、スープを一口。


「本当だ……! これ、すごく優しい味」

「……この甘み、刻んだ根菜をじっくり煮込んで出してそうです。それに、果実酒も入ってるのかも」


 ミリアはスープを一口含み、またもや真剣な表情で料理を分析している。

 うん、正直私には細かすぎる味の違いは分からない。

 これは女子力の差、に繋がるのだろうか……いや、違うよね? きっと。


「カナンのお料理は、勉強になります。いつか、ハルちゃんにも同じ味……ううん、もっと美味しいものを作ってあげたいです」


 そう言って、彼女ははにかむように微笑んだ。


 私たちは顔を見合わせて笑い合い、お皿が空になるまで夢中で食事を楽しんだ。


          ◇


 食後、私たちはこの宿の自慢だという地下の大浴場に向かった。


 脱衣所で服を脱ぎ、浴室へ入る。

 こういう時は恥ずかしがらず、さっさと入ってしまった方がいいという事を、私は学校で学んでいる。


 正面に見える広い石造りの浴槽には、たっぷりとお湯が張られていた。

 湯気がもうもうと立ち込め、視界が白く霞む。

 室内は日本の銭湯とよく似ていた。もちろんシャワーは無かったが、蛇口はきちんと付いている。


「ふはぁ……広いねぇ」

「はい。こんな大きなお風呂、初めて見ました」


 ミリアは長い髪を頭の上で器用にまとめながら、少し恥ずかしそうに身体を隠している。

 白い肌が、蒸気でほんのりと桜色に染まっていく様子は、同性の私から見てもドキッとするほど艶っぽい。


「まずは身体を洗おうか。ミリア、背中流してあげる」

「えっ!? そ、そんな、悪いです!」

「いいからいいから。今日はいっぱい働いて疲れてるでしょ?」


 私は強引にミリアを洗い場の椅子に座らせ、後ろに回った。

 お湯を含ませたタオルに石鹸をつけ、泡立てる。

 しっかり泡立ったところで、彼女の華奢な背中にそっと触れた。


「ひゃうっ!?」


 ミリアが可愛らしい悲鳴を上げて身体を縮こまらせる。


「ご、ごめん! くすぐったかった?」

「は、はい……少し……」


 ミリアの背中は白くて滑らかで、かといって、普通の女子高生だった私のように、ただ柔らかいだけとも違う。

 なんというか、村での生活で培われた健康的な肌の弾力、のようなものがあった。


 円を描くように優しく洗っていくと、彼女の強張っていた肩の力が次第に抜けていくのがわかる。


「はぁ……気持ちいいです」

「よかった。ミリアの肌、すべすべで羨ましいなぁ」

「そ、そんなことないです……っ。あ、そこ……」


 私のタオルが肩甲骨のあたりをなぞると、ミリアが小さく身じろぎした。

 耳まで真っ赤になっているのが後ろからでも分かる。

 ……なんか、洗ってる私の方が恥ずかしくなってきたかも。


「は、はい、おしまい。次は私もお願い」

「は、はいっ! 任せてください!」


 交代して、今度は私が椅子に座る。

 ミリアの手によって、たっぷりと泡を含んだタオルが私の背中を滑る。

 丁寧で、慈しむような手つき。


「ハルちゃんの背中……綺麗ですね」

「そ、そうかな?」

「はい。すごく綺麗で……大きく感じます」


 背中越しに聞こえるミリアの声は、お風呂の反響のせいか、いつもより少し甘く聞こえた。


 それから髪も身体も洗い終えると、私たちは広い湯船に肩まで浸かった。


「ふはぁ……気持ちいー……」


 温かいお湯が、全身の疲れを溶かしていくようだ。

 隣ではミリアがお湯をすくって肩にかけ、ふぅ、と息を吐いている。


 ふと、視線が下がって、湯船の水面から少しだけ覗く彼女の膨らみに目がいってしまう。

 ……他意はない。


 うん、私とおなじくらいかな?

 自分の胸元にも視線を落とし、気付かれないように、何度か視線を行ったり来たりさせる。

 ……他意はない……ほんとに!


 そして、私は脳内に浮かべた『極秘調査報告書』に、今回の測定結果をそっと書き込んだ。

 『結果:成長期につき、判定保留』

 『※伸びしろ、大いにあり!』と


「ミリア、大丈夫? のぼせてない?」

「……はい。大丈夫です! 何だかこれからのことを考えていたら、ワクワクしてきちゃって」


 ミリアはキラキラした瞳で私を見た。


「ハルちゃん。今日いただいた報酬で……私、行ってみたい場所があるんです」

「行ってみたい場所?」

「はい。大通りにあった、あの大きな食材屋さんです!」


 あぁ、確かに大通りに大きな食材店があったような気がする。


「通りがかった時に、珍しいハーブの香りがして……それに、店先には見たこともない野菜や果物が並んでいたんです」


 さらに身を乗り出して興奮気味に続けるミリア。


「へぇ、ミリアらしいね。美味しそうなものあった?」

「はいっ! 真っ赤なトマトとか、黄金色のかぼちゃとか……もっとお料理も勉強したいですから!」


 ミリアの瞳が、宝石のように輝いている。

 お洒落な服やアクセサリーよりも、まず食材の話になるところが、本当に彼女らしい。


 そんなミリアが愛おしくて、私は自然と笑顔になった。


「わかった、その食材屋さんも絶対行こう。……ふふ、楽しみだね!」

「……はいっ!」


 初めて見る彼女のそんな一面も、愛おしく感じてしまう。

 色々あった一日だったが、その疲れも吹き飛んでいくようだった。


          ◇


 部屋に戻り、しばらくおしゃべりに花を咲かせた後、私たちはそれぞれのベッドに入った。


 ふかふかの枕に頭を沈めると、一日中歩き回った疲れがどっと押し寄せてくる。

 窓の外には、青白く優しく光る月が輝いていた。


「おやすみ、ミリア」


「……おやすみなさい、ハルちゃん」


 ランプの灯りを消すと、部屋は静寂に包まれた。

 そのまま、すぐに夢の世界へ……といきたいところだったけれど、興奮が冷めないのか、思いのほか寝付けない。

 それでも目を閉じ、今日一日の楽しかった出来事を思い返していると。


 ゴソゴソ。


 隣のベッドから、衣擦れの音が聞こえてくる。

 ミリアも起きているみたいだ。


「……ハルちゃん、起きてますか?」


 暗闇の中で、遠慮がちな小さな声がした。


「うん。……どうしたの? 眠れない?」


 私が身体を起こすと、ミリアも布団から顔を出してこちらを見ていた。

 月明かりに照らされた彼女の表情は、どこか不安げに見える。


「あ、あの……その……」


 言い淀むミリア。

 どうしたんだろう。何か心配事かな?


「……一緒に、寝てもいいですか?」


 蚊の鳴くような、消え入りそうな声。


「一人だと少しだけ、心細くて……」


 ミリアが布団で口元を隠すようにして、私を見つめてくる。

 そんなことを言われたら、断れるはずがない。


「……いいよ。こっちおいで」


 私が掛布団をめくって手招きすると、ミリアはパァっと顔を輝かせた。


「はいっ……! 失礼します……」


 ミリアが枕を持って、私のベッドへと小走りでやってくる。

 そして、遠慮がちに、でも嬉しそうに私の布団へと潜り込んできた。


「……温かいです」

「くっつくと落ち着くね」

「はい……」


 シングルベッドに二人。


 必然的に密着することになるけれど、それがとっても心地いい。

 ミリアの体温が、湯上がりの甘い香りが、私を優しく包み込んでいく。


「……ハルちゃん。明日からも、頑張りましょうね」


 ミリアがこちらを向いて、上目遣いに言う。


「私、魔法もお料理も、もっと練習がんばりますから……」

「うん、ありがとう。……でも、無理はしないでね」

「はい……」


 そう言うと、ミリアは小さくあくびをした。


「明日はどんな依頼受けようかなー、楽しみだよね」


「はい……きっとハルちゃんならなんでも……」


「うん、私たちならどんな依頼でも……ミリア?」


「……なんでもぉ……」


 人肌に触れて安心したのか、ミリアはもう夢心地のようだ。


「おやすみ、ミリア」


 寝息に溶かすように告げたけれど、もう返事はなかった。

 代わりに聞こえてきたのは、すー、すー、という規則的で穏やかな寝息だけ。


 でも、それだけ今日は頑張ったってことだね。

 愛おしさがこみ上げて、私は彼女の頭をそっと撫でた。


 サラサラの髪の感触と、伝わってくる確かな温もり。

 今度はショッピングもしてみたいな……この世界の服とかも、そのうち……。


 そんなことを考えているうちに、私の意識もふわりと溶けていく。

 優しい月の光と、ミリアの温もりに包まれながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ