第1話
はじめまして、かわちょうです。
今日から異世界転生ファンタジー百合もの(12/28時点で11万文字程度執筆済み)を投稿していきます。
のんびりしたいけど、やっぱり魔法で無双もしちゃう。
主人公ハルナと可愛い仲間たちの冒険を、どうぞ楽しんでいってください!
放課後の教室って、どうしてこう独特の空気が流れているんだろう。
傾き始めた夕日が、窓から差し込んでくる。
私の机が、眩しいくらいのオレンジ色に染まっていた。
「あー……お腹すいた」
遠くから聞こえる運動部の掛け声。
ありふれた一日の終わり。
私は鞄を肩にかけると、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「今日の晩御飯、何かなぁ」
そんな、どうでもいいことを考えながら校門を抜ける。
私の名前は喜瀬春奈。
どこにでもいる、ごく普通の高校一年生だ。
強いて特徴を挙げるなら、甘いもの――特にチョコレートには目がないってことくらい。
でもそれだって、女子高生なら珍しくもないよね。
いつもの通学路。
見慣れた景色。
それが、私の人生で最後に見る「日本の風景」になるなんて。
この時の私は、夢にも思っていなかった。
◇
信号が青に変わり歩き出した、その瞬間だった。
カッ!
視界が真っ白な光に塗りつぶされた。
耳を劈くような轟音?
あれ? なんだっけ……。
何も思い出せない。
ただ、ふわっと体が浮き上がるような浮遊感があって。
次の瞬間には、私は「そこ」にいた。
「え……?」
上下も左右も、奥行きさえもわからない。
ただただ、どこまでも続く白の世界。
「何、ここ。夢?」
自分の声が、反響もせずに吸い込まれていく。
着慣れたセーラー服を確認する。鞄もしっかり持っている。
足元には地面がないのに、しっかり立っているような不思議な感覚だ。
「夢ではありませんよ、ハルナさん」
鈴を転がしたような、透き通った声が響いた。
振り返ると――そこに、彼女が立っていた。
長い、桜の花びらのようなピンク色の髪。
慈愛に満ちた深い藍色の瞳。
背中には透き通る羽のようなものがうっすらと見え、彼女自身が淡い光を放っているようだった。
綺麗。
そんな言葉じゃ足りないくらい、神々しい。
「……女神様、ですか?」
我ながら直球すぎる質問だと思う。
けれど、そうとしか表現できないオーラが、彼女にはあった。
彼女は困ったように、でも優しく微笑んで頷いた。
「はい。この世界の方々が呼ぶ名を使えば、そうなります」
女神様は、ふわりと私の近くへ降り立った。
「……突然のことで驚かせてしまいましたね。あなたは、あなたのいた世界での生を終え、新しい世界へと旅立つことになりました」
「……死んじゃった、ってことですか?」
意外にも、私の心は穏やかだった。
悲しみや恐怖よりも、目の前の女神様のあまりの美しさに、不謹慎にも見惚れてしまっていたからかもしれない。
「悲しいことですが、そうなります。ですが、あなたはとても徳の高い魂の持ち主でした」
女神様が、慈しむように私を見つめる。
「ですから、次の世界ではあなたの望むままに生きてほしいのです。そのための助力を、私からさせていただきますね」
女神様が、そっと指先を私の額に向けた。
じわっと、温かい何かが流れ込んでくる。
それは体の隅々まで行き渡り、今まで感じたことのないような、満ち足りた感覚となって私を包み込んだ。
「今、あなたに『魔法』の力を授けました。火、水、風、地、雷、光、闇……。その世界の理を司るすべての属性を、あなたは自在に操ることができます」
「えっ、全部ですか?」
「はい。全属性です」
全属性魔法。
そんなのアニメやラノベの世界だけだと思っていたけれど、どうやら私は、とんでもないものを貰ってしまったらしい。
でも正直なところ、魔法をバリバリ使って冒険したい! というよりは、新しい世界でのんびり暮らしたいな、なんて考えてしまうのが、私の私たるところだ。
「ありがとうございます。……でも、そんなにすごい力、私に使いこなせるかな」
「ふふ、大丈夫ですよ。あなたの魂は、その力を受け止めるに相応しいものです」
女神様はニッコリと笑うと、もう片方の手を差し出した。
「……それともう一つ。これが、私からあなたへのもう一つの贈り物です」
女神様の掌の上に、柔らかな質感の小さなポーチが現れた。
上品な刺繍が施された、可愛らしいデザイン。
私のセーラー服のベルト通しにぴったり合いそうなサイズだ。
「これは?」
「中を見てみてください」
受け取ると、手にしっとりと馴染むような心地よい重みがある。
中を開けてみる。
そこには、銀紙に包まれた一口サイズの四角いものが、ぎっしりと詰まっていた。
……この香り、まさか。
「……チョコ?」
「はい。あなたが一番好きだったもの。それは、魔法でいくらでも補充される、特別なチョコレートです」
女神様が悪戯っぽくウィンクする。
「食べれば不思議と力が湧き、心も体も癒やしてくれるでしょう。辛いとき、寂しいとき、あるいは誰かと喜びを分かち合いたいときに、食べてくださいね」
鼻をくすぐる芳醇なカカオの香り。
異世界に大好きなチョコレートを持っていける。
しかも無限に!?
その事実だけで、不安だった気持ちが、みるみるうちに明るい色に塗り替えられていくのがわかった。
「女神様、ありがとうございます! これさえあれば、どこでだってやっていけそうな気がします!」
私が満面の笑みで答えると、女神様は少しだけ寂しそうに、でも誇らしそうに微笑んだ。
「それでは行きなさい、ハルナ。あなたの新しい旅が、甘く素晴らしいものになることを祈っています」
女神様の姿が、眩い光の中に溶けていく。
同時に、強烈な睡魔が私を襲った。
手に持ったチョコのポーチをぎゅっと握りしめて、私は意識を手放した。
◇
次に目を覚ましたとき、そこは――。
鼻を突く、濃厚な草木の匂い。
瞼の裏を刺激する、木漏れ日の眩しさ。
そして遠くから聞こえる、聞いたこともないような鳥の鳴き声。
私は土の感触を背中に感じながら、ゆっくりと上体を起こした。
「……ここが、異世界」
あたりを見回す。
そこは、以前何かの番組で見たことがあるアマゾンのような、深い森の中だった。
見上げれば、木々の間から見える青々とした空。
けれど、どことなく日本のそれとは空気が違う気がする。
服装を確認すると、まだセーラー服のままだ。
そして腰には、先ほど女神様からもらった、あの刺繍入りのポーチが揺れている。
「……夢じゃ、ないんだ」
私は震える手でポーチから一つ、チョコレートを取り出した。
銀紙を剥き、口に放り込む。
――甘い。
とろけるような甘さと、カカオのほろ苦さが口いっぱいに広がる。
強張っていた心と体が、内側からじんわりと解けていくようだ。
それは間違いなく私が知っている、そしてそれ以上に美味しいチョコレートだった。
ふと見ると、食べ終わった銀紙が光の粒子になって消滅した。
ゴミが出ないなんて、エコすぎる!
(便利過ぎだよ女神様!)
「……よし」
頬に残る甘い余韻を噛み締めながら、私は立ち上がった。
ここがどこなのか、これから何をすべきなのか。
わからないことだらけだけど、まずはこの森を抜けて人がいる場所を探さなきゃ。
私はスカートの土を払い、一歩を踏み出した。
お読みいただきありがとうございます!
第2話では簡単に魔法の試運転をして、第3話の一人目のヒロ…じゃない!仲間回にバトンを渡します。




