第8話「国を満たす力」
エビのおかげで、夕食は少しだけ豪華になった。
小ぶりではあるけれど、ぷりぷりしていて、旨みがある。塩焼きにしたら、香ばしい香りが広がった。
「うまっ……!」
久しぶりに口の中で広がるエビのあじ、久々のタンパク質!
(今度はたくさんとって、かき揚げにしたい、ぱりぱりのエビかき揚げたべたい。油がないな。)
「昔はもっと魚もたべてたけどねぇ」と、ユウナの母がつぶやいた。
(ユウナの父が手づかみで魚を取っているところを想像してしまった、父は偉大だワイルドだ。もっととってこいってこと?働かざるもの食うべからず、ですよねぇ)
焼かれたエビをつまみながら、ふと、この国のことを聞いてみたくなった。
「この国って、どんな方針で農業やってるんだ?」
ユウナが答えた。
「王様の方針は、“絶対に民を飢えさせない”こと。だから、自分たちが食べる分の2倍の食べ物を作ることを目指してるんだって」
「2倍……?」
「うん。自分たちの国で全員を養えるだけじゃなくて、余った分は家畜のエサや不作に備えて備蓄に回したり、輸出したり、でも、なにかあったときには全部国内に回せるようにしたいんだって」
(食うものがなかったら戦えないし、不作や災害の備えも必要になるよな……さすが王様はいろいろ考えていらっしゃる。)
信次郎の脳裏に、対称的などこかの島国が浮かんだ。
エビの香ばしいにおいとは裏腹に、胸の中に苦いものが広がった。
「立派な話だよ」と、母が言う。「でも、そのせいで、いろいろ制限があってね」
母の言葉に、ユウナがうなずいた。
「たとえば、主食系の植物を一定量作らないと、他の作物は売っちゃいけないの」
「主食系?」
「麦、トウモロコシ、芋、豆……そういう主食になるやつ」
「へえ……」
(炭水化物がとれるやつってことかな。エネルギー大事、お水もはこべなくなっちゃう)
「みんなが作ってるから安いし、現金収入にはなりにくいの。でも、それを育てないと、ニンニクとか、香辛料とか、果物とか……売っちゃだめなの」
「それって……」
「そう。お金が足りなくて困るの。お父さんも、昔は野菜のほうが好きだったけど、今は麦ばっかり育ててる」
信次郎は考えた。
(正しいのかもしれないけど……)
目の前の焼きエビを見つめながら、信次郎は心の中でつぶやいた。
(これが、国を守るってことなのか?)
異世界の農業の裏には、静かで厳しいルールがあった。
さらに、ユウナの父の恩賞が五年で減るという制度もある。 国からの支援はあてにできない。
(うかうかしていられない……俺は、何か貢献できてるか? 今のところ、うんこをあたためて、くさい泥を持ちかえっただけだな……)
信次郎は空になったエビの皿を見つめたまま、拳を握った。
(俺に何かできること……馬糞を発酵させた肥料は、そろそろ使えるやつもあるんじゃないだろうか。明日ためしてみよう。)
(親父が言ってたな……昔、田んぼにレンゲをまくと土が元気になるって……小学校の課外授業でも習った気がする……)
小学校の課外授業で見た一面紫のレンゲ畑を思い出す。
あの時、土の匂いと一緒に、春の風が吹いていた。
(いまは、畑の栄養がすくない、レンゲで再生……レンゲ畑でユウナと……でもレンゲは食べれないしな……)
その時
〈大地との対話:緑肥の叡智〉
信次郎の感覚に、土から語りかけるようなイメージが浮かんだ。
(おお、きたきた新しい能力の予感!)
マメ科の植物の一部は、肥料を入れずとも土を改良し、栄養を補う植物。根に共生する菌が窒素を固定し、やがて枯れたあとに分解されて次の作物を育てる力となる――。
(マメ科の植物!ん?レンゲもマメ科だったのか、しらなかった。スキルよおしえてくれてありがとう。)
(マメいいかもしれない。栄養が土に戻るし、自分たちでも食べられる。保存もきくんじゃないか。加工すれば、高く売れる可能性もあるかもしれない)
(異世界で豆腐屋始めました。よし、第4章がはじまったな、ん?豆腐ってどうやってつくんの?)
答えは返ってこなかったが、彼の中に、次の一手が少しずつ見えはじめていた。
(あれ、チート能力、知識だけ?……いや、やってみなきゃ始まらない)
(明日は、豆、植えてみるか……!)
そんなことを考えていると、ユウナがこちらをちらりと見て、小さく笑った。
「なんか、考えてた?」
(君とのこれからを考えてたとか言ってみたい!)
「豆ってあるかな?種にできるやつ」
ユウナはちょっと考えてから、うなずいた。
「うちにはないけど、あ、湖の周りには生えてるかも。一緒に見に行く?」
(明日も、湖畔デートが確定した!)
小説の裏話や、現実とのギャップについてNoteで少し語ってみました。
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はぁ、吐き出すとちょっとだけモチベーションが上がってきました!
これからもよろしくお願いいたします。