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第5話「納屋からの挑戦」

 昼からは、雑草取りだ。ユウナと一緒に、畑に生えた草をせっせと抜く。ユウナに教えてもらいながら、馬に食べさせられる雑草と、そうでないものを分ける。


 ユウナと並んで草を抜いていると、不思議と心が落ち着いた。ただの雑草抜きが、ちょっと楽しく感じる。


 なんでも食べそうに見える馬だが、実は好みがあるらしい。あと、馬には毒になるような草もあるらしいから注意が必要だ。抜いた雑草の一部は餌に、残りは乾かして、燃やすそうだ。


(おい、俺のチートスキルはどうなった)

(そうだ、“大地との対話”。農地解析、忘れちゃいないよ)


 雑草を抜きながら、いたるところを解析する。

 やはり、栄養が少ない。カラカラに乾いて、微生物の気配も薄い。


 暑いから休憩をはさみながら行う。


 合間にユウナと話をする。


「そういえば、ユウナのお父さんは……?」


「お父さんは、戦争で、死んじゃったの」


 戦争っていっても、本気のやつじゃないんだろうな。ユウナが話してくれた様子だと、威嚇とか演習みたいなもんだ。死人が出ない程度に……なんて、思ってたけど、実際には、当たってしまうこともあるんだ。


 ユウナの父は、不運にも、相手の下手な砲手のせいで亡くなってしまったらしい。


「……そっか。ごめん、変なこと聞いて」


 それ以上、何も言えなかった。

 ただ黙って、ユウナと並んで草を抜いた。


(今回ばかりは、こころの中の俺もだんまりだ……)


 夕方には、暗くなる前に、葉物の作物の収穫を行う。


 父が死んでも、たくましく生きている。親父の存在は大きい。いるだけで安心する。


 ユウナが頼れるのは母だけなのだろうか。


(俺が少しでも支えになれたら……)

 そんな気持ちが、少しずつ芽生えはじめていた。


 夕食の席。ユウナと母親と並んで食卓を囲む。ふと、気になって畑のことを尋ねてみた。


 どうやら、この畑は父と母が開墾して作ったらしい。最初は焼き畑で始めて、区画を分けて使い回していたという。

 雑草が生い茂ったら草を刈って燃やし、灰を撒いてからまた植える。それを繰り返してきた。


(あの栄養の乏しさ……そうか、焼き畑の繰り返しで、土が痩せていったんだ)


 最初はそれでも収穫できていたが、だんだんと作物の出来が悪くなってきたらしい。


 そして、父は戦争で亡くなった。

 国からの恩賞は出ているが、それも五年後には半額に減らされるという。


(五年以内に、絶対に立て直してみせる。できれば、現金収入も得られる形で)


 夜、俺は納屋に向かった。


(思い出せ、親父の知識。何をやっていたっけ……)


 親父は、肥料は高いからといって、コストを抑える工夫もしていた。


 そうだ、「米ぬかのぼかし肥料」だ。


 ペットボトルに米ぬかと水を入れて、わずかに蓋を開けて発酵させる。

 発酵が進むと、激烈な納豆臭がしてくる。

(なんか臭いの話ばっかりだな……)

 毎日蓋を閉めて振って、少し緩めておく。それを毎朝繰り返す。筋トレ気分で、やったり、バーテンダーのマネをしたりしながら、手伝っていた。

 ひと月ほどで完成して、それを水で薄めて撒くと、やさしく効く肥料になる。


(“ぼかし”の意味はよく分からなかったけど、匂いとか、色とか、なんかマイルドに効いてる気がしたんだよな)

(もっと、親父に聞いておけばよかった……)


 この世界に米ぬかはない。だが、麦っぽい植物のもみ殻なら、納屋に大量にある。

 馬も食べないらしく、乾かして燃料にしているそうだ。ガラスの瓶も納屋にあったな。


(よし、これでぼかし肥料を作ってみよう)


 こうして信次郎の、小さな挑戦が始まった。


(あれ? チート農家でぼかし肥料? 地味過ぎない? 大丈夫か俺!)



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