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第31話「家族が増えました」

 「メェー」


 町へ向かう道の途中、どこか間の抜けた鳴き声が響いた。


 信次郎が振り返ると、露店でヤギが売られていた。白く小さな体に、ふわふわの毛並み。道行く人が、思わず手を伸ばしそうになるような愛らしさだった。


「ヤギって、売っているんだ」


 俺がつぶやくと、、横でリナが淡々と説明した。


「寒さに強い。粗食で育つし、乳も出る。来年の気候予想がでたからな。飼育を考えるものも多いだろう。面倒はあるが、悪くない選択だ」


 ユウナは、白いヤギにじっと目を向けていた。


「……かわいい」


 信次郎は、そんなユウナの横顔を見ながら、胸の奥が少しだけ温まるのを感じた。


 ヤギの鳴き声が、風に乗って遠ざかっていく。


 そのまま三人は町に入り、教会前の列へと歩みを進めた。


(今日は、冬作物の種と、ついでに油粕ももらうんだったな)


「種の配布はこちらに並んで下さい」


 教会の前では、白い外套を羽織った主教の娘が列を整理していた。


 信次郎に気づくと、ほほえみを浮かべて近づいてくる。


「あら、今日も油粕かしら?それとも種?」


「えっと、両方もらいに来ました。」


 主教の娘は一瞬だけ、ユウナとリナに目を向けた。


「では、あなたはこちらへ。お連れの方は、そちらで種を受け取ってくださいな」


(その“お連れの方”って言い方、なんか他人行儀だよな……)

(それにしても、ユウナとリナの視線、なんか刺さる……)


「すぐ戻る」と言って、荷車を押して教会の中に入る信次郎。


 リナがぼそっと言った。


「鼻の下って、本当に伸びるんだな。図解できそうだった」


 ユウナがくすっと笑う。



「教会では種も配っているんですね」


 信次郎が何気なくそう聞くと、


「ええ、特に気候が大きくかわるときはね。食べものが尽きないように、国が先に動くの。それが、この国のやり方なの」


(気候の変動に備えて、種を守る国……。それが当たり前の世界か。俺のいた国は、それを“手放した”って親父は言ってたな。種って、大事なもんだったんじゃないのか?)


「そういえば、お名前伺って」


「あら、名乗っていなかったかしら。私はフィオナと申します」


 白い手袋を軽く掲げて、優雅に一礼する。


「えっと、俺は信次郎です」


 ぶっきらぼうにそう名乗ると、フィオナがふっと笑った。こちらもつられて、少し口元がゆるむ。お互い、今さらだが、ちょっと照れくさくもあった。


(なんだろ、あの笑い方……ちょっと反則級な破壊力だ)


 帰りがけ、清潔魔法をかけてもらう信次郎。フィオナはすぐに交通整理に戻っていく。


(ああ、清潔魔法最高!フィオナ嬢は今日は忙しそうだな。)


 油粕をもって、信次郎が外へ戻ってきた。


「なんだか、すっきりした顔をしているな」


「……あ、あぁ、清潔魔法をかけてもらったからな」


(清潔魔法をかけてもらってすっきりしただけ……ほんと、それだけだよ?)


「ふむ」


 妙な雰囲気に包まれたまま、信次郎も種の配布列に並ぶ。


「ほら、冬用の種麦だ」


「ありがとうございます」


 ユウナとリナが深々と頭を下げる。

 信次郎も見習って、頭を下げた。


(これで冬の備えができるな。……ちゃんと、やれてるよな、俺)


 そのまま三人は列を離れ、町の通りを歩き出す。


 あのヤギの前を通りかかったとき、ユウナが足を止めた。


「……やっぱり、かわいい」


 白いヤギが「めぇ」と鳴いて、ユウナの手に鼻先を寄せた。ひやっとして、それでいて、どこかやさしいあたたかさが伝わる。


「どうする、飼うのか?まぁ、世話をするのはユウナや信次郎になるが」


 リナが言うと、ユウナが信次郎のほうを向く。


「家族……増えても、いいよね」


 信次郎は、ユウナのその一言に、どきっとする。


(ヤギが一匹増えるだけ、それだけだよ)


「名前、決めたよ。メリィ」


 ヤギが「めぇえ」と鳴いた。


「こいつも気に入ったみたいだな!」


(こっちの世界でも羊はメリィなのか、あれ、買ったのヤギだよね、それに、メリィさんの羊だから、メリィさんは飼い主じゃん!)


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