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26 ほーんと仲が良い

複数ちゅー入ります。

苦手な方はご注意ください。

 ウォルフさんが正式に夫となってから、わたしの護衛役がウォルフさんのメインの仕事になった。

 ヒューイさんの障壁もあるしいらないと言ったけど、すでに諜報部隊を外され本人も戻る気はなかったらしく、今は他の仕事もちょこちょここなしつつ基本はわたしの側にいる。わたしの話し相手が専らの仕事だ。

 なんならそうなることも計算済みだったかのような余裕っぷりなので、クラウドさんがいやーな顔をしていた。

 後から聞いた話だけど、他の夫たちはそれを知ると皆一様にウォルフさんの脇腹へと一発入れたらしい。わたしの見ていないうちにこっそりやってたみたいだけど、カインさんが笑顔で拳を放つところを見てしまったのは衝撃だった。





 その日はウォルフさんと仕事がお休みのヒューイさんが部屋に来ていた。

 この二人、ヒューイさんは十九歳でウォルフさんは二十九歳と歳の差十歳なのだけど、ぽんぽんとはずむ会話の掛け合いを聞いてると全く歳の差を感じない。

 要するに、仲良いなあと思う。

 今もわたしが作ったクッキーを奪い合いながら食べていて。


「ちょっとウォル!さっきから食べ過ぎ!僕の分が無くなるじゃん!」

「ちまちま食べてんのが悪い」

「ちまちま!?どこが!?お前の口ん中の容量とスピードが異次元なだけだろ!?」

「じゃあ異次元めざせー」

「ぶっとばす」


 わーわーぎゃーぎゃー、ほーんと仲が良い。


「仲良いねえ」


 思わず口に出すと、二人から一斉にギロリと睨まれた。


「どこが!?何をもってして!?」

「こんなひよっこと一緒にしないでくれますー?心外ー」

「誰がひよっこだって?」

「ぴよぴよ言ってる自覚ねえのか」

「言ってない!」


 終始こんな会話をしてるものだから微笑ましいやら呆れるやら。


「他のみんなも仲良いけど、二人は特に会話に遠慮がないって言うか…入団した時期が一緒とか?」

「全然。僕が入団したときこのおっさん既にいたし」

「誰がおっさんだこら。油の乗った二十九歳なめんなよ」

「訓練不足で油過多なんじゃない?さっさと諜報に戻って仕事してきなよ。ハルの護衛には僕が付くから」

「近接の戦闘が苦手な広魔隊隊長一人にハルを預けろと?冗談言わないでくれるか」

「僕は近接が苦手なわけじゃない。後先考えず突っ込んでいくお前らを援護してあげる為に後ろに控えてあげてるんだ。感謝しなよ」

「話が逆だな。お前らが攻撃しやすいように俺たちが先制攻撃して時間稼ぎしてやってんだ。感謝して欲しいのはこっちだぜ」


 ……うーん、やっぱり仲悪いのかも。

 舌戦が止まらない二人の間に座って、強制的に終了させる。

 二人はまだ言い合いたいようだったけど、わたしが間に入ったことで一応黙る。


「じゃあ二人とも隊長になってから今みたいな感じになったの?」


 両方の顔を交互に見ながら聞いてみる。


「いや…まあ割と最初からこんな感じだったな。こいつは年も立場も関係なく小生意気なガキだったし」

「言っとくけどカインやリアドたちにはもうちょっと話し方変えてたからね。ウォルに遠慮がなかったのは…やっぱお互い平民出だからかな?」

「まあそれはあるかもな」


 二人はうんうんと頷いているけど、新事実をさらっと聞いてしまった。

 そういえばクラウドさんたちは家名を名乗ってた気がするけど、ウォルフさんとヒューイさんは名前しか聞いていない。

 平民には苗字みたいなものはないのかもしれない。


「あれ、言ってなかったっけ?」


 わたしが黙ってしまったものだから、二人が顔を覗いてくる。


「わたし、この国のことまだ全然分かってなくて…今さらな質問だけど、やっぱり身分制度の影響って大きい?」


 わたしの質問に、二人はわたしを挟んでお互いを見合う。

 やっぱり変な質問だろうか。


「わたしのいた国って、貧富の差はあったけど身分っていうものは一部にしか無かったの。国民全員に同じ権利が一応は与えられていたというか…。ここではみんな壁とか感じないから分からないんだけど、王都とかでは貴族と平民の差って大きいものなのかなって…」

「ああそういう」


 なるほどとヒューイさんがポンと手を打つ。


「そりゃ大きいよ。領地を持つ貴族は領民を大事にするのもいるけど、王都に住んでる領地を持たない貴族なんかは、平民を下に見てる奴ばっかだよ。特に貴族の女なんかは同じ人間だと思ってないんじゃない?」

「人間どころか虫ケラ扱いだな」

「でも、そういう平民の人たちが物を作って売ったり生活のお世話をしてるからこそ、貴族は生活出来るわけでしょう?」

「そういった考えを持つ者もいるにはいるが…まあそういう奴も自分たちの利益の為に平民を使うことしか考えてないな。平民の間に生まれた女児が貴族に奪われないよう制度を作ったのも、結果自分たちの為だろうし」

「…どういうこと?」


 何だか嫌な話になってきた。


「女不足は貴族も平民も一緒だからね。貴族が金にモノを言わせて平民の女を残らず奪ってったら平民の子が生まれなくなるでしょ?下で働く奴がいなくなると困るのは自分たちだ。だから平民から養子を取る人数を制限してるんだよ。平民を守る風で、全部自分たちの為さ」

「まあ要するに、ハルみたいな純粋な考え方で平民を思う貴族は少ないな」

「そっか…」


 貴族と平民。

 本とか映画とかでしか知らない、馴染みのない身分制度。だけどその格差は、わたしが想像するものとあまり変わらないのかもしれない。

 それを幼いこの二人が経験したかもしれないと思ったら、何だかすごく嫌な気持ちになった。


「二人も…嫌な思いとか、した?」


 そう口に出してしまってからハッとする。

 なんて不躾なことを聞いてるのか。

 嫌な思いをしていたなら、そんなの話したくないに決まってる。


「ごめん、なんでもない」


 首を横に振ってごまかそうとしたけど、一度出た言葉は戻らない。

 ヒューイさんが覗き込むようにわたしを見てきた。


「同情してくれてるの?」


 同情…

 そういう言葉にすると、何と傲慢なことを口走ってしまったのか思い知る。


「…そう思わせるような聞き方した…ごめんなさい」

「なんで、良いよ別に。ハルが俺たちの過去を気にかけてくれるなんて嫌なはずないじゃん」

「………嫌じゃないの?」

「何でだろうな。あんただから不思議と、嫌じゃない」


 辛い思いをしたのかもしれないのに、ヒューイさんもウォルフさんも優しく笑ってる。

 それはごまかしでもわたしへの気遣いでもない、本当の笑顔に見えた。


 けれどすぐにその表情は何か含みを持たせた笑顔に変わって、あれと思う。


「したよ、いっぱい。嫌な思いも屈辱的な思いもたくさん。可哀想だって憐れんでくれるなら…慰めてくれる?」

「慰めてって…」

「俺たちを癒せるのはあんたしかいないからな。どうやって慰めてくれる?」

「どう…って…」


 なんか二人とも、じりじり近づいてきてない?

 …あれ、真ん中に座ったの間違ってた?


 移動すべくさりげなく立ち上がろうとしたら、左右から両手を捕えられた。

 それだけでわたしは逃げることが出来ない。


「俺たちもそろそろあの四人に追いつきたいところだな」

「お前らもひと月待てって言われたけど、そんなの無理に決まってるよね」

「愛してるよ、奥さん」

「僕も、愛してるよ、ハル」


 急になんでどうしてこうなった?

 両側から色気たっぷりの愛の告白をされてパニックになる。

 さっきまで全然そんな話してなかったのに!


 二人はもう片方の手でわたしの頬や首筋を撫でる。

 くすぐったいような気持ちいいような感触に身体が震える。

 急に鼓動が早くなってきて、呼吸がしづらくなってきた気がする。


 わたしは知ってる。

 この後に来る、我を無くしてしまうような快感を。

 いっそ立ち上がって逃げてしまいたいのに、両手を捕えられるだけでこんなにも身動きが取れない。


 どちらを向けば良いかも分からなくて前を向いたままふるふる震えるわたしを、二人はくすと笑った。


「かーわいい」

「拘束、そんなにきつくしてませんよー?逃げるなら今だ」


 …拘束、きつくないの?

 ううん、そんなことない。しっかり握られてる。

 だからわたしは逃げられない。


「ほら、手、離したよ。これなら逃げられるでしょ?ハルが逃げるなら、残念だけど今日はガマンする」


 見ると手の拘束は解けていて。

 …でもだめ。だって足が動かないんだもん。

 これじゃ逃げられない。

 でも、待って。なんでわたしの足動かないんだろう…


「そんな期待した顔されちゃ…応えないわけにいかないな」


 期待?期待なんかわたし…


「ね、ハル。こっち向いて。キスしよ」


 頬に手を添えられて自然と顔が向いてしまう。

 …そっか、わたし、この先を期待してる。

 今嬉しいって思ってる。

 二人がわたしを求めてくれることが、この触れ合いが嬉しい。

 胸がずっときゅんきゅんしてて、ものすごく恥ずかしいけど、それ以上に嬉しい。


 ヒューイさんの顔が近づいてきて、わたしも目を閉じる。

 柔らかい感触に幸福感でいっぱいになる。

 美少女と見紛うばかりの綺麗な顔立ちなのに、こうやってわたしの頬を覆う手も首の太さも肩幅も、少し強引に押し付けてくる唇も、やっぱり男の人のそれで。

 唇の割れ目を舐められてたまらず口を開くとぬるりと舌が侵入してきて、あっという間にわたしの舌を絡めとる。

 ヒューイさんの口付けは、ひたすらわたしを堪能しようとする所有欲みたいなものが伝わってきて、それがなんだかすごく嬉しい。

 舌全体を包むように撫で上げられ、たまにその舌が上顎をかすると気持ちよくておかしくなる。


 後ろからはウォルフさんが、チュニックの上に着ていたカーディガンをずらして。

 台形にカットされたチュニックの襟からはシュミーズのレースが見えていて、伸縮する柔らかいレースは指で引っ張れば簡単にうなじがあらわになる。

 うなじをゆっくりと舐められて泣きそうなくらいゾクゾクしてしまう。

 たまにその舌が背中の方まで降りるものだからもうたまらない。

 ぎゅっとヒューイさんの服を掴んで快感に耐えていると、


「ちょっとウォル、ハルがキスに集中出来なくなるからあんまり刺激的なことしないでよ」


 ヒューイさんの言葉が聞こえているのかいないのか、ウォルフさんは唇の動きを止めない。

 ちゅーっとわたしの背中に吸い付くと、チリと小さな痛みが走った。


「…っ」

「…やったね?」


 ヒューイさんが剣呑な目つきになり、同じくレースをずらして鎖骨をあらわにする。

 いきなり鎖骨を舐められ始めて混乱していると、後ろから手が伸びてきて顔を横に向かされた。


「今度はこっちだ」


 ウォルフさんに唇を奪われた。

 最初から厚い舌を入れられて、これでもかと口内を蹂躙してくる。

 猛々しいほどの情熱でもってわたしの舌は舐めあげ吸い取られて、その激しさにクラクラしてしまう。

 本気になった大人の男の人とは、こんなにも力強く愛情を示すものなのか。


 ヒューイさんは鎖骨の下の際どいところを舐めていて、それ以上はだめだと手で押し返そうとするのだけど、びくともしない。

 さっきと同じく吸いつかれると同時に小さな痛みが走ってそれを何度も繰り返している。


 ようやく二人が身体を離したときにはわたしはもうヘロヘロで。

 やっぱり二人と同時にチューをするってわたしにはハードだと実感した。


 くたりとソファに沈み込むと、二人が愛おしそうに頭や頬を撫でてくれるから、その気持ちよさにうっとりと目を瞑る。


「だめだよ、そんな無防備な顔しちゃ。続きしちゃうよ?」

「そうなったらさすがに止まれないな」


 ギョッとして起き上がると、二人は吹き出した。


「大丈夫、あんたが良いって言うまでしないさ」

「とりあえずあの四人よりちょっと頭出たから気分はすこぶる良いよね」


 言ってヒューイさんはレースをずらすとわたしの鎖骨を見て満足そうにニヤリと笑った。

 そこに目を向ければ…


「…!?」


 わたしは声にならない悲鳴をあげた。

 胸元に散るいくつもの赤い跡。

 それを指でなぞり得意げな顔でわたしを見るヒューイさん。


 …こ、これは…世に言うキスマークというやつ!?

 え、さっきちょっと痛かったのってこれ?

 こんな簡単に跡って付くものなの!?


 愕然としていると、ウォルフさんも背中側のレースを押し下げた。


「お前の執着心まんまの数だな。俺は一つで十分だけど?」


 その言葉にギョッとする。


「まさかウォルフさんも…?」

「当たり前。こんな綺麗な背中、俺のものって主張しとかないと」

「ウォルだって執着心そのままの発想じゃん」


 こんな跡をいくつも付けられて、キスに溺れてしまう自分といい何だか自分の身体がエロいものに作り替えられてるみたいで、羞恥でどうにかなってしまいそうだ。

 

 真っ赤になって黙るわたしに気付き、二人は少し慌てた様子で顔を覗いてきた。


「ごめん、嫌だった?」

「あんたが嫌がるなら二度としない」


 ーーー違う。嫌じゃない。

 嫌じゃない自分が信じられなくて、ただただ恥ずかしいだけだ。

 こんなことを受け入れられてるなんて、わたしはどうなってしまったんだろう。

 …でも、だから後悔とかそういった気持ちは微塵もなくて。


「嫌じゃないの。戸惑いは強いけど、全然嫌とかなくて。むしろ…こんなにふわふわした幸せな気持ちになるなんて自分でも驚いてるくらいで…」


 言ってて恐怖が襲ってくる。


「こ、こんなの変でしょ?同時に二人にキスされるのもキスマーク付けられて自分のものだって主張されるのも嬉しいとか…わたし、どうなっちゃったんだろ…」


 左右から二人にぎゅっと包み込まれた。


「変でも何でもないさ。あんたが俺たちと同じ想いを持ってくれてる証拠だろ?」


 ウォルフさんがわたしの頭に顎を乗せて言う。


「そうだよ。それって、ただの愛の告白だって分かってる?」


 ヒューイさんがわたしの肩に頭を置いて耳元で言う。


 愛の告白?

 わたしが言ったのってそういうことなの?


「これ以上可愛いこと言わない方が良いぞ。俺たちがその気になれば簡単にあんたの服ひん剥けるんだから」

「もういっそそうしちゃう?大丈夫、絶対に気持ちよくしてあげるから」

「!?し、しない!」


 あわてて身じろぎすれば、二人はあっさり解放してくれた。

 口で残念なんて言ってるけど、冗談だったのは一目瞭然だ。

 くそう。ヒューイさんまで大人の余裕じゃないか。


 わたしは一生、夫たちに敵わないかもしれない。




 そんな心中の不満は、扉を叩く音によって遮られた。






とうとうストックが切れてしまいました。

今後は週2〜3話ペースでの更新を目指して頑張ります。

毎日のぞいてくださる方には申し訳ありませんが、更新をお待ちいただけると幸いです。

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