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14 あれ?なんか忘れてない?

 その後。

 カインさんがいかに理不尽なことを言ってるかを、わたしが布団の中でちょびっと泣きながら訴えたら、カインさんもようやく冷静になったようだ。

 すみませんと何度も謝り、休ませるはずだったのに無理をさせたとまた謝り、シーツ越しにわたしの頭にキスをして、しばらく寝てくださいと言って部屋を出て行った。


 こんな状況で寝られるか!と思っていたわたしだけど、昨日一睡もしていなかったせいか、いつのまにかスコンと深い眠りに落ちていた。

 そして。


「寝過ぎた…」


 カーテンの隙間からオレンジ色の日が差し込んでいることから、お昼も飛び越えて夕方まで爆睡していたらしい。一回も起きなかった自分にびっくりだ。

 日はあっという間に沈んで、すぐに薄闇が部屋を支配する。

 急にもの悲しい気持ちになって、昼夜が逆転してぼーっとする頭を振りながら、居間に続く扉に向かう。

 開けると居間は煌々と明りが付いていて、その眩しさに一瞬クラリとした。

 ーーーと、横から手が伸びてきてわたしの身体を支える。


「シドさん?」

「うん」


 見ればそれはシドさんで。両手でわたしの腕と腰をしっかりと支えてくれていた。

 ありがとうとお礼を告げると、少しだけ表情が柔らかくなる。だんだん分かってきたのだけど、これはシドさんなりの笑顔だ。


「おはよう、眠り姫」

「寝過ぎてまた夜眠れなくなるんじゃないか?」

「顔色は悪くないようですが…体調はいかがですか?」


 ソファーにはリアドさん、クラウドさん、カインさんがゆったりと腰掛けていた。


「大丈夫。かなり寝過ぎちゃったけど…」


 その手にはそれぞれトランプのようなカードが握られていて。わたしが起きるまで、カードゲームに興じていたらしい。

 この部屋に四人全員が揃っているなんて、珍しいことだ。


「みんなお仕事はもう良いの?…もしかして、わたしが心配かけたせい?」


 だとしたら申し訳なさすぎる。

 ただの寝不足だから放っておいてくれて大丈夫だったのに。

 大きな責務を負うであろう多忙な彼らは、全員のスケジュールを調整して、出来るだけわたしが一人にならないようにしてくれている。

 だから四人全員が同時に顔を出すのは非常に稀だ。


「違う違う。今夜はたまたまだ」

「たまにこういうこともあるのだよ。ハルが気に病むことではないよ」

「私は元々今日一日お休みでしたので」


 それぞれが間髪入れずにフォローしてくれる。横を見るとシドさんもこくこくと頷いていて。なんて優しい人たちだろう。

 ほっこりと嬉しくなって、シドさんと共にソファーに腰を下ろした。


「夕飯はどうする?」

「みんなは?」

「私たちもまだだよ」

「じゃあ一緒に食べる」

「なら運ばせましょう」


 言ってみんなはカードをしまったりと片付けを始めたので、わたしも着替えてくる、と立ち上がった。

 わたしが今着ているのはネグリジェのようなワンピース型の寝巻きなので、今さらな時間だけどさすがにお行儀が悪いかなと思った次第だ。


「良いんじゃないか?あとは風呂に入って寝るだけだし、ここには俺たちしかいないしな」

「そう?」


 正直めんどくさいと思っていたので、ラッキー、とまた座り直す。女としてはアウトな気もするけど。

 部屋の前まで運ばれた食事が四人の手で中に運び込まれ、ダイニングテーブルに豪華かつものすごい量の料理が並ぶ。

 これ全部食べ切れるのだろうか。

 なんて思っていたわたしの心配はただの杞憂で、豪快かつ品良く、大量の料理は四人の口の中に消えていった。

 わたしにももっと食べろと促されたけど、四人の食べっぷりを見てるだけで満腹になってしまった。体力勝負の男の人の食欲すごいな。


「そういえばハル、外に出たいと言っていたでしょう?来週にも出かけられそうですよ」

「本当!?」

「全員の休みを合わせることが出来そうでね。夫婦水入らずというわけにはいかないけれど、四人いれば団員の護衛も減らせるし、自由がきくよ」

「女性用のブティックなんてのはないが、麓の街に下りればいくつか店もある。行ってみるか?」

「うん、行ってみたい!」


 嬉しい!やっと外へ出られる!

 こちらへ来てから初めての外出だ。バルコニーから見下ろすだけだった場所へ、ようやく行くことが出来る。


「わたし、あの岩山にも行ってみたいな」

「岩山?あそこは本当にただの岩山だぞ」

「確かキラキラ見えると言っていましたね」

「うん。何でわたしにだけそう見えるのか分からないけど、近くでどうなってるのか見てみたいな。行くの大変?」

「いや、馬で行けば大した距離じゃないが…」

「もっとハルが楽しめそうな場所もあるよ?」

「うん、そういうのも行ってみたいけど、せっかくこんな大自然に囲まれてるんだから、その自然を思いきり堪能したい」


 自然の中を馬に乗って進むなんて、想像するだけで気持ちよさそう。

 けれど皆にはあまりしっくりきていないみたいだ。クラウドさんたちにはあまりに見慣れた光景だからなのかもしれない。


「女性の行きたい場所が岩山とは…ハルには本当に驚かされますね」

「そんなに言うほどのこと?ね、シドさん、別に変じゃないよね?」


 隣にいるシドさんをこちら側に取り込むべく身を乗り出す。口数の少ないシドさんは、あまり意見を挟んだりしないから、こういうときは素直にうんと言ってくれることが多い。


「ハルの行きたいところが俺の行きたい場所。ハルが喜ぶならどこにでも連れて行くよ」


 そしてたまに、無自覚に小っ恥ずかしいことを言う。シドさんみたいな人に言われるとどう返せば良いのか分からなくて、顔が熱くなってしまう。


「えーと…あり、がとう?」

「うん」


 かすかに微笑む様がかっこよくて可愛い。なんかずるい。


「シドに良いところを持っていかれてしまったのだけど…」

「別に我々は反対してるわけではないのですよ?」

「岩山だな。行こう、そうしよう」


 慌てて岩山散策計画を練り出した三人に苦笑する。

 わたしは今、とても幸せだ。

 この幸せがずーっと続けば…


 ーーーあれ?

 なんか忘れてない?

 確か不穏な輩が来るとか何とか…

 

「第一騎士団!!」


 ハッとすると同時に叫んでいた。

 何ですぐ忘れるかなわたし!!





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