11 好きになってしまった。この人を。
結構がっつりチューしてます。
苦手な方はご注意ください。
ああわたし。ちっとも嫌だと感じてない。
それどころか、こんなに幸せなことなどあるだろうかと、全身がふわふわとしている。
数秒で離れてしまった唇はわたしと比べるとずっと薄くて、意志の強そうなあの唇が、あんなにも柔らかく心地よいものだなんて。
……きっと名残惜しそうに見つめてしまっていたのだろう。
ふと見上げると、クラウドさんが熱を帯びた瞳でわたしを見ていて。
ーーーもう一度、唇を合わせた。
そうなるのが自然なように。
クラウドさんの熱い唇の感触にとろんとなっていたら、ぬるりと舌で唇をなぞられた。
え、と思っている間に舌はわたしの唇を割り、遠慮なく侵入してくる。
驚いて拒むことも出来ず固まったわたしの舌を見つけると、クラウドさんの舌はそっと、わたしの舌の先端を撫でてきた。
「んぅっ」
未だかつて経験したことのない、ぞわぞわとした感覚が背筋を走って、思わず舌を引っ込める。
すると焦ることなく、クラウドさんの舌はわたしの上顎をくすぐる。
「んんん!」
快感と呼ぶにはあまりに刺激が強くて、反射的に自分の舌で抗議をすると、あっけなくわたしの舌はクラウドさんのそれに絡め取られた。
クラウドさんのキスはくすぐるように優しく、ときに舌ごと包み込むように激しい。
唇を合わせ、舌で舌を撫でられることがこんなにも気持ちいいなんて。
「んっ…はぁ、ぅんんっ」
唇を優しく喰まれ、口内をくすぐられ、舌を吸われて……クラクラと頭がバカになってしまうような快感に、力が抜けて立っていられない。すがるようにクラウドさんの服をギュッと掴むと、お返しとばかりに背中に回る手の拘束が強くなる。
そうされると、もうどこにも逃げ場がなくて、より深くなるキスにわたしは翻弄され続けた。
ようやく解放されたときには、わたしはもう全ての体重を預けてしまうくらいにヘロヘロになっていて。酸欠なのか頭もぼーっとして息をするのがやっとの状態だ。
ただ、呼吸を整えていると段々冷静になってくるわけで………
ーーー今わたしは、とんでもないことをしたのでは!?
十八年生きてきて、生まれて初めて異性とチューを…しかもいきなり濃厚大人チューをしてしまった…
男の人と唇を合わせるだなんて気持ち悪いだろうとしか思ってなかったのに…気持ち悪いどころの話じゃない。脳みそが溶けてしまいそうなほど気持ちよかった。
初めてでここまでされて嫌じゃないとか…あまつさえ気持ちよかっただなんて……わたしはもしかして痴女なんだろうか…!
「ハル、大丈夫か?悪い手加減出来なかった」
恥ずかしくてたまらない!
覗き込もうとするクラウドさんの顔をまともに見られなくて俯くと、息を飲むような音が聞こえた。
「…ごめん、嫌だった?」
肩に手を置かれ、そっと身体を離される。
今までぴったりくっついていた部分が空気に触れて冷んやりとする。
クラウドさんの手の強張りと声の硬さで、やってしまったと慌てて顔を上げた。
そこにあったのは、傷ついた瞳を隠そうと目を伏せ、唇をきゅっと固くするクラウドさんで。
わたしの羞恥などどこかへ吹っ飛んだ。
「違う!嫌じゃない!」
「…本当に?俺が調子に乗ったから怒ったんじゃ?」
「怒ってないってば」
「じゃあ気分は?悪くなってないか?男に触れられるのは嫌だと言ったろ?」
「気分悪くなったりしないよ!だって…」
だって…
クラウドさんだから。
「あ、あれ?」
クラウドさんだから、嫌じゃない?
それってつまり…
「だって?」
先を促すクラウドさんの顔をまじまじと見て、カァッと顔が熱くなった。
元々最上級のイケメンだったけど、こんなに胸がバクバクするほどかっこよかっただろうか。
「ハル?」
ほんの少しだけ首を傾げる姿が、可愛くてかっこよくてたまらない。
「あ、あの、わたし…」
「ん?」
ああ、そうかわたし。
「ク、クラウドさんだから、嫌じゃ…なかった…です…」
好きになってしまった。この人を。
この強く、優しい人を。
わたしの全てを包み込もうとする、優しいこの人を。
「…俺だから、嫌じゃなかった?」
「う…はい…」
「どうして、と聞いても?」
わたしの言葉と態度で、きっと気付かれたのだろう。クラウドさんの表情がいつもの余裕を取り戻している。くそう。
「そ…れは…その、あの…」
「ハル、好きだよ」
「ええ?あ、ありがとう?」
「ハルは?俺を好き?」
「うっ」
目をすっと細めて色気たっぷりに見つめられ、
「す、すき…です…」
わたしは口を割らざるを得なかった。
相手に気持ちを告げるというのは、かくも恥ずかしいものなのかと、わたしは人生で初めての告白で知った。
でも、目の前ではにかむクラウドさんを見て、恥ずかしくも嬉しいことなのだなと思った。
「ありがとう」
再びぎゅっと抱き込まれ、頭にちゅっとされた。
唇にはもうしないのかな、なんて考えてしまったわたしは、やはり立派な痴女だろう。
そんな考えが読まれたのか、わたしと目が合うとクラウドさんはぴたりと動きを止め、まずい、と言って身体を離した。
「クラウドさん?」
「ハル、そんな目で見るな」
「は、え?そんな目?」
「そんな濡れた目で見られたら、もう一度キスしたくなる。したら間違いなく、お前を隣の部屋に連れ込む」
「ぬ、ぬれた?え…隣!?」
隣の部屋の扉を見て、その先にあるものを思い浮かべて………
ぎゃっと叫んでこれでもかとクラウドさんから距離を取った。
あっぶなー!!
ギリギリセーフ!みたいに露骨にホッとしていると、クラウドさんにじっとりと睨まれた。
「…複雑な気分だが…今はそれが正しい」
「えっと、ごめんなさい」
「謝るな。俺もそろそろ行かなきゃならないしな」
「あ…」
ウォルフさん!!
…このちょっとの間に色々あり過ぎてすっかり忘れてた!
どれくらい経ったっけ?絶対不審に思ってるよね…
怒ってまたこの部屋に乗り込まれたら、何て言えば良いのか…
い、言えない!本当のことは恥ずかしすぎて絶対言えない!
「大変!クラウドさん、早く行ってあげてください!」
急いでクラウドさんの元に駆け寄り、腕を引っ張る。いや全然びくともしませんがな。
「いや、別にそんな急がなくても…」
「どれだけ待たせてると思ってるんですか!きっとご立腹ですよ!」
部屋に来られる前に!早く!
背中を押すと何とかノロノロ歩き出した。
「あいつが怒ろうが痛くも痒くもないんだが…」
「軍隊が来るって言ってたじゃないですか!わたしも気になるので、ちゃんと聞いてきてください!」
一番話さなきゃいけないのはそのことだったのに、随分と脱線してしまったよ!
「まぁ来たところでなぁ。そいつらの前で俺たちのイチャイチャを見せつければ良いんじゃないか?」
「そんなんで解決するはずないでしょ!ほら、早く聞いてきてください!明日また教えてくださいね?」
扉を開けて押し出すと、クラウドさんが不貞腐れた顔で振り返った。
「さっきまでの雰囲気が台無しだ」
「しょうがないじゃないですか」
「この国の男は繊細なんだ。もっと優しく扱ってくれよ、奥さん?」
言ってほっぺにちゅっとする。
その口を耳に寄せて、
「続きはまた今度」
低く、たっぷりと色気を含んだ声で言うと、扉の向こうに消えていった。
わたし……心臓もつかなぁ!?