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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第98話 桃李満門の私達がひた隠す思惑と、ポストスクリプト

連花(れんげ)くん、一緒に乗って帰るやろ?」



つっきーと氷良(つらら)さんの力技でとりあえず諦めたアイリスを車に行くように言った後、氷良はれーくんにそう声をかけた。



「では、お言葉に甘えて。」



「気にせんでええよ。運転するの君やし。」



「やっぱりそう言う流れですか…………。まあ、構いませんよ。お疲れでしょうし。」



「そやな。今日一日温泉巡りで疲れたわぁ。」



皮肉たっぷりに言う氷良にれーくんはあからさまに嫌な表情を浮かべたが、特に何も言わない。氷良はわざとれーくんにいたずらをして楽しんでいるみたいな部分がある。あれで結構気に入っているんだろうな、なんて思って少しだけ感じる嫉妬心を私は噛みしめる。


氷良とれーくんが付き合うのも結構辛くていいかもしれないな、なんて考えて、少しだけ気分が高揚する。


そんなことを考えていると、ツン、と二葉(ふたば)に小突かれた。


「顔に出てますよ。変態。」



ゴミを見つめるような冷めた表情で二葉は私を見た。



「あ、本当?気を付けるね。」


流石に、他の人に気が付かれるのは少し恥ずかしい。私は必死で表情を取り繕った。


「できればその趣味が無くなってくれることを願います…………。」


「ん-無理!」



まだ目覚めたばかりだけれど、この痛みの快楽を忘れられる気がしない。そんな私を見て、二葉は深くため息を吐いた。



「なあ君。方角一緒なら君も乗ってかへん?」


氷良は(りょう)にそう声をかけた。



「お心遣い感謝するが、もう少し槿(むくげ)といたい気分なんだ。」



多分、断るための口実なのだろうけれど、それにしたってやたらと格好つけた理由で涼は断った。そう言われて少し嬉しそうに顔を赤らめるつっきーもちょっとどうかと思う。割とキツイと思うけれど、恋は盲目、というやつなのかもしれない。



「偉い恰好ええ彼氏さんやなあ。」


案の定、氷良には皮肉を言われる始末だ。そんな皮肉に気が付かなかったのか、それともあえて無視をしたのかわからないけれど、涼は気にしない様子で、


「ありがとう。それではまた、機会があれば。」


それだけ言うと、つっきーと一緒に、住居棟に向かって行った。



2人の影が見えなくなると、氷良は自分の顎に手を添えて、悩ましげな口調で独り言のように呟いた。


「彼氏持ちに惚れるとか、流石にいかんやろ連花君…………。」


「だからそれ違いますから。いいからさっさと帰りますよ。」



そう言ってれーくんは面倒くさそうに氷良の背中を押し、車の方に向かう。その様子を二葉と笑いながら見ていた私は、ふと、言わなければいけないことを思い出した。


「ねー、れーくん。」



「はい、なんですか?」



彼は氷良の背中を押しながら、顔だけこちらに向けた。


「言いたいことあるからさ、帰る前に部屋寄ってもらってもいい?2人で話したいんだけど。」


「告白でもするん?」


「変な暴露とかしちゃだめですよ?」



「そんなんじゃないから!」


2人が茶々を入れたせいで、少し顔が赤くなってしまう。れーくんはそんな2人を無視して、



「大丈夫ですよ。」


と私に優しく笑いかけた。



私は、彼のこういう笑顔が好き。慈しむような、優しい笑顔が。だからこそーーーー。





ーーーーーー


「それで、用件は?」


私の部屋の、二人掛けのソファに座りながら、れーくんはそう訊ねた。


「女の子の部屋に入ったんだし、もうちょっとどぎまぎしたりしてもいいんじゃない?」



相変わらず、真面目と言うか、なんというか。私がベッドに座ったとたん、早急に切り出した彼に思わず苦笑いをしてしまう。


「残念ながら、そんな純な時期はとっくに過ぎましたよ。もう23歳ですよ、私達。」


そう言った彼は、昔と変わらない、優しそうな笑みを浮かべていた。



「えーつまんない。てかれーくんそんな時期なかったでしょ?」


「ありましたよ。人並みに。」



そう言いながら乾いた笑いをする彼は、冗談を言っているようにも、本音を言っているようにも見えた。



「ほんとかなー?まあいいや。」



そう言いながら、私はベッドから立ち上がり、彼の横に腰掛けた。



「…………あの、近いのですが。」


その言葉から、彼の緊張が読み取れる。ずっと幼馴染で、私の事を女の子と見ていないと思っていた彼がこんなリアクションをしてくれるのが、私はすごく嬉しかった。



「あれぇ?もうそんな純な時期は過ぎたんじゃないのー?」


私は恥ずかしさと、これから話す内容の緊張を誤魔化す為にわざと高いテンションでニヤニヤと彼をからかった。



「はいはい。それで、なんですか話って。」


顔を赤らめながら顔をそっぽ向ける彼のリアクションが新鮮で、可愛くて、私はもっとこうして彼をからかっていたくなる。


きっと、もっと早く、彼の支えになるために、エクソシストじゃなくて、恋人としての道を選んでいたら、それが出来ていたのかもしれないな、なんて。



もう、どうしようもない事を考えながら。選べなかった道の蜃気楼のようなものを、少しだけ踏み出す力に変えて、彼に訊ねた。




「あのさ、れーくん。涼を、どうするつもり?」



「…………どう、とは?」



私の問い掛けの意味を彼は分かっていると思う。れーくんは、そこまで鈍い人じゃないから。



「れーくんはさ、涼を使ってエディンムを、真祖を殺そうとしてるでしょ。」


数秒の沈黙。彼は、黙って前を見つめたまま、重い口を開いた。



「ええ。そのために、私は訓練と称して涼と接触する機会を増やし、彼の弱点である槿(むくげ)さんをあなた達に懐柔させましたよ。」



「私達、そんなつもりはなかったけど。」



「もちろんです。ですが、それでもあなた達は優しいですから。槿さんが懐くと思っていました。そしてその通りになった。」


悪びれもせず、彼は微笑んだ表情を取り繕った。



「そのことは、二葉は知っているのですか?」


「知らないんじゃない?少なくとも私は話してないし。」



私が気付いたのだって、今日だった。


彼は、エクソシストについてや、さっきの3戦目の時その能力の弱点を、涼に一切隠すことなく話したらしい。いくら休戦中とは言え、いくら何でもあんなお遊びの為に敵にそんなことを教えない。


だから、れーくんは涼を敵だと見ていない。むしろ自分の腹を見せて、仲間にしようとしているんだと気付いた。


そして、二葉にはこんなことを教えたくなかった。私は、あの子のお姉ちゃんだから。



「れーくん。出来ないよ。そんなこと。」


「出来ますよ。彼が首を縦に振らなくてもこちらの手の内には槿さんもいる。彼としては、あなた達と槿さんの平穏を崩したくないはずだ。彼がエディンムに勝てるかは、賭けですが。ですが、現状一番可能性の高い賭けです。」



「違うって。そんなことじゃないって。もっと、単純な理由。」


彼は、何が言いたいんだ、とでも言いたそうな訝しげな視線を私に向けた。多分、本当に何が言いたいのか、分からないんだろう。彼は、自分の気持ちよりも、他の人を優先する人だから。だから、気付けないんだろう。



「れーくんは、優しいし、真面目だから。多分、そういうことをしてる自分が、許せなくなるでしょ。黒幕(フィクサー)とか、向いてないって。」




「…………そんなことは、ありません。」



多分、本当に彼はその計画をやり遂げると思う。そうしないと、亡くなった両親と、吸血鬼に殺されていったヴァンパイアハンターの、彼まで連なる銀十字架が、それを望んでいると思っているから。



けれど、彼は人の気持ちを利用して、平然としていられるような人間じゃない。彼の心に重い十字架を背負うことになってしまうような、そんな気がして、私が言わずにおれなかった。



「…………分かった。じゃあさ、辛くなったら、いつでも頼ってよ。」



私は、出来るだけ笑顔を取り繕って、全力で笑った。きっと、顔は引き攣っていたと思う。


「辛い思いなどしませんよ。…………化物を利用したところで。」



「涼の事、嫌いじゃないくせに。友達みたいに思ってるでしょ。」



れーくんは、その一言に露骨に動揺して、その動揺をかき消すように大きな声を出した。


「そんなことはない!あいつは憎むべき化物だ!今は利用するために、わざと!友好的に見せてるだけだ!!なんなら今すぐにでも、あいつを殺したっていい!!」



そう言って、怒っているような表情で私を睨む。きっと、れーくんも気付いているんだろう。それでいて、認めないようにしている。


「わかった。とにかく、いつでも私を頼ってくれていいから。…………幼馴染だしさ。」



「…………話は以上ですね。失礼します。」



怒った気まずさからか、目を逸らしたまま、私の言葉に肯定も否定もせずに、れーくんは扉を開けて出て行った。



『好きだから。』そう言える私だったら、彼のブレーキになれたのかな。なんて、どうしようもないことを、どうしても考えてしまう。


















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