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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第92話 午後7時、3戦目どちらが勝つのか②

「では、3戦目のルールを説明します。」


私にアイリスの情報を話し終えた連花(れんげ)は、タイミングを見計らってそう切り出した。



「まず、範囲は一果(いちか)二葉(ふたば)が結界を張る30m四方内です。槿(むくげ)さんは危険ですので、今すぐ範外に出るようにしてください。」


唐突に指名された槿は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに首を縦に振った。


「私達も外に出るし一緒に見よ?」


「嬉しいけど、私近くにいて邪魔じゃないの?」


「結界張っている間、結構暇なのです。」


「そうなんだ。私結界張った事ないから分からないや。」


槿は関心したような顔でそう言った。大抵の人はそうだろう。そんな会話をしながら離れて行く槿を眺めていると、連花は小さく咳払いをした。



「話を戻しますね。制限時間はなし、先に風船を割られた方の負けです。武器の使用はありですが、相手を直接傷つける行為は出来るだけ避けてください。重傷を負わせた場合、故意的なものは失格となります。」



こんなお遊びのような勝負のルールにしてはあまりに物騒だが、エクソシストの闘い方からすればしょうがないのだろう。基本彼らは人ならざるものを退治するため、その差を埋める武器を用いる。先程聞く限り、アイリスも例外ではなさそうだ。


だからといって、一応人間という事になっている私相手に武器を認めるのかという話ではあるが、別に大した問題でもない。


「ねえ、連花。今日『聖十字の(クロスボウ)』持ってきてないのだけれど、持っていたりしないわよね?」



「最近は『連なる聖十字(チェインクロス)』しか持ち歩きませんね。職質をされるのも面倒ですし。」



「そうよね。まあいいわ。ネックレスは持っているし。」



アイリスは諦めたように呟く。



「問題ないようでしたらそろそろ開始いたしますが。」


「私は問題ない。」


「私も。」


「では、お互い距離を取ってください。」


連花の指示に従い、私とアイリスは互いに背中を向き、10メートル程距離を取ると、再度向かい合った。



改めて彼女を見ると、真面目な表情をしているにも拘らず頭に風船をつけているのがやはりどうしても緊張感が薄れる。



「結界は大丈夫ですか!?」


連花は声を張って桜桃(さくら)姉妹に確認すると、「大丈夫ー!」と一果の声が聞こえた。



「向こうも問題ないようですね。それでは、3戦目、開始です。」



相変わらず連花の熱のこもっていない合図とともに開始する。


私は半身をとり、まずはアイリスの出方を窺った。というか、窺うように指示されていた。



先程連花からアイリスの情報を聞いた際に、私は連花から指示をされていた。



『出来るだけ彼女の実力を引き出したうえで勝ってほしい』と。


先程は一方的に勝利したが、元々は彼女を満足させたうえで勝つことが目的だ。だから私はそれに従い、彼女の得意としている間合いで出方を窺うことにした。



私の動きがない事を警戒したのか、右手に十字架のネックレスを握り、左手には銀製の、刃先にレザーケースが付いたままのナイフを構えて、アイリスもこちらの様子を窺っているようだった。


が、私がすぐに距離を詰めないことを悟った彼女は、握った十字架を強く握り、声高く叫んだ。



模造(アーティフィシャル)聖域(リジョン)!!『飛翔の奇跡(フリアエ)』!!」


その叫び声と共にアイリスの持っているナイフと同じものが彼女のシスター服から飛び出してきて、彼女の周りを空気を泳ぐように飛び回る。



「ちょ、ちょっと待て。」



「今更怖気付いたのかしら?降参するなら怖い思いはしないで済むわよ?」



ナイフを自身の周囲に円を描くように飛ばしながら、アイリスは私を挑発するような表情で言った。



「いや、ナイフもそうだが口上の方だ。今までそんなもの無かっただろう。」


私はそう指摘する。彼女がナイフを操る、というのは聞いていたが、事前情報のない口上にたじろいだ。


先程一果が飛翔の奇跡をした時もそんなものは唱えてなかったし、私の覚えている限り、過去に結界を張られた時も聞いたことが無い。


「『口語祈祷』よ。実戦で使えるのは私くらいね。」


「使えない訳ではなくて使わないだけです。メリットが無いので。」



自慢げに話すアイリスに特に表情を変えず、連花は口を挟む。よく見ると、彼も自分の周りに小さく結界を張っているようだ。



「じゃあ誰も指摘して直さないのはなぜかしら?」


ふふん、と自慢げに鼻を鳴らしながら連花に聞き返す。彼は斜め下を向き、目を逸らしながら、


「誰にでも、そういう時期はあるので………。」


とぼそぼそとこぼした。


なるほど、連花も昔はやっていたのだろう。人間にあるという、そういう時期に。


「はあ?どういうこと?とにかく、涼!あんたは降参しないのね!?」


完全に脱線していたが、アイリスは再びこちらを向いて、回していたナイフを私に照準を定めて止めた。



「一応、その予定だ。」


いまいち気分は乗らないが、とにかく彼女に奇跡を使わせる事には成功した。


「そう、ならば精々逃げなさい!」


シスターが口にしていいと思えない言葉を放ちながら、彼女は6本のナイフを私の頭上目掛けて直線時に放った。



ーーーーーー

「ねえ、アイリスちゃんが言ってるあーてぃ……?って何かな?」


私は、両隣にいる一果と二葉に訊ねた。確か、一果がさっき同じ事をした時は何も言っていなかったはずだけれど。


「あー、あれね。『口語祈祷』。その時は『聖十字の奇跡』を『模造(アーティフィシャル)聖域(リジョン)』って言うんだよ。」


「そうなんだ。その『口語祈祷』って、何か意味があったりするの?」


何故かその質問に、2人とも数秒間答えなかった。


「……まあ、十字架がなくても使える、ってのはあるかな。」


目を逸らしながら、一果は答える


「アイリスちゃん持ってる、よね?」



「………誰にでも、そういう時期はあるのです。」


二葉も同じく、どこか別の方を向いていた。この様子を見るに、きっと2人も同じ様な事をしていたんだろうな。



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