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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第87話 桜と桃

今回の話は基本飛ばしてもいいと言いましたが、後半の会話だけ少し伏線です。まあ別に飛ばしてもそんなに問題のない伏線ですので、結果飛ばしても大丈夫です。

「申し訳ございません。連花(れんげ)司教。」


神妙な面持ちで常盤(ときわ)は連花に声をかける。


「はい、どうされましたか?」


説明に間違いはなかったはずだが、と言いたげな少し緊張した面持ちで連花が訊ね返す。




雄三(ゆうぞう)大司教のお話は、私がしてもよろしいでしょうか?あの方を凄く尊敬しておりまして。」



思っていた内容と違っていた安心感から体の力が抜けたのか、脱力した様子で笑顔を浮かべる。



「ええ、もちろんです。そういえば、以前も仰ってましたね。」


2人の会話を聞いて、一果(いちか)は露骨に嫌そうな顔をする。きっと偉大な人物であるとされているようだし、何度もその曾孫扱いをされていい気持ちはしていないのだろう。もしかしたら、一果が派手な化粧やつけ爪をしているのは、そう言った扱いに反抗する意図もあるのだろうか。



「では、改めて。先程も話にありましたが、『啓蒙派』と『求道派』は互いの主張故に対立した立場にあり、教会がなく、勧誘などを一切行わず、かつ険しい道を究める必要がある『求道派』は徐々に数を減らしていきました。そして、それをどうにかしようと立ち上がったのが、名家『桜桃(さくら)家』だったのです。」



彼の話には確かに先程『不在の聖十字架』について話した時と同様の熱がこもっており、常盤が一果達の曾祖父、雄三を尊敬していることが伝わる。先程の熱が信仰であるとするならば、今回は尊敬、というような感情だろう。



「先述のように、元々『啓蒙派』の名家でしたが、その宗家の一人息子である彼は、周囲の反対を押し切り15歳の時に『求道派』に改宗されました。当然、当初は全く受け入れられませんでした。ですが、その類稀なる才能によって実績を示し、25歳になると、彼は実力主義の『求道派』で大司教の地位となったのです。因みに、大司教になる方の平均年齢は60歳ですので、それだけでも十分に偉業と言えるほどの功績なのです。しかし、彼の偉業はそれだけではとどまらなかったのです。」


確か、両派閥の橋渡しをした、というような事を言っていたはずだ。


「彼は、今度は大司教の地位を捨て、『啓蒙派』に改宗したのです。」


「改宗って、そんなに簡単なんですか?」


「当時は不可能と言われておりましたな。ですが、元々『啓蒙派』の本家筋の一人息子です。多少の無理は通すことが出来たのでしょう。恐らく、それも計算の上で、彼はまず『求道派』に入ったのでしょう。」



確かに、もし彼が『啓蒙派』で大司教の地位についていた場合、その後の改宗は容易ではなかったはずだ。間違いなく家はそれを認めなかっただろうし、そもそも実力主義でない分、より多くの時間がかかった可能性もある。




「そうして彼は32歳で『啓蒙派』においても大司教となり。宗家の当主となった後、聖十字教団において、前代未聞の事件を起こしました。自身の権力を使い、桜桃家ごと、特定の宗派に所属しない、中立の聖十字教団の信徒として認めさせたのです。」



主張が違うという理由で道を違えることになった話を聞いていた私は、それは、許される行為なのだろうか、と疑問に感じた。



「当然、最初は両方の宗派から反発はありました。しかし、大司教は日本聖十字教団に何名かおりますが、日本においては最高位です。かつ、桜桃家は『啓蒙派』の名家です。家系を重視する『啓蒙派』はもちろん、『求道派』においても桜桃家はその実力を示し、数年後には『求道派』においても野蒜(のびる)家、檜原(ひばら)家に並ぶ三名家となったのです。」


「おばあちゃん一家丸ごと中立にした事今でもめっちゃ怒ってますケド。『勝手すぎる』って。」


熱狂的に話す常磐に冷水を浴びせるような口調で一果は言い放つ。確かに話を聞く限り、


「ま、まあ、そういう見方も出来るかもしれませんな。しかし、中立を宣言した際の雄三大司教の言葉は、両宗派が歩み寄る大きなきっかけとなったのですぞ。」


「なんて言ったんですか?」


友人の親族の話だからか、槿は興味津々に訊ねる。私としては、あまり知らない老人が知らない老人の話を熱く語っているだけであるし、正直教会内政治にはあまり興味がない。流石に態度に出さないようにする程度の礼儀はわきまえているが。



「『求道と啓蒙、どちらかではなく両方の道を歩むことこそが本来の主の教えであるはずだ。貴様らが不可能と言うのならば、我々がその道を示そう。その道こそが天へと至る道だ。』」



「…………なんと言うか、凄い人、ですね?」


槿は露骨に言葉を選びながらそう言った。私も同じ気持ちだった。ただし、この場合の凄いは決して褒め言葉ではない。凄い自信家だ、とか凄い性格の人だ、などの時に使う、皮肉のニュアンスがこもった『凄い』だ。



「槿さんの反応も分かりますぞ。実際、当初は多くの人が大言壮語だと思っていたそうです。しかし、先述のように彼は、彼らはその道を歩んだのです。そして、それに倣おうとするものも増え、次第に両宗派は協力関係を結ぶようになったわけなのです。」



「おかげで、私達エクソシストは人数自体はさほど増えたわけではありませんが減少はせず、教会の設備を使わせていただけるようになったおかげで広範囲での活動が可能になった、という事です。」


つまり、桜桃姉妹の曾祖父がいなければ連花は教会を頼ることが出来ず、槿は今も病院にいた可能性が高い、という事だ。そう考えると、私達も彼に感謝しなければならないと思えてくる。



「とにかく凄い人だという事が分かりました。」


「そうよ!凄い人なのよ!けれどその子孫であるお姉様達はもっとすごいんだから!」


勢いよくドアを開け、アイリスは急に話に混じってくる。恐らく、少し前から聞いており、入るタイミングをうかがっていたのだろう。



「そうですな。お2人のご両親も現在本国で雄三大司教と同じ道を歩んでおりますし、成功すればそれ以上の偉業と言えるでしょうな。」



「そうよ!しかもお姉様達はかっこよくて可愛くて最強なのよ!」



会話が微妙に嚙み合っていないし、かっこよくて可愛くて最強だから何だというのだ。大体、可愛いというだけで言えば槿の方が上だと私は思う。間違いなく最弱だが。


当の一果は、面倒になったのかとりあえずピースサインで返事をしていた。




「そんなわけで、そんな偉大なお姉様達を本来の職務に戻す為に勝負をしなさい!」


二葉(ふたば)の方はもういいのか?」


「二葉お姉様は真面目にお仕事をしていたから邪魔しちゃだめだと思ってすぐに戻ってきたわ!」


という事は、彼女はこの何時間か、ずっと廊下で入るタイミングを伺っていた、という事だ。流石に少し不憫に思う。しかし、これまでの話を総合すると、桜桃姉妹は別に『求道派』と言うわけではないから、別にこのまま槿の世話を続けたところでなんら問題はないような気がするのだが、まあ彼女からすればそういう問題でもないのだろう。



「わかった。休憩も済んだし、そろそろ2回戦と行こうじゃないか。」



そうして、私は一敗しているとは思えないほどの余裕な態度で彼女に言った。







文中で一果がギャルっぽい服装をしてるのは反抗的な意味合いなのか、的な事を言っていますがそんなことはありません。趣味です。次の話から本筋に戻ります。

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