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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第78話 午前11時30分、どうしたら彼女は納得するのか。

咳払いをして、再度、連花(れんげ)は口を開く。


「とにかく、そういうわけです。2人の役に立ちたい、という意思は立派だと思いますが、ここは諦めて下さい。」


連花のその言葉にアイリスは反応しない。少し下を向いたまま、押し黙っている



「アイリス……?」


反応がないのを心配に思ったのか、遠慮がちに彼女の名前を呼ぶ。




それでも無言のままだったが、数秒後、アイリスは顔を上げた。



「黎明の言いたいことは分かったけれど、つまり私の実力や経験が不足してなければいいって事よね?」


「いや、話聞いてましたか?不足してるから駄目って事ですよ?」



「そんなの分からないじゃない!」


「いや、3日前一緒に除霊したじゃないですか。あの時点の実力では全然足りなかったんですから無理ですよ。あともう一度言いますが看護師資格も無いじゃないですか!」


「あの時より凄い成長してるもん!医療関係の知識ももう勉強し始めてるし!」


凄いな、無敵だ。思わず感心してしまう。なんというか、口で何を言っても納得しないのだろうな、という確信めいたものを感じた。


案の定、その後も連花としばらく言い合っていたが、連花が何を言っても理屈とも言えない理屈を返して、決して折れようとはしない。


何故そこまで折れないのかが正直私には理解出来なかったが、きっと彼女なりの理由があるのだろう。さして興味もない。



「はぁ……。分かりました。それでしたら、どうしたら納得してくれますか?」


しばらく皆、アイリスと連花の言い争いを眺めていたが、遂に連花がアイリス側に少しだけ歩み寄った。


「別に諦めるつもりな無いけれど。まあそうね、お互い譲るつもりはないのだから、3本勝負とかで決めるのはどうかしら?」



「いいですよじゃあそれで。何で決めますか?」


何であっても負けるつもりは無い、という自信が連花にはみなぎっていた。実際、そうだろう。この4ヶ月で分かったが、彼は人間としては相当能力が優れている。


何故か、そうでない一面の方が目立つが。とにかく、彼女がどれほどの人物かわからないが、今までの話を聞く限り連花と勝負して勝てることなどほとんどないはずだ。



「そうね。まずは、闘って決める、というのはどうかしら。」


「…………本気で、言っていますか?」


何故か自慢げなアイリスとは対照的に、連花は少しぴりついた口調で聞き返す。彼女が連花を舐めているような気配は感じていたが、いくら何でもそれは舐めすぎているように思う。


「アイリス、いくらなんでもめーちゃんを舐めすぎです。」


「え?」


「ごめんね。これは二葉と同じ意見かな。」



どうやら2人共同じ意見だったらしい。しかも表情には出していないが、明らかに空気が先程までとは違う。端的に言えば、怒っているように見える。



「ちょ、ちょっと待って。私、別に黎明(れいめい)と勝負するつもりはないわよ?」


大きく前に手を突き出し、慌ててそう訂正する。


「はい?」


「当たり前よ!だって勝てるわけないもの!」



あまりに堂々と言い放つアイリスに、驚きのあまり身体の力が抜ける。他の皆もそれぞれ唖然とした様子だった。



「そしたら、私達のどっちかってこと?」



もはやどんな表情をすればいいのかわからない様子で一果は訊ねる。


「私がお姉様達に敵うわけないじゃない!」



再び、天使が通る。今日はやたらと天界が近いらしい。


誰もなにも言わない事を不思議そうにしながら、アイリスは口を開いた。



月下(つきした)槿(むくげ)!私と勝負しなさい!」


天使が戻ってきた。自信満々に槿を指差すアイリスの周りを飛び、お茶を一服して少し落ち着いた後、おずおずと槿が口を開いたタイミングでようやく通り過ぎる。



「あの、それだと勝負の意味がないんじゃない、かな?あと、そんなことしたら間違いなく私死んじゃうから…………。」



槿が正論というか、アイリスが暴論過ぎる。たとえその勝負が実現したとしても、だからなんだ、という話でしかない。



「あ、そうだったわね。ごめんなさい…………。」


差した指を少し曲げて、申し訳なさそうにする。その素直さがあって、どうしてここまで暴走できるのかが全く理解できない。


「それなら、そこの!私と勝負しなさい。」


そう言って、ここ、つまり私を指差す。完全に対岸の火事を決め込んで、ここまでほとんど喋ることすら放棄していた私は急な指名に驚きを隠せない。しかし彼女は『そこの』と勝負して何を示すつもりなのだろうか。



「流石に、私は関係ないだろう。」


なんというか、全てが面倒だった。関わり合いたくない、という気持ちでそれだけ伝える。



「関係なくはないわよ!槿の彼女でしょ!」



そうか。彼女視点だとそうなっているのか。となれば、槿の世話をする人を決めるこの勝負に、私は無関係、ということもないのかもしれない。




…………いや、やっぱり関係なくないか?

どうでもいい補足説明です。文中の『天使が通る』は、急に会話が途切れた時に使うフランスのことわざです。なんで涼が知っているかは深く考えないでください。

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