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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第77話 午前11時、どのようにして納得してもらうか。

「アイリス。私は槿さんのお世話について、あなたに依頼するつもりはありません。早く帰りなさい。」



槿がアイリスの伸ばした手を掴むべきか迷っていると、連花がぴしゃりと突き放すような言い方をした。


「なんでよ!?いいじゃない別に!」


そう喚くアイリスに、観念したようにため息を吐き、連花は口を開いた。


「駄目です。これは意地悪で言っているわけでも、あなただから駄目だ、という訳でもありません。一果と二葉、2人でなければいけない理由があるのです。」



「え、そうなの?」


喚きながら駄々をこねるかと思っていたが、思っていたより素直に連花(れんげ)の話を聞く姿勢になる。17歳と言っていたが、随分素直だ。良く言えば純粋で、悪く言えば子供っぽいと言える。



「ええ。この間は言いそびれましたが、大きく分けると3つの理由があります。教団としての理由と、槿さん側の理由、そして個人的な理由です。」



なにやら連花が長い話をする気配を感じて、私は面倒になってくる。いい加減眠いうえに、槿には関係のあることだが、普段昼間に来ることがない私には関係のない話だ。興味もさほど湧かず、私は壁際に座り込む。




「まず、教団側の理由として、この前も少し話しましたが、アイリスには詳しい事情を話す事は出来ませんが槿さんにはいざという時『聖十字の奇跡』で彼女を守ることが出来るエクソシストである必要があります。」


「お姉様達ほどじゃないけれど、私も使えるし、私でいいじゃない。」



「へーアイリス使えるようになったの?凄いじゃん!」


先程まで黙って話を聞いていた一果(いちか)は、急に話に割って入り、嬉しそうに笑う。一果の反応が嬉しかったのか、アイリスは少し照れた表情を浮かべてはにかんだ。


「何が出来るようになったんですか?」



アイリスの頭を撫でながら、二葉(ふたば)は訊ねた。



「一応、『結界』と『飛翔』出来るようになった……。」


『お姉様』と呼んでいたあたり、きっと2人は憧れの人物なのだろう。褒められてからの彼女は、先程までの様子とはあからさまに異なっていた。先程までが全能感に満ちた子供だとすれば、今は恥ずかしがり屋の子供といった様子だ。どっちにしろ、子供には違いない。



「確かにアイリスの成長速度は目覚ましいものがありますが、それでもやはり、経験や実力がまだ不足していると言わざるを得ません。」


冷めた口調で連花は伝える。連花らしくないというか、彼がここまで冷たい言動をとることは珍しい気がする。いや、勿論初対面の時は除いてだが、彼は基本的に人と接するときは厳しい口調を使わないことが多い印象だったので、少し意外だった。


「お姉様達に比べられたらしょうがないと思うけれど、それにしても、教会の敷地内で司祭が2人いないと対応できないって、槿は何に取り憑かれているのよ…………?」


アイリスは心底心配そうな口調で槿を見つめる。


「まあ、『悪霊』、ですね…………。」


「大体取り憑くのは悪霊でしょ。」



彼女の言う事はご最もだ。今回の場合は、別に槿は取り憑かれている訳でもないし、今回連花の言っている『悪霊』は『エディンム』の事であるのだが。



「とにかく、司祭クラスの実力が必要だということです。それに、もう1つの事情、つまり槿さん側の理由があります。」


「なによそれ?」



「看護師資格の有無ですよ。」



「え?2人って、看護師さんでもあるの?」


槿が驚いた表情で2人を交互に見つめる。


「まあ、実際医療現場に出た事あるのは実習くらいだけどね。」


「大学がそういう系だったのです。とはいえ設備や技術的な問題でここでは応急処置程度くらいしか出来ないですが。」


なんて事ない様子で2人は答える。人間の文化にあまり詳しくないので、それがどれ程大変な事かはあまりぴんと来ないが、何となく大変な事なのだろうな、という事は分かった。


「病院からそれ程距離が離れていませんし、処置としては応急処置くらいが出来れば問題ありません。大切なのは、適切な知識と判断力を持っている、という事です。」



「わ、私だっていずれお姉様達と同じ道に進みたいと思ってるわよ!」



「いずれ、では遅いのです。当然ですが、今現状で適切な処置が行えないようでは意味がありません。」



連花のぐうの音も出ない正論にアイリスはたじろぐ。


「以上の2点と、もう1つ。私は2人を最も信用しています。私が何か大切な事を頼むとしたら、それは2人以外考えられません。」


そう言って、2人に笑いかける。


彼女達も微笑みながら、連花のその言葉に応えた。



「それはさ、上司としてどうなの?適材適所ってあるでしょ。」



「今回に関しては私達が適性だと思ったので受けましたが、友達感覚で人事を決められるとこっちとしては困るのです。」


「あーもう!悪かったですね。なんかいい話みたいにまとめたかったんですよ!」


最後にケチがついたが、彼の言う事は間違いではなかった。だから今も、アイリスは言い返さないでいるのだろう。


しかし、正直な所2人が槿の世話をすることになった理由は、吸血鬼退治の時に一緒にいて、事情を知っているからという事が大きいのだろうが、意外とちゃんとした理由があったのだな、と感心する。







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