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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第76話 午前10時、連花の好きな人は誰なのか。

「それなのに、何故アイリスは来ているのですか?」



連花(れんげ)は少し怒気をはらんだ口調で問い質す。都合の悪い事実を隠すために、相手がそれ以上踏み込んで来づらいように、わざとそういった口調をしているのだろう。まあ、都合の悪い事実とは私の事であるのだが。


連花は、何故アイリスが桜桃(さくら)姉妹がここにいることを知っているのかを軽く説明した。その間に槿(むくげ)達は朝食を食べ終えて、アイリスを挟む形で桜桃姉妹が並び、対面には槿と連花という形で机に腰掛けた。


私は、連花の説明中もずっと壁に寄り掛かっていたら、席に座るタイミングを逃してしまい、そのままの姿勢でいる。太陽光が怖いし、まあいいか、と思い特に気にしないことにした。



アイリスは普段の連花と少し様子が違うことに気付き、一瞬怯んだが、すぐに入ってきたときのようにどこか自慢げな様子で口を開いた。


「あの時、黎明(れいめい)は言ったわよね?『私が行くとお姉様達の迷惑になる』って。」


「ええ。そう言いました。貴方は、人の事を慮ることが出来る人だと思っていたのですが。」


彼は彼女の罪悪感に訴えるためにそういう言い方をしているように見えた。しかし、その言葉は暖簾に腕押し、どころか、かえってアイリスを勢い付けたようだった。


「それよ!確かに最初はお姉様の迷惑になるなら辞めよう、と思っていたわ。けれど、その後よく考えたら気付いたの!」



「何に?」



「私がお姉様の代わりに黎明の彼女のお世話をすれば、お姉様も暇になるでしょ?その為に来たのよ!」



自慢げに胸を張るアイリスの前に、私達は皆、理解が追いつかず言葉を失う。教会の施設だけに、天使が通ったようだ。


「……どこから否定すればいいのか分からないのですが、まず、今私の隣に座っている月下(つきした)槿(むくげ)さんは私がお付き合いしている方でも、想いを寄せている方でもありません。」


困惑混じりの連花は、何故か真っ先にそこを否定する。


「嘘でしょ!あの後氷良も言ってたもの!『連花くんは絶対好きな子か彼女が出来た』って!」


氷良という人物についてほとんど知らないが、中々鋭い事を言う。その通りだ。連花もあながち間違いでもないその指摘に、どう反論すればいいのか迷っている様子だった。



「れーくんが好きな人はね、他にいるんだよ。」


一果(いちか)は愛おしいものを見るような優しい眼でアイリスに語りかける。どこかその瞳の奥には昏い光が宿っているように見える。



「違っ、……くはありませんが、わざわざ言う必要はありませんよね?」


「えー?えへへー。」


そう言って嬉しそうに笑う一果の意図が一切読めない。彼女は連花に好意を寄せていたはずだが、何故その事を嬉しそうに話せるのかが、私には分からなかった。


連花もどこまで知っているかは知らなかったが、やはり彼女の様子は奇妙に映ったようで、困惑していることが傍目からも伺えた。



「と、とにかく。槿さんの恋人は私ではなく、あそこに突っ立っている岸根(きしね)(りょう)という男です。」



完全に対岸の火事と思い見物を決め込んでいた私は、急に名前を出されて少し慌てる。それにしても、槿との紹介の仕方の差が露骨だ。


「あなた何時からそこにいたの!?」


アイリスは驚いた表情で私を見つめる。彼女が気付かなかったのも無理はない。本来私達化物は、相手が探したりしていない限り、1度認識するまで視界に入らないのだから。連花が気が付かなかったのは完全な注意不足だが。



「最初からだ。よろしく頼む。」


彼氏ではないと否定すると、また面倒なことになりそうだったので、今更ではあるが、そうアイリスに挨拶をする。


「じゃあなんで席に座らないのよ。」


「あの、あれだ。壁が、好きなんだ。」


タイミングを逃しただけなのだが、これ以上会話を広げるのがめんどうだった私は適当に返した。



「……ねえ、貴方の彼氏ちょっと変よ?」


アイリスは率直な感想を槿に述べた。彼氏ではないが、変ではある。彼女の言う事は大きく間違ってはいない。



「確かに変わっている、というのは間違ってないかも。」


槿はそう言って曖昧な、困ったような笑みを浮かべた。いつも思うが、吸血鬼が窓から入ってきたときは平然としていたくせに、何故初対面の人間相手だと少し萎縮するのか理解に苦しむ。そういう意味では槿も十分変わっている。



「それがわかっていてなんで付き合っているの?」


「えと、いいところもいっぱいあるから、かな…………。」



アイリスの純粋な疑問に顔を赤らめながら恥ずかしそうに答える彼女を見ていて、思わずこちらが赤面しそうになる。そんな私を二葉は冷めた目で見つめながら、口の動きだけで「バカップル」と私に伝える。


私は目を逸らして、その口の動きに気がつかなかったふりをした。




「ふーん。まあいいわ。それよりこれから私があなたのお世話をすることになるから。よろしくね。」



そう言って笑顔で槿に手を伸ばす。そういえば、元々そう言う話だったな、と思い出した。


残念ながら、それは私が困るし、間違いなく連花も困る。彼女の純粋な笑顔を見ると少し心が痛むが、それだけは阻止しなければならない。



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