第70話 幕間で、何を話すのか。
「まず、槿達が帰ったあと、残った教団連中のーーー」
「あ、ごめん涼。その前に1ついいかな?」
昨日会ったことをはなそうとした私を、そう槿が制止する。
「…………なんだ?」
「涼って確か、変身できるんだよね?」
「まあ、…………できるな。」
確かに出来るが、その話が今どう関係するかわからない。
「出来たら、ちょっと姿を変えてほしくて…………。」
何故か少し恥ずかしそうに槿は私に頼む。そこで恥ずかしがる理由も分からず、少し考えたが、ただでさえ日中は頭が回らないし、これ以上ないくらい寝不足だ。考えても分からず、私は諦めて槿に聞くことにした。
「構わないが、何故だ?」
私の問い掛けに、何故かもごもごと口を動かして相変わらず恥ずかしそうにしている。少しして、彼女は言いづらそうに口を開いた。
「ちょっと今、涼が部屋にいるっていうことを意識して、しまったというか…………。」
部屋に入られて恥ずかしがる、ということは一般的な反応ではある気はするが、それにしても今更それを言うのか?といまいち理解できない。
「それを言うなら、出会いから君の家にいることがほとんどだと思うのだが。大体、一般的には夜の方が所謂、『男女の時間』、というような意味合いが強いだろう。」
「それはそうなんだけれど、涼とはいつも夜に会っていたから、陽の出ている時間に会うことが特別感あるというか、なんというか。」
わたわたとしながら、彼女は説明する。
普段の私であれば、恐らく今の彼女を見てもそういうものか、と思って終わりだったと思うのだが、彼女への恋心を自覚したあとという事と、あまり頭が回っていないことも相まって、可愛らしいな、と思ってしまい、今度は私がその事実に恥ずかしくなってしまう。
数秒間、気まずい沈黙が流れる。
「…………まあ、言いたいことはわかった。」
私は必死に照れを隠しながら、なにがいいか、と考えて黒い大型犬に姿を変えた。まあ、生き物だと蝙蝠と犬くらいにしか姿を変えられないのだが。ちなみに、生き物以外だと霧に変身することが出来る。
「あまり変身見る機会がなかったけれど、ボルゾイにもなれるんだね。」
そう言う犬種なのか。300年生きて初めて知った。大抵変身をするのは逃げる時か隠れる時だけなので、犬種など意識したことはなかった。むしろ、「お、ボルゾイですね。」と誰かから指摘された時点で返信の目的は失敗したようなものだ。
「そうだな。そういうことになる。」
「他には何に変身できるの?」
「後は霧と蝙蝠だな。一応、服と髪型も変えることは出来るが。」
考えようによっては、普段も人間の変身をしていると言えなくもないな、とふと気付いた。そういえば、以前央が2人に分裂しているのを見たことはある。心底気持ちが悪かったので、私は絶対あれはしないようにしようと心に決めたことを覚えている。
「意外と少ないね。あと一種類でコンプリートだ。」
そう言って槿は笑う。確かに、彼女には最初に会った時には霧に変身したな、と思い返す。気が付くともうあれから4か月だ。もうそんなに経つのか、と言う感慨深い気持ちと同時に、槿の余命宣告された日が近付いて来ていることに気付き、私はすぐに考えないようにした。
「蝙蝠も見ただろう?クリスマスの時に。」
頭に過ぎったことを必死で忘れようと、私は笑顔を作ってそう彼女に言った。
「あれ、そうだっけ?」
「羽根を生やしただろう。」
ああ、それか、という顔をした。
「あれも、蝙蝠に変身、て言うの?」
「人間から羽は生えないだろう。」
「けれど、蝙蝠はお姫様抱っこしないと思う。」
そう言った槿は、普段通り愉快そうに笑った。
あの抱き抱え方をお姫様抱っこと言うことも初めて知った。やたらと固有名詞について詳しくなる1日もあるものだ、と変に関心をしてしまう。
「この論争はまた今度にしよう。とにかく、変身はこれでいいか?」
槿が少し落ち着いた様子になったのを見て、私も少し落ち着きを取り戻した。
「大丈夫。ありがとうね。」
そう言って壁際に立っていた槿はベッドに腰掛ける。
本題に入るまでに、無駄な時間を取ってしまったなと思いながら、私は改めて何があったかを彼女に話す。
「槿達が帰ったあと、残った教団連中のーーー」
 




