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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
溢れ出す想い

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第69話 虚実古樹の私から④

目を覚ますと、当たり前だがまた木曜日の夜だ。私がそういう縛りをかけたからだ。


全く、我ながら余計な事をしたものだ、と思わなくもないが、基本的にはそんな縛りがあろうが大した問題はない。日曜日に花見があるとき以外は。



行きたかったなあ、としみじみ思ってしまう。諦めて、麓の方に降りて人間の花見に混じろうか、とも思うが、流石に億劫だし、折角の機会を逃してしまった、というショックが大きくて、あまり行動する気持ちにはなれない。



時間を見ると、まだ12時を過ぎたくらいだ。3時までの数時間が、4000年生きた今でも長く感じる。森のせせらぎや、生き物の鳴き声を聞いて過ごすのは、流石に暇だ。




ふと、先程見た夢を思い出す。



この間、涼にトカイワインの話をしたからだろうか。エリザベートの夢を見た。まあ、当時の名前は少し違っていたような気がするが、あのワインの素晴らしさはずっと変わらない。



エリザベートとは当然あれ以降会っていない。数年後、彼女はヴァンパイアハンターに殺された。再生能力は私達の一族より高くはないが、流石に私の付けた傷は治っていたはずだから、彼女の死は私のせいではない、はずだが、おおよそ死んだ理由は私に負けた理由と大して変わらないだろう。経験不足と油断だ。



彼女は素質があったのだが、如何せん格下とみると油断するところがあった。そこを突かれたのだろう。


しかし、400年前のエリザベートの居城でも思ったが、やはり眷属は1人はいた方がいいな、ということが正直な感想だ。


彼女の目的が最初から私の勧誘であったから、私はこうして生きているが、あの時全員銀の武器を持っていたとしたら、結果は変わったかもしれない。少なくとも、私のうち1人は死んでいただろう。けれど、1人でもまともな眷属がいれば幾分かは楽にことが運んだはずだ。


そして、なによりもあの部屋にいた彼女の眷属を殺した後、給仕をする者が1人もいなくなってしまった。そうなると、全て自分でやらなければならない。城の規模でそれは流石に面倒だ。



やはり、あの時マリアの自殺は止めておくべきだったな。そして、彼女を連れて諸外国を回るべきだった。まあ、彼女は彼女で難点はあるが。



そんなことを考えていると、時間はいつの間にか2時50分だ。私はパソコンを立ち上げて、通話アプリをつける。しかし、いつの間にかカメラで通話できるようになっていたとは。この前気が付いたが、中々人類の技術は大したものだ。見ていて楽しいし、食べても美味い。これで夜から逃げることをやめてくれれば文句はないのだが。



いつものように、3時ちょうどに涼から通話がかかってくる。私はそれをすぐにとって、いつものように声をかける。



「やあ、今日も時間丁度だったね。」


「当たり前だろ。」


そう言いながら、彼の不機嫌そうな顔が見える。何故ならビデオ通話だからだ。涼はどう抵抗しても私がビデオ通話にすることを薄々察していたらしい。今回は最初からビデオ通話でかけてきた。



彼の潔いまでの諦めの早さは尊敬に値する。それに、なにより私をよく理解している。



「どうだい、私のいない花見は?楽しかったかい?」



私がそう訊ねると、彼は深くため息をついた。



「…………君がいた方が、いくらかマシだったかもしれないな。」



「え?」


彼の言葉に、思わず耳を疑ってしまう。私の事を蛇蝎のごとく嫌っている彼が、そんなことを言うなんて、思ってもみなかった。彼がそんな風に思うなんて、少しだけ寂しい気持ちになる。



「一体何があったっていうのさ?」



「…………朝まで教団連中のヤケ酒に付き合わされて、朝槿の部屋で起きた後、エクソシストに三本勝負を挑まれたんだ。」




「…………一体何があったっていうのさ?」



私がそう訊ねると、珍しく彼はそこまで嫌そうな表情はせずに素直に話してくれた。余程、誰でもいいから聞いてほしかったのだろう。私以外がこれだけ彼に嫌がられるという事は、中々珍しい。少し嫉妬すら感じる。



「…………まずはそうだな、あの日花見で何があったのかから話すか。あの日はーーー」












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