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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第57話 飛花落葉の私と夜桜⑥

私の部屋に戻り、彼女はソファに腰掛ける。私はいつも涼と話す時のように、ベッドに座る。目の前の彼女は、いつもそこに座っている彼と比べて、物凄く小さく見えた。


先程までの愛想笑いも消えて、普段の彼女からは想像もつかないくらい、落ち込んだ表情をしている。電気のついた2人だけの部屋は、しばらく重い沈黙に包まれて、私は切り出す言葉を探していた。



「…………私といても、嫌な思いをするだけです。だから、槿ちゃんは私と一緒にいない方がいいんです。」



小春は、独り言のようにそう呟いた。必死に何かを堪えるように言う彼女の言葉は、何か切実なものを感じた。



「私、小春ちゃんとてい嫌な思いをした事ないよ。」


その言葉に、小春の目が小さく揺らいだ。しかし、すぐにまた落ち込んだ表情になる。



「……今はまだ、ですよ。」



彼女がそう言うと、私の部屋はまた静寂に包まれる。時計の動く音、私たちの呼吸だけが響き、外で笑う、一果達の声が遠くに聞こえた。




「小春ちゃん、昔、何かあったの?例えば、友達関係とかで。」



私は、覚悟を決めて彼女に聞いた。以前から、言葉の端々に感じていた、彼女の心の闇に、私は触れないようにしていた。ひょっとしたらその質問は、彼女を傷つけるかもしれないから。けれどきっと、私と彼女の距離は、傷つける事を恐れていては、ずっとこのままな気がした。



その質問を聞いて、彼女の体がビクッと跳ねた後、手は微かに震える。彼女は、怯えているようだった。それでいて、いずれどこかでこの質問をされることを知っていたような、そんな反応だった。そして、また沈黙が訪れる。先程までと違うのは、小春の呼吸が深いものになっていたこと。深呼吸に近い、自分を落ち着けるような呼吸。


俯く彼女の顔はあまりにも辛そうで、私は耐えられなくなった。


「ごめん、やっぱりーーー」答えなくていいよ。そう言おうとした。しかし、小春は首を横に振り、覚悟を決めたかのように顔を上げる。




「私、昔いじめられてたんです。中学生の頃でした。」



ああ、ともふう、ともつかない吐息が、と思わずの口から漏れる。もしかしたら、とは思っていた。彼女の過去の言動から、もしかしたら、と。先程の問い掛けをした時も、その答えが返ってくることは当然考えていた。でも、彼女の口から出たその言葉はあまりにも重く聞こえた。



「昔から、人との会話が下手くそで、人の考えとか理解するのが苦手で、よく距離感とか間違えちゃって。小学校までは何とかなったんですけど、中学校からは、てんで駄目で。特に、彼氏がいる女の子には、嫌われちゃって。彼氏を狙っているって思われたみたいです。」



その彼女の一言に、私は胸が痛む。私も彼女と会う前、私より先に涼と連絡先を交換したことで、勝手に警戒していた。私も小春と同じ学校にいて、もし涼と彼女が仲良く話していたとしたら、いじめていた可能性があるのだろうか。私は、そんなことを考えてしまう自分が情けなくて、無意識に膝の上にある両手をぎゅっと力が入る。



「それで、ひどい事を言われたり、持っているものを隠されたり、汚されたりして。ほかにもいろいろされました。その時に言われたんです。…………『あんたがいると、みんな不快な気持ちになるんだから、さっさと死ねよ』って。……『その方が、みんな幸せになるんだから』って。」



当時の彼女が向けられたむき出しの悪意に、私は腹の奥に熱く黒いものが溜まっていくのがわかる。なんで、そんな酷いことを他の人に言えるのだろう。嫌いならば、関わらなければいいだけで、わざわざ彼女に危害を加える必要なんてないのに。


私は、中学時代の彼女を思い、涙が溢れそうになる。けれど、必死で堪えた。堪えて、彼女の話に耳を傾けた。小春は、淡々と続けた。当時の事を出来るだけ思い出さないようにするように、淡々と。




「それで、私は本当に死のうとしたんです。」







繊細なテーマですので少しだけフォローをします。文中で『私も小春と同じ学校にいて、もし涼と彼女が仲良く話していたとしたら、いじめていいた可能性があるのだろうか。』と言っていますが、あくまで私の意見だと、いじめている可能性はないです。自罰的で、他の人に悪意を向けることが得意な性格ではないので。

あくまで仮定の話ですし、今まで読んでいる中で様々な解釈はあると思いますので、ご自由に解釈いただければな、と思います。

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