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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第55話 飛花落葉の私と夜桜④

「えーそれでは皆様、本日はお忙しいところご足労いただきありがとうございます。今回花見をすることになった経緯としましては、そちらにおります桜桃(さくら)一果、二葉の2人の提案により、日ごろ、皆様への感謝を込めてーーー」



「れーくん長い!」


「一果、乾杯の挨拶は大体つまらなくて長いものですよ。話す人がめーちゃんなら尚更です。」



「つまらなくて悪かったですね。それでは皆様お好きにどうぞ。乾杯。」



主催側で、一番役職が上ということで任された連花の半ばやけくそ気味の乾杯の挨拶で、花見は開始した。



春とはいえ、17時になると流石に少し薄暗くなっていた。周囲に街灯もないので普段なら数時間後には真っ暗になってしまうが、連花が数日前に業務用のライトを数個借りてきてくれていたので、今回はその点も問題がなさそうだ。



連花はあの後すぐ近くのスーパーから急いでワインとお茶以外の飲み物を買ってきたので、今連花と小春の祖父母はビールを、一果、二葉は日本酒を飲んでいた。私と小春はジュースを飲んでいて、あとで飲むかもしれないが、誰もワインとお茶を飲んでいないので、連花が買いに行かなければ全員口には出さないがどこかすっきりとしない感情のまま開始されていたような気がする。



ちなみに、常盤はもしかしたら教会に人がくるかもしれないのでまだお酒は飲んでいないのだけれど、司祭がしてはいけない顔で人のお酒を睨んでいるので、いっそ飲んでしまった方がまだ幾分ましなのではないかと思ってしまう。




「初めましてだよね?さっきれーくんも言ってたけれど、桜桃一果デス。シスターやってマス。よろしくー。」


「桜桃二葉です。同じくシスターです。よろしくお願いいたします。」



2人は普段通りの様子で小春に自己紹介をする。2人にも私と小春が少し気まずい雰囲気なのは知っているが、そのことはできるだけ気にしないように振舞ってほしいと伝えている。小春としても、全員が気を使っている様子だと居心地が悪いだろう。折角だし、来てくれる以上少しでも楽しんでもらいたかった。



「椿木小春です。花屋をやってます。よろしくお願いします。」



そう言って小春も笑顔でお辞儀をするが、やはりどこか社交辞令的というか、壁を感じる。なにより、感嘆符が1つもつかなそうな喋り方をしていて、あからさまにいつもよりテンションが低く感じる。その後も4人で話していたが、どこか小春の反応は上滑りしているような、表面的な反応のみで踏み込ませてくれないような、いつもの自分から特攻するような会話をする彼女とは真逆だった。




初対面の2人はそこまで違和感はないうようだったが、私は普段の彼女を知っているだけ、心の奥に澱が溜まっていくような、そんな重い気持ちになる。また、彼女と普通に話せるようになりたいが、とっかかりがない。このままでは、小春ともう会えないかもしれない。焦燥感ばかりが募る。




「すまない、遅くなった。」



連花のライトのおかげか全く気付いていなかったが、いつの間にかすっかり陽が落ちていて、気が付くと夜が来ていた。



「お!遅かったね!」少しアルコールが回ったのか、一果は陽気に涼に話しかける。



「まあ、………仕事でな。常盤さん。これどうぞ。」露骨に面倒くさそうに一果の対応をして、手に持っていたお酒らしき箱を差し出す。恐らくワインだろう。この前の常盤の要望をちゃんと聞いていたんだな、と微笑ましい気持ちになる。



「トカイエッセンシア!?いいんですか、こんないいワインを?」



「………日ごろのお礼、ということで。」


目を反らしながら、涼は答える。確か、彼はお金を央に出してもらっていると以前言っていたから、適当に高いものを買ったのだろう、と察する。



「そういえば、椿木。」涼は急に小春に話しかける。



「え!?あ、はい」小春は驚いたように、涼の顔を見る。



「槿の部屋は見てみたか?まだ行ったことないだろう。」


「………行ってないです。」


「そうか。それなら一回見てみればいい。なあ槿?」


涼は意味ありげに私に目くばせをする。はっと気付いた。『2人で話してこい』という意味で彼は言ったのだろう。



「いや、また別の機会でーーー」


そう言って、断ろうとする彼女の言葉を私は遮った。


「せっかくだし、行こうよ。…………嫌、かな?」


私がそう訊ねると、小春は少し困った顔になり、数秒思案するように黙りこくった。そして、


「…………わかり、ました。」


と首を縦に振る。よかった、と私は内心胸を撫でおろす。ありがとう、と涼に目で合図を送ると、彼は薄く笑う。


「私たちはここで涼からむーちゃんの好きなところを10個聞き出しておくです。」


二葉がそう言うと、2人は悪い笑みを浮かべた。きっと私達を2人にしてくれるための方便だろうが、是非10個と言わずできるだけ多く聞き出してほしいところだ。涼は予想外の流れ弾に鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしている。




「ありがとう、後で教えて。」


そう二葉に伝えて、私は小春と住居棟に歩き出した。











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