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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第52話 飛花落葉の私と夜桜①

窓から射し込む陽の光で目が覚める。身体を起こし、寝ぼけまなこで時間を見ると、ちょうど7時くらいで、ついに、4月5日を迎え、楽しみだったせいか、少し早く起きてしまったな、なんて考えながら、ベッドから降りて窓を開ける。春らしい暖かな陽気と、ほとんど雲がない晴れた空。



前日の天気予報では、今日は1日晴れの予報だった。絶好の花見日和だ。教会の裏庭には綺麗に桜が咲き誇っていて、朝のお祈りに来た教団の信者の人たちが、「綺麗だね」だとか、「今年も立派に咲いたね」だとかを口々に話しているのが見える。もちろん、何を言っているかまでは聞こえないから、楽しそうに何かしゃべっているな、ということしかわからないけれど。



すると、コンコン、と元気よくドアをノックする音がした。一果だろうな、と思ってドアを開けると、案の定、彼女達がいた。



「あれ?今日は起きるの早いね。」


「いつもみたいに寝ぼけていなくて偉いです。」



二葉はそう言って私の頭を撫でる。たまに早く起きただけで褒められるだなんて、と思わず苦笑するが、言われてみると思い当たることが多々あったので、私は黙って撫でられることにした。



「朝ごはんの準備できてるけど、食べれそう?」


「うん、大丈夫。本当にいつもありがとうね」


2人はいつも朝の6時にお祈りをして、その後教会の業務を行っている常盤と私の分の朝食も作ってくれる。



最初は私も手伝うつもりだったのだけれど、「これくらいやらないと暇過ぎるから気にしなくていーよ。」「ブラック勤めの悲しき性です…………。」と言われて、どういう顔をすればいいかわからず、そのまま2人に任せている。感謝の気持ちと、可哀想に、という同情の気持ち混在している。



1階におりて、いつものように料理を机に並べるのを手伝う。常盤はまだ教会の方にいるらしく、先に食べるように言われたらしい。


今日はほうれん草のお浸しと鮭の塩焼き、それに豆腐と味噌汁だ。最初に来たとき、教会だからなんとなく、洋食なのかな、と思っていたが、彼女達の作る料理は意外にも和食が多かった。「日本人なら朝はお米でしょ!」と以前一果が言っていて、むしろ彼女は和食派らしい。



「むーちゃん、味付けは大丈夫ですか?」


「うん。すごく美味しいよ。」こうして確認されるのには訳がある。最初に料理を作ってもらった時、味が濃くて身体があまり受け付けなかった。というのも、人生の大半を病院食で過ごしてきたため、一般的な味付けのものを味が濃いと判断してしまうようになってしまっていた。



無理して食べていたのだが表情で彼女達に気付かれ、以来全体的に味付けは控えめになり、食事の度にこうして確認されるようになった。そうして気を使ってくれる彼女達には本当に感謝しかない。



「そういえばさ、今日花見17時からでしょ。14時くらいから花見のご飯作るけれど、つっきーも手伝う?」


食事をしながら、一果は私にそう訊ねる。彼女達の役に立てる機会だ。そう思い、私は頷く。


「手伝いたい。いつも一果と二葉にお世話になってばかりだから。」


「気にしなくていいのに、むーちゃんは偉いです。」


二葉は小さい子供を褒めるような口調で私を褒める。たまに彼女は私を5歳くらいに認識している時があるような気がする。流石に19歳になってその調子で褒められると、少し恥ずかしい。


「そしたら決まり!ちなみにさ、包丁とかって使ったこととかある?」


そう聞かれて、私は少し考える。



「包丁は見たことあるから、多分大丈夫。料理用の刃物だよね?」



私がそう答えると、しばらくの間沈黙に包まれる。なにかそんな変なこと言ってしまったのだろうか、と鮭の身をほぐしながら考える。少しして、一果と二葉は目で合図を送り合い、何か頷いたあと、口を開いた。


「し、下準備とかでも手伝えることいっぱいあるから、そういうことを手伝ってもらおうかな。」


「手伝いたいという気持ちがなによりも嬉しいです。」


そういって、何故か焦りながら2人は早口で喋る。


「?うん。わかった。」



2人の様子に違和感を覚えながら、私は味噌汁を啜った。



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