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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第48話 君に会う木曜日

浅黄と会い、教会で花見をする事になった翌週の木曜日。



自室で起き、いつものように槿のもとに向かう。窓を飛び出すと、冬は姿をひそめ、春の夜のかすかに肌寒い空気が空を満たす。星々も以前よりおぼろげに姿を見せて、ぴんと張りつめていた空気が少し緩んだかのような、そんな春らしい夜空だ。


恐らく日が伸びているだろうし、もう少ししたら槿のもとから帰る時間を少し早める必要があるな、などと考える。夏は急に夜が明ける。帰る時間が遅くなれば下手をすると、教会の森で一晩明かす必要が出てくる。住居になれてしまった軟弱な吸血鬼としては、それだけは避けたい。



そんなことを考えながら、私は彼女のいる教会に向かい、20時ごろに教会に着く。槿の部屋は教会の反対側、森側の二階の角部屋になる。いつものように窓をノックした。



少しすると、槿が窓を開けるので、それを合図に私は部屋に入る。


「いい加減、玄関から入ればいいのに。」



槿はそう言って楽しそうな笑顔を見せる。


「ずっと窓から侵入していたからか、そうじゃないと違和感を感じるんだ。」



「なにそれ。」槿はそう言ってまた楽しそうに笑う。最近色々な出来事があったが、こうして彼女と話すと落ち着いた気持ちになれる。



以前の病室の時より、槿の部屋は広くなった気がする。窓際にはソファとテレビ、本来の入口側にベッドと一冊だけ聖書が入った本棚が置いてあり、さらに入口付近に浴室と収納が左右に配置されている。


これらの家具は元々教会の備品として置いてあったものらしく、特に彼女が買いそろえたものではないらしい。「買い換えないのか?」と以前聞いたことがあるが、「面倒臭いし、別にいいかな。」と言っていた。特に内装にこだわる気はないらしい。



その割に、寝巻きは質の良さそうなものを着ている。今日は白いシルクのパジャマだが、今のところ毎回違う。服と家具は違う、という事だろうか。



ベッドは介護や病室で使われる肩のあたりに手すりと、角度をつけることができるもので、その脇にはナースコールのようなものがついており、それを押すと隣の部屋の二葉、一果、そして一階の常盤に通知が行く。浅黄が槿のために買ったものらしい。そういうまともな心遣いができるのに、何故先日あの奇行に走ったのか。


ちなみに、ナースコールの線の配置などはそういう資格を持っているらしく、連花が行ったそうだ。


私はソファに腰掛け、槿はベッドに座る。いつもは大体こうして話している。





「そういえば、浅黄の空いている日程は分かったのか?」


先日の花見の件がその後どうなったのか、まだ聞いていなかったことをふと思い出す。


「あ、うん。まだ連絡してなかったね。4月5日の日曜日に決まったよ。時間は17時からだけど、涼は途中からで大丈夫。」


「よかった。そうでなければ死んでいたところだ。」



そう私が行った冗談を聞いて、また彼女が笑う。いつの間にか、私の死にたいという気持ちは、『彼女の最期を看取ってから』という注釈がつくようになった。


以前彼女と交わした約束が生きているような気がしているのか、それとも別の理由なのかは定かではないが、そうしたいと思うようになった。



槿は少し真面目な顔をしながら、少し言いづらそうに口を開いた。



「……小春ちゃんは、まだ誘ってない、よね?」


「ああ。今日閉店時間を頃に店に行く予定だ。」


「そっか。……来てくれるといいな。」


そう言って、俯いて少し寂しそうな顔をする。槿からしたら、椿木は初めての友人だ。2人が普段、どのような会話をしているかは私は槿を通してでしか知らないが、その話をする槿はとても楽しそうで、きっと仲の良い友人であったのだろう。



「槿、この前言い忘れていたが。」


私は、そう槿に声をかける。彼女は顔を上げてこちらを向いた。


「椿木が君を嫌う事はないと思う。椿木は人をむやみに嫌う性格をしていないし、それに君は人に好かれやすい方だと私は思う。だから、安心して私の報告を待っていてくれ。」


「……うん、ありがとう。涼は優しいね。」


そう言って彼女は力なく笑う。私なりに慰めたつもりだが、やはり椿木からの返事がないと気持ちが晴れなさそうだ。やはり彼女のショックは小さくないらしい。




「ところで、涼の思う私の人に好かれやすい所って、何?」



少しだけ期待を込めた顔でこちらを見る。先ほどまでのへこんだ様子はなんだったのだ、と思わずため息を吐く。だが、ここでなにも言わないとまた彼女が落ち込んでしまうような気がして、私は観念して1つ答えた。



「一緒にいて、落ち着くところだ。」


私は彼女を直視出来なくて、少しだけ目を逸らしながら伝えた。横目で槿を見ると彼女は私をのぞき込むようにしていた。


「涼がそう思ってくれてるの、凄く嬉しい。」



少し赤面しながらも、彼女は嬉しそうに笑う。自分の発言で喜んでくれるのは嬉しいが、最近の彼女から発せられるむず痒い空気は、未だに慣れない。






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