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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第47話 桃李満門だった私達と夜桜①

私がれーくんを好きになったのは、本当に大した理由じゃない。


5歳の頃、私は初めてれーくんに出会った。彼の両親が私のパパに除霊術を学びに来て、その時に預かる事になって、出会ったのが最初。


今より髪が長くて、今より優しい顔をしていて、私より背が低くて、今と同じ、癖のかかった茶色い髪で、今と同じように、優しくて。


同世代の友達がいなかった私と二葉は、本当に嬉しくて、いつも3人で一緒に遊んだ。



そのうち、「大きくなったられーくんのお嫁さんになってあげるね!」って私が言ったら、「私がお嫁さんになるんだよ。」って二葉が張り合って。お互い、恋に恋をしていた、みたいな時期だから、身近な男の子に恋をしてみたくなったんだと思う。


その時、「どっちを選ぶの!?」って聞かれたときのれーくんの狼狽えっぷりは、今思い出しても可愛かったな。



それが、最初にれーくんを好きになったきっかけ。




その時くらいに、2人共『れーくん』て呼んでたんだけど、「私が『れーくん』って呼ぶの!」って私が怒り出して、二葉もそれを真似して、「駄目、私が呼ぶもん。」みたいに喧嘩が始まった。


喧嘩は私が負けたけれど、泣き出した私を見て、二葉が「じゃあお姉ちゃんが『れーくん』でいいよ。」とやたらと冷めた態度で譲ってくれた。


多分、私の真似をするのが楽しかったけど、別に呼び方なんてどっちでもよかったんだろう。



それから少しして 10歳の頃、れーくんの両親が亡くなった。そこから、れーくんは取り繕うような笑顔を浮かべる事が多くなった。



前からエクソシストの修行はしていたけれど、その頃から、エクソシストとヴァンパイアハンターの両方の技術を身につけようと、必死に修行を始めた。本来どちらか片方だけを極めるものだから、れーくんはそれこそ死に物狂いで修行に励んでいた。



そんな彼を見て、私は尊敬する気持ちと、どこか両親が亡くなった理由を自分のせいだと思っているような、どこか自罰的な彼を見て、支えになりたい。そう思うようになった。


本格的に彼を意識しだしたのはこの頃。子供の好きが、恋心に変わった瞬間だった。



私はエクソシストとして力になれることが、一番支えになれると思った。だから私も必要に修行をして、二葉みたいになんでも器用にこなせる訳じゃないけど、『聖十字の奇跡』と銃火器の扱いは司祭の中ではトップクラスになれた。



でも、女が『聖十字の奇跡』を使うには、清純を貫いて身を神に捧げる必要がある。だから私は、この想いを隠す事にした。れーくんが、一族の悲願を成し遂げるまで。それまでは、ただの幼馴染でいい。



でも、今日れーくんが好きな人がいるって聞いて、私は後悔している。もっと早く、想いを伝えるべきだった。ただの幼馴染なんて、心地良い関係に甘えてるべきじゃなかった。



ベッドの上で毛布に包まりながら、そんなことを考える。頭が重い。胸に喪失感という穴が空いたような感覚。それでいて、どこか身体が熱い。



コンコン、と部屋のドアを叩く音が聞こえる。今は誰とも会いたくない。でも、もしつっきーの身に何かあったとかだったら、どうしよう。


そんなことを考えて、のそりと身体を起こし、私はドアの鍵を開ける。


「……はーい。」



ドアを開けると、目の前には、つっきーがいた。俯いて、申し訳なさそうな顔をしている。



「どうしたの?なんかあった?」



なんでここに来たのか、察してはいたけどわざとそう訊ねる。さっきの事は気にしてないよ、というアピールだ。



「あの、ごめんね。一果の気持ちを考えないで、小春ちゃん誘って。」


消え入りそうな声で、彼女は私に謝る。


もう私も23歳だし、恋愛感情を最優先で人付き合いを決める程子供じゃない。けれど、やはり彼女は気にしてしまうんだろう。彼女は、対人関係に関してはどこか臆病だから。



「本当に気にしないでいーよ。私もう大人だし、椿木さんとは仲良くなりたいしさ。謝りに来てくれてありがとね。」


そう言って、彼女の頭を撫でる。さらさらとした絹糸のような髪が指を通る。


「用件はそれだけ?」


「……うん、それだけ。」



撫でられながら彼女は、変わらず浮かない顔をしていた。



「そっか。そしたらもう遅いし早く寝なよ?おやすみー。」


そう言って、私は精一杯の笑顔を見せる。つっきーも、頑張って笑って、「うん、おやすみ。」と、自分の部屋に戻った。



彼女は、可愛らしい。細くて、背もあまり高くなくて、顔は綺麗系なのに、表情や動きがいちいち可愛くて、守ってあげたくなる感じだ。私も二葉も、まだ出会って日は浅いけど、彼女を妹みたいに思っている。


きっと、男の人が好きになるのは彼女みたいな子なんだろうな。そんな嫌な事を思わず考えてしまう。


これ以上考えないように寝よう。夜が遅いから、ネガティブな事ばかり考えてしまうんだ。そう言い聞かせて、私はまたベッドで目を瞑る。



胸の中に燻る、重くて、歪んだ熱を持つ、この気持ちからは目を逸らす。そうしないと、私のままではいられなくなってしまいそうだった。

補足です。20話時点では一果と二葉は22歳と自己紹介していますが、今回一果は23歳と言っています。理由は、2月22日に誕生日を迎えたからです。ちなみに連花は12月31日産まれです。

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