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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
君と見た夜桜

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第43話 君と受けた尋問

あまりの狂気に数秒ドアの前で放心してしまっていたが、なんとか正気を取り戻した私は、まだ思考を放棄したままの彼女を見る。


普段は名前の様に、白い槿の花を思わせる可憐で、どこか儚げな印象の彼女だが、今は間の抜けた面をしている。こんな彼女は初めて見た。


思考停止状態の槿の手を引いて、浅黄の対面の席に座らせ、私はその隣の席に腰掛ける。現状、槿はまだこちらの世界に戻ってこれていない。この場は、実質私と浅黄との対談になるだろう。


目の前に並ぶ二対の槿の亡き両親を視界に入れないように、私は浅黄に再び自己紹介をする。



「改めてにはなりますが、岸根 涼と申します。槿さんとは去年の12月下旬からお付き合いをさせて頂いております。」


そう言って頭を下げる。


「ああ。」


それだけ言って、浅黄は無愛想に返す。分かりやすく、娘の彼氏を名乗る私を警戒しているようだ。



「岸根君が、槿とどこで知り合ったか教えてほしい。」



質問と言うより、尋問に近い聞き方に感じた。だが、この質問の回答は既に槿と打ち合わせ済みだ。以前浅黄に槿がついた嘘と同様の回答をする。



「偶然友人のお見舞いに来た際に、槿さんにお会いしまして。お互い惹かれる所があり、そこから話すようになりました。」


「過去の面会記録を遡ったが、『岸根 涼』という名前の人物はいなかった。君は、槿と出会った日、何の為に病院に来ていた?」




無表情のまま、浅黄は私を問い質す。彼は槿に聞いてから調べていたらしい。そこまでしていると思わず、露骨に動揺してしまう。が、相変わらずこちらの世界に戻ってきていない槿に頼る訳にはいかない。私は必死に頭を回す。



「……実は、清掃業者として出入りしている時に、槿さんと出会いまして。それからも仕事中に会っていた為、言いづらく嘘をついてしまいました。申し訳ございません。」



自身に非がある形にはなるが、嘘をついた理由とどうして出会ったかを誤魔化すとしたら、これしか思い浮かばなかった。


「槿、彼の本当か?」呆けている槿に浅黄は話を振る。



ハッとした顔になり、浅黄を見るが、彼の周囲の4つの視線に、露骨に彼女は動揺している。


「あ、え、ごめん。話を聞いてなくて。浅黄さん、なんのお話?」


槿の目は泳ぎすぎて、最早溺れている。それもそうだろう。養父が二対の両親に囲まれてる状況は吸血鬼からしても異常事態だ。


「話はちゃんと聞きなさい。槿と岸根くんの出会いだ。」



異常行動者が至極真っ当な説教をして、再度槿に問う。


「あ、涼との出会いは窓からーーー」



「窓を清掃していた時に彼女と会ったんです。」


慌てて私はそう被せた。槿はどう考えても本来の出会いを言いそうになっていた。その私を見て、槿は我に返ったように慌てて首を縦に振る。



「…………わかった。」


露骨に疑っている様子だったが、浅黄はそれ以上その事について追求してこなかった。ほっと胸を撫で下ろす。


「それで、2人は真剣に付き合っていると。」



彼は、表情を一切変えずにそう確認をする。


「ええ。槿さんと真剣なお付き合いをしております。」



真剣に死ぬ為に彼女が死ぬまでの暇つぶしに付き合っております、という意味だが真剣な付き合いには変わりがないので、嘘には当たらない筈だ。



「君は槿を愛しているのか。」



念を押して、浅黄は確認する。


どんな質問だ、と思いながら、


「はい。もちろん、槿さんを愛しています。」


と私は答える。それを聞いて、槿は顔を赤らめる。


「槿は、どうなんだ。」



「私も好き、です……。」



俯いて、恥ずかしそうに彼女は答える。目の前に両親の遺アクスタがあるにも関わらず、恋する乙女の様な反応が出来る槿はすごいな、と思わず尊敬すら覚えた。


「…………そうか。」


浅黄はそれだけ言って、少し口の端が上がったような気がするが、また先程と同様の真顔に戻り、


「では、次の質問だ。」


と尋問を続ける。その後も穏やかな空気は一切ない質疑応答がしばらく続き、1時間ほどして浅黄は帰っていった。

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