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第4話 3日後、初めてのプレゼント

夜明けから逃げるように自宅マンションに戻った日から3日後の木曜日、私は槿の病室に来た。



バラの花束を抱えて。



花束は自宅マンションから病院までの道中にある花屋で買った。



買う為の金は、彼から私の口座に定期的に生活費として振り込まれる為、そこから支払った。



ほとんど家賃と光熱費意外と発生しないので、その気になれば人間を数十年は養えるくらいの金額は残っているので、花ぐらいならば全然問題は無い。



余談ではあるが、花束を買った際、花屋の店員にプロポーズと勘違いされ、「上手くいったら報告に来てくださいね!」とキラキラした表情で言われた。



否定するのも面倒で、「考えておく。」と伝えたが、もう二度と行くことは無いだろう。



前回よりも早い時間に家を出た為、病院に着いたのは22時頃だった。



花屋に行く時以外は真っ直ぐ空を飛んできた。その道中、当然下を歩いている人間も多くいたが、人間から私が見られることは何か縁が存在しない限りない。



私が自ら姿を晒そうと思わない限り、私を意識に入れることは出来ないし、無意識に私を認識しないよう避けてしまう。



死への忌避感から、会わないよう避けているんだと、彼は以前言っていた。



なので、恐らく今日私を見た人間は花屋の店員だけだろう。



窓の外から槿のいる病室を覗くと、前回とは違いベットに横たわっていたが、窓を軽く叩くと、身体をゆっくりと起こしながら、昨日と同じように諦観とも悟りともつかない笑みを浮かべながら私の方を向いて軽く手を振る。



が、すぐに小脇に私が抱えている花束を見ると、花束と私の顔を交互に見比べて、少し困惑した表情を浮かべた。



思っていた反応と違うな、と少し疑問に思いながら、私は昨日と同じように錠を開け、窓から病室に入る。



花束が少しだけつっかえたが、ひしゃげることも無く無事に入れた。



「おはよう、槿。これは槿への愛の気持ちだ。」そう言って片膝を着きながら、ベット胸に片方の手を当てて、もうか片方の手で花束を差し出す。



これが、私が昨日家に着いてから考えたら槿に好かれる為の作戦だ。



槿に愛してもらう為には、どうすればいいか。



やはり、贈り物だ。実際に、昔の吸血鬼は贈り物等で人間に好かれ、吸血する隙を作っていたらしい。

贈るタイミングは、第一印象に近いタイミングや特別な日などであればあるほど効果的だ、と彼は以前何かの時に言っていた気がする。その人の事を覚えている、というメッセージ性があると尚いいらしい。



ということで年齢にちなんで19本のバラの花束にした。



自信満々で槿の顔を見ると、相変わらず困惑の表情をしていた。何故だ?と疑問に思っていると、



「これは………私を喜ばせようとしてくれてる、で合ってる?」



「ああ、勿論だ。」既に失敗した私は、気配を感じた私は、バツが悪くなり立って花束をまた小脇に抱える。



「あ、そうだよね。気持ちは凄く嬉しい。私の為に買ってきてくれたんだなって言うのは凄くわかる。でもさ……。」



そこまで言って、また言いづらそうに槿は続けた。



「……明日、急にバラの花が増えてたらさ、看護師さん驚いちゃうと思うんだよね。」



「………確かに。」確かにそうだ。明らかにおかしい。



言われてからその事に気づいた私に、槿は思わず吹き出してしまう。



「本当に涼は退屈しないね。」槿は笑いながらそう言った。



「すまない。喜ばせようとしたのだが……。」



「気にしなくていいよ。前にも言ったけど、特別な事がして欲しい訳じゃなくて、こうして会いに来てくれるだけで嬉しいんだから。勿論何かしようとしてくれる気持ちも嬉しいけれど。」



私を励ます意図もあるだろうが、本心でそう言ってくれたように見えた。



「で、本当に3日後に来てくれたんだ。」気まずさと恥ずかしさを感じている私に、槿は言った。



「まあ、私にも目的があるからな。ただ」そこでふとあることを思い出す。



「今日は1時には帰るつもりだ。」



「前回危なかったからね。」



確かに前回日の出時間になってしまいそうだった。それも理由としてあるのだが。



「いや、この後予定があるんだ。」



「え、予定?ああ彼って呼んでいる人と?」



少し思案顔になった後、思い出したかのように槿はそう尋ねる。



「ああ。今日の3時から通話をする予定を彼としている。」



「いいね、仲良しなんだ。」槿は微笑みながら言ったが、それは、違う。



「仲は一切良くない。」



「良くないんだ。残念だね。」



「仲が良くないからこそ、木曜日だけ、必ず彼と話す事を誓わされているんだ。」


「ああ、この前した契約みたいな?」



「それも少し違う。彼と私は明確な主従関係にある。彼からの命令は、私は拒めないんだ。」



それなのに、彼は通話の命令と、私の名付け以外は特に何もしない。それが不気味だ。



「そうなんだ……。あと、ずっと気になってたんだけど。」



「なんだ?」



「『彼』のお名前って、なんて言うの?」



「ああ……。番古い仮名だと、確か『エディンム』を名乗っていたらしい。」



確かに言っていなかったな、と思いつつ、今の名前を言いたくない為、そこはぼかした。



「へぇ……。今はなんて名乗ってるの?」



当然ながら槿は私に聞いてきた。まあこれから1年近く付き合う可能性が高い。ずっとぼかしておくのも難しいだろうと、私は観念する。



藍上(あいうえ) (おう)。」



「え?あいうえお?」



「藍上 央だ。」


余りに適当な名前に、口に出す事すら憚られる。2人だけの吸血鬼の王は、最早使う事のない名前など適当でいいと思っているのだろう。

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