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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
飛花落葉の私と父

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第38話 飛花落葉の私から、ポストスクリプト

車の前で待っていた二葉に促されて、私は左後部座席に座る。隣は二葉で、一果は助手席に座っており、運転手は連花のようだ。



「さて、それでは出発しますよ。」


連花はそう声をかけ、エンジンをかける。


正面出口から右折し、住宅街の方へ向かう。


以前、小春の祖父母の家に行った時とは反対方向だ。行ったというより、忍び込んだに近い形ではあるけれど。


「むーちゃんは、この辺は来たことありますか?」


そんなことを考えていると、二葉がそう声をかけてきた。


「もしかしたら通り過ぎたことくらいはあるかもしれないけど、それくらいかも。昔は今より体を崩しやすかったから、昔からほとんど外で遊んだりしてないし。」



「そうなんですね。だったら、これから色んな場所を案内してあげますね。」



胸を張り、ドヤ顔をしながら彼女は言う。



「ありがとう。楽しみにしてるね。」


そんな風に張り切っている彼女が、年上にもかかわらずどこか可愛くて、私は思わず笑ってしまう。



「楽しそうな所、申し訳ございませんが、もう着きますよ。」


「え、もうですか?」


「ええ。病院からさほど離れていませんから。」そう言いながら、連花は車を減速し、路肩に停める。


「着きました。」



想定より早く、教会に着いた。確かに、以前病院より徒歩10分程度とは言っていたような気がする。だが、どこか大仰な別れをしてきたので、ここまで近いと少し恥ずかしくなってくる。



私、一果、二葉は車を車から降ろすと、連花は「車を停めてきます。」と言って、コインパーキングに

向かっていった。



私は、初めてこれから過ごす教会を見た。



住宅街を抜けてすぐの所にあり、腰くらいの高さの塀と、周囲を木々に囲まれた、レンガ造りの歴史のありそうな、小さな教会だった。


茶色を基調としており、角面は白いレンガが等間隔に組まれている。屋根は傾斜がついており、オレンジ色の丸みを帯びた洋瓦が乗っている。アーチ状の正面扉の上には、先端の尖った鐘のついた塔が建っている。教会から少し離れたところに、同じく茶色基調のオレンジ色の屋根のアパートのような建物が見える。恐らくあれが居住棟だろう。


少し3人で談笑しながら待っていると、すぐに連花が小走りで戻ってきた。



「お待たせいたしました。それでは、この教会の常盤(ときわ)司祭の所に伺いましょう。」



そういえば、以前司祭がいると言っていた。一果、二葉のことですっかり存在を忘れていた。


連花は正面の開かれている門を通り、教会に向かって歩く。私たちは、その後ろについていった。


「常盤司祭とか凄い久しぶりに聞いたわ。あの人元気ー?」


「この前お会いした時は息災でしたよ。」


「それは何よりです。」


歩きながら、3人はそんな会話をする。


「3人とも、知り合いなの?」口ぶりからは、会ったことがありそうだ。


「ええ。何度か、ここの住居棟をお借りしたことがありますから。」


「そうそう。除霊のために色々飛び回ってるから、私達。」



普段はこの辺にいないんだ、であるとか、そもそもどこに家があるの?であるとか聞きたいことは山ほどあるが、大した距離がないため、すぐに教会に着いてしまう。


連花が正面のドアを押すと、少し重そうな音を立て、ドアが開く。


内部は、左右にいくつも並ぶ長机と、その両脇にアーチ状の柱、そして正面には祭壇と、大きな十字架が飾られている。天窓にはステンドグラスがはめられており、太陽光がガラスの色を移して教会内に差し込み、どこか厳かな雰囲気がある。先程見たときは気が付かなかったが、祭壇手前に短い通路が左右に伸びており、教会内は十字構造になっているようだ。



「あれ、常盤司祭いなくないですか?」


二葉の言葉にはっとする。そう言えば、人の姿が見当たらない。



「おや、お客様ですかな?」


後ろから、男性の声が聞こえる。



振り向くと、そこには温和そうな高齢の男性がいた。恐らく、60歳から70歳くらいだろう。黒髪混じりの白髪の髪をオールバックにしていて、痩身で身長はそこまで高くない。恐らく、この人が常磐司祭なのだろう。が、何故か、紺色のサロペットと、白いシャツ、両手には小型の電動草刈機を持っている。


「常磐司祭……。どうされたんですかその服装。」



連花は、困惑半分、呆れ半分のような声で、常磐に話し掛ける。



「おや、連花司教。そういえば、今日でしたな。そしたら、貴女が月下槿さんですか。私は、常磐満作(ときわまんさく)。司祭をしております。これから、よろしくお願い致します。」


彼は温和な態度のまま、にこやかに自己紹介を始める。


「こ、こちらこそよろしくお願いします。」


そのマイペースさに少し置いていかれるが、私は慌てて頭を下げる。



「大してお役に立てませんが、何かありましたらいつでも申してください。悩める隣人を助ける事も、信徒としての役目ですから。」


「ありがとうございます。」まだ彼のペースに着いていけず、少し歪んだ笑みで返す。話している内容からも、態度からも優しい人であることは伝わった。



「……挨拶も済んだところで恐縮ですが、常磐司祭、何をされてたんですか?」



連花は先程無視された質問を再度聞き返す。特に不機嫌そうな様子もないのは、彼がただ寛容なのか、それともこういう事がよくあるのかは今の所定かではない。


「ああ、本格的に春になって草が伸びる前に、裏庭の手入れをしようと思っておりましてな。」


「それでしたらお手伝い致しますよ。」


「いやいや、司教様の手を煩わすのは申し訳ない。気にせず職務に戻られてくだされ。」


「いえいえ、お気になさらずに。本日は特に予定も入れてませんから。」


「いやいや、それでも」


「つっきー、二葉。行こっか。」


「あ、はい。」



その後も、ずっと手伝おうとする連花と、それを断る常磐を尻目に、私達は居住棟に向かった。そうして、教会での私の1日目だ。


ちなみに、その後結局連花は裏庭の手入れを手伝う事になった。私達3人も、刈った草をゴミ捨て場に持っていく役割で、少しだけ手伝いをした。これから自分が住むところを綺麗にするというのは、その場所への挨拶みたいな感じがして、何処か心地いい。


寒さの残る3月の空気を、少し暖かい風が通り抜ける。きっと、春はもうすぐだ。



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