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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
飛花落葉の私と父

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第26話 桃李満門だった私達から①

私は食堂へ向かう道中、この前の事を思い返す。



忌まわしい吸血鬼と、情けなくも一方的に圧倒されて、相手の都合で休戦を結ばされた、屈辱の記憶。



エディンムと、岸根 涼。


彼等吸血鬼達を殺す為に、私は吸血鬼に教えを乞う。


自分の情けなさに、思い返す度に腸が煮えくり返す。


だが、彼らを殺す為だ。臥薪嘗胆の思いをしてでも、私は力をつけなければならない。


その為には、今はまだ彼の助力が必要だ。


薄命の少女に恋をした、愚かな吸血鬼の助力が。



そんなことを考えていると、大柄な男がわざと私に肩をぶつけてくる。


またか。怒るのも面倒で、私は無視して食堂に向かう。


「おやおや、連花司教様。お久しぶりですなぁ。」


私が無視をするつもりなのを察したのか、そう声をかけてきた。


はぁ、とため息をついて、彼の方を向く。


「ええ、お久しぶりです。」


私は愛想笑いで対応した。30代後半の少し恰幅のいい男性だが、顔を見ても名前を思い出せない。確か、司祭だったはずだ。


「なんでも、この前吸血鬼を見つけたと慌てて出動したようで?でも結局勘違いだったそうですなぁ!もしかしたらコウモリとでも間違えたのでは?」


そう言って、彼はわざとらしく下品に笑う。



彼等吸血鬼の事は、私の直属の上役の大司教には報告したが、「彼等の対応はしばらく私に任せて欲しい。」と頼み込み、他の信徒には秘密にしてもらっている。


「ええ。恐らくそうでしょう。ご迷惑をおかけしました。」


そう言って、お辞儀をして食堂に向かおうとする私の肩を掴み、彼は無理やり静止する。


「そう思うなら、ここで土下座されては如何ですか?」


何やら揉めている気配に、信徒たちが遠巻きに私達を囲むように見ている。




目の前の司祭は、私が気に食わないのだ。吸血鬼狩りの一族など、本来馬鹿にされ、見下される存在だった。そんな一族の私が、若くして司教になったことを、妬んでいる層が一定数いる。彼のような人達だ。



土下座をしてもいいが、そのせいで私が教会内で下に見られるようになると、死んだ両親や一族に申し訳が立たない。


かといって、彼をやり込めると後々逆恨みをされても面倒だ。


どうするか、と迷っていると、


「おいおっさん!」と怒気を孕んだ声が聞こえた。


「あのさ、司教サマに何絡んでるわけ?本当気持ち悪いんだけど。」一果だ。


「やめなさい、一果。」


彼女は良血の血筋であるし、優秀なエクソシストではあるが、化粧が大人しい方では無いし、十字架をデコレーションしていたりと厳しい目を向けられている。揉め事は彼女にとっても好ましくない。


「いやだってこいつこの前の除霊失敗したのを司教サマに助けられてたじゃん。なんでこんなに偉そうなの?」


一果の発言で思い出す。ああ、猪狩いかり司祭か。


佐葦は、一果の顔を聞いて、顔を真っ赤にしながら体を震わせる。野次馬をしていた信徒達も、一果の発言を聞いてクスクスと笑いだした。


まずい、面倒なことになると、一果を止めようとする。


「猪狩司祭。ごめんなさい。一果には注意しときます。」


二葉が、そう言って一果と私の前に立つ。良かった、二葉が丸く収めてくれそうだ。


「ああ、そうしろ!!」怒りに震えながら、佐葦は憤慨する。


「はい。いくら役立たずでたまたま私達より先に産まれただけの愚物でも、一応歳は上なので形だけでも敬うように、としっかり言い付けときます。」


二葉のその一言で、赤の向こう側の紅色に顔が染まる。


私はもう逆恨みされる事は覚悟で、彼女たちが殴られたりしないように前に出ようとした。


「ふざけっ」「おはようございます。どうされましたか?」そこで、穏やかで、よく通る高い声がその場に響く。


気がつくと、猪狩司祭の後ろに、天竺葵てんじくあおい大司教が、立っていた。先程触れた、私の上役である。


身長は2m30㎝程の痩身で、手足が長く、長い睫毛と、優しそうに微笑む中性的な顔立ち。何故か大司教は、神父服とシスター服の折衷案のような服を着ている。


「……いえ、なんでも。…………連花司教!せいぜい見間違いには気をつける事だな!!」


そう言って、バツが悪そうに猪狩司祭はドカドカとどこかへ行き、野次馬も蜘蛛の子を散らすように方々に散った。


「朝から、大変でしたね。ですが、一果、二葉。どのような理由が合っても人を辱めるのは宜しくありませんよ。」大司教は、そう言ってにこやかに2人を諌める。


「……ハーイ。」


「はい。申し訳ございません。」


一果はなにか言いたそうでもあったが、流石に反抗はしなかった。


「天竺葵大司教、助かりました。」


とりあえず、これ以上大事にならずに済んだ。


「私は何もしておりませんよ。あなたは、些事に目を向けずに、そのまま信仰に励むのです。それこそが唯一の道となります。精進なさい。」


占いともお告げともつかない言葉を残して、彼は来た道を引き返した。


「あの人って、よくわかんないよね。」


一果のその一言には、正直同意したい。



私はそのまま食堂に行き、食事を済ませた。


「ねえ、れーくん。この後暇だしさ、どっか3人で遊びに行こうよ」と一果は私にそう言ってくれるが、


「職務中は司教と呼びなさい。お誘いは嬉しいのですが、今日は予定がありますので。」


と一果の誘いを断る。


「あーあの女の子のトコだっけ?別にいいけどさ、そんなに気を使ってあげる必要ある?」


「隣人を愛せよ、ですよ。ですが、私のわがままで一果と二葉にはご迷惑をおかけするかもしれません。申し訳ございません。」


「いや、いいんだけどさ、別に迷惑とも思ってないし。」


「うん。私は、むしろ少し興味があります。」


本当に、私には勿体ないくらい優しい幼なじみ達だ。


「そしたら二葉、今日何する?」


と、そのまま二葉と一果は会話をしながら部屋に戻って行った。


私は着替え、以前より予定していた、月下槿の面会に向かった。











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