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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
虚実古樹の私

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209/218

第209話 結局私が選んだのは。

「申し訳ございません。お待たせいたしました。」


ビニール袋を片手に下げた連花(れんげ)が、申し訳なさそうな表情で私に謝罪をする。彼が30分近く店員と話し始め、手持ち無沙汰だった私は近くのソファで腰掛けていた。



「待たせた事は別に気にしないでいい。」


どちらかといえば、先程情けない醜態を見せられた事に関して謝って欲しい気持ちの方が大きい。



「そうですか。では、次はあなたのプレゼントを選びましょうか。」



私の考えをあえて無視したのか、それとも気が付かなかったのか彼は平然としている。別に大したことでもないし、まあいいか、と私は腰を上げた。



「いかがしますか?片っ端から店を回るか、ある程度絞って回るか。」


そう言われて、私は天井に目を向け、少し考える。片っ端から見て回れば、プレゼントそのものでなくてもそのヒントになるような物は何か見つかるだろうが、時間がかかる。ある程度店舗を絞って探せば、短い時間で済む。



「……槿(むくげ)は、何を喜ぶのだろうか。」


「さっきも言ったでしょう。少なくとも、あなたが渡す物ならば大抵喜ぶと思いますよ。」


それはそうなのだが、と彼に言い返そうとも思ったが、恐らく先程の会話と堂々巡りになるだけだ。



「片っ端から見て回るか。」


「そうですね、そうしましょうか。」



よく考えれば、どの店に何があるかと言うのも私は知らない以上、そうするしか選択肢はなかった。今いる階のお店を順に眺めていき、特にこれといった物が無ければ下の階に降りていく、という風に回っていった。どうやらこの階より上は飲食店しかないらしい。


8階、7階と順に回っていったが、特にこれと言った物は見当たらない。ぬいぐるみやら、衣服などを連花から候補として提示されたがそのどれもしっくりと来なかった。



結局そのまま、1階まで降りてきた。宝石やアクセサリー、化粧品などの店が立ち並んでいる。プレゼントとしてはどれも定番に思えるが、そのどれもが槿が喜ぶとは思えない。



「槿さんがこういった物をもらって、喜ぶイメージがありませんね。」


紅く輝く宝石を眺めながら、独り言のように呟く。連花も私と同じような事を思ったらしい。


「喜ばないだろうな。」


店員からは商品を悪く言われたと思ったのか、微笑んだ表情の奥にある鋭い瞳で私達は睨まれた。私達はそそくさと後にしながら、他の店の方に向かう。



「アクセサリーも宝石もあまり付ける印象はないし、化粧もしているところは見た事がないな。」



「興味はありそうですけれどね。一度だけ、一果(いちか)に教わっているのを見た事があります。自分でしているのは見た事がありませんが。」



なんとなく、その光景は目に浮かぶ。だが、私は一度も槿が化粧をしているのを見た事がないので、見た事がある連花が少し妬ましく、思わず睨む。


「な、なんですか?」


「……いや、何でもない。」


困惑する連花を尻目に、私は話を逸らした。


「この中だと、プレゼントにするとしたら、強いて言えばアクセサリー類だな。」


「……まあ、そうですね。それこそ指輪やネックレスはプレゼントとして最適でしょうし。」



ジュエリーショップに置いてあるアクセサリーを眺めていると、私はある指輪が目に留まった。



シンプルなプラチナ製のペアリングで、小さな石が一つ付いている。その石が透き通った青い色をしていて、どこか槿の目の色に似ていた。



「これにする。」


「はい?」


「槿へのプレゼントだ。これに決めた。」


値段もそこまで高いわけではない。これならば槿も気を遣う事もないだろう。急に決めた私に連花は驚いた様子ではあったが、私が選んだ物を見ると、ああ、と納得した様子だった。



「私は良いと思いますよ。ただ、指の号数とかは分かりますか?」


「……いや、知らないな。」


私がそう言うと、彼はわざとらしくため息を吐いた後、誇らしげな表情を見せた。


「左手の薬指でしたら、8号ですよ。」


私は思わず耳を疑った。何故知っている、と訊ねようとしたが、彼は続けた。



「あなたがもしかしたら指輪を買う可能性を考慮して、一果と二葉(ふたば)に協力してもらい、サイズを確認しました。後であの2人にお礼はしてください。」



あまりに用意周到過ぎて気持ちが悪い。が、そのおかげで助かっているのも事実だ。


「ありがとう。助かった。」


色々と言いたい言葉を飲み込み、私はそれだけ彼に伝えた。


「構いませんよ。その代わり、この後30分だけお話ししたいことがあります。お時間頂いてもいいですか?」


時計を見ると、まだ夜の7時半だった。槿と出かける事を考えても、30分程度なら問題ないだろう。


「それは、構わないが。それにしても、今回私を指名したのは、それが理由だったんだな。」


「まあ、それもありますが。もちろん、小春(こはる)さんのプレゼントを選んでほしかった、と言うのも嘘ではありません。」



良かった。と少し安堵した。情けない姿を見せてもいい相手として選ばれただけではなかったらしい。






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