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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
虚実古樹の私

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207/218

第207話 この日も、君は拗ねていたな。

「そうやって、私より連花(れんげ)さんを優先するんだ?」



わざとらしく槿(むくげ)はむくれて私を睨む。『来週、連花と買い物に行ってから教会に寄る』と伝えたらこれだ。


「仕方がないだろう。連花から『椿木(つばき)のプレゼントを選んでほしい』と頼まれたんだ。君だって、あの2人は応援をしてるのだろう?」



「それは、そうだけれど。」



拗ねたような表情を見せるが、槿の口角が上がっているので、別に彼女は本気ではないのだろう。


最近気が付いたのだが、槿がたまに、こうしてわざと不機嫌なふりをするのは、彼女なりの甘え方なのだろう。


あまり人と関わることが多くなかった彼女は、私が許してくれるという事が分かった上でどこまで受け入れてくれるかを試している。それか、『痴話喧嘩』と言うものに憧れているのかのどちらかだ。


正直面倒だとは思うが、槿なので私は仕方なしに許している。



「私だって、(りょう)と買い物とか、したことないのに。」


口を尖らせた彼女の様子を見るに、どうやらこれは本音らしい。



「どこか買い物に行きたいのか?」


この簡素な部屋を見る限り、彼女にそこまで物欲があるとは思えない。未だに以前常盤(ときわ)が入れたであろう聖書一冊しか入っていない本棚がそれを物語っていた。



「そういう訳じゃ、ないけれど。」


「そういう訳ではないのか。」



では、どういう訳なんだ、と訊こうと思ったが、槿が口を開いたのを見て私は彼女の言葉を待った。



「ただ、涼とどこかに行って、あまり実りがない事をしたいなって。それだけ。」



私はその言葉を何度も咀嚼したが、いまいち意味が分からなかった。だが、きっとそれは彼女にとって意味がある事なのだろう。であれば、叶えてあげたい。



「それならば、連花の買い物が終わった後にどこかへ行かないか?遅い時間になるだろうし、大した事は出来ないが。」



「え?」



「この前言っただろう。検査が終わったら、何か君の望みを叶えると。時期的にも丁度だろう。」


「そうだけれど……。良いの?疲れたりしない?」


「こう見えて、体力には自信がある。」



私の冗談に槿はクスクスと笑った後、少し頬を赤らめて嬉しそうに目を潤ませた。


「……じゃあ、楽しみにしてる。」



「……そうか。」


「仕方ないから、連花さんとのデートも許してあげる。」


「気味の悪い言い方をするな。」


私は思わず顔をしかめた。冗談でも気持ちが悪い。




ーーーーーー



『KBタワー来るように。』



連花にそう言われて、教会から1km程離れた所にある、正しくは『カナガワブリリアントタワー』という名付けた人間の感性を疑う商業施設の入口で待ち合わせをすることになった。



陽が沈んだのを待って17時半に家を出たが、既に連花は着いているらしい。近くのビルの谷間で私は地面に降りて、ビルの方に向かった。日曜日だからだろう。多くの人が待ち合わせやらでごった返していた。



それでも連花はすぐに見つかった。周りに比べて頭一つ抜けて高い彼は、多少の人混みでは視認性が変わらなくてありがたい。聖書を読んで待っている彼の元に向かって歩くと、連花も私に気が付いて聖書を閉じた。



「すまない、待たせたか?」


「いえ、然程。」



短くそう答えた後、連花は顎に指を当てた後、露骨に嫌な顔をした。


「どうした?」


「いえ、今のやり取りがデートみたいで気持ちが悪いな、と。」


「……君も槿と同じか。」


「槿さんから何を……いえ、不愉快になるだけなので聞くのはやめましょう。いいからさっさと行きますよ。」



出会った時以来の気まずい空気の中、私達は感性を疑う名前の『KBタワー』に向かって行った。


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