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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
あの日、私が遅れた理由

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第19話 吸血鬼が人間を蹂躙する理由

「さて、『人間共は死ね。』」


彼は、散歩に行くかのような気楽さで、彼等を殺す催眠をかけようとする。


咄嗟に反応したシスターが犬笛を吹き、催眠音波を乱して、催眠を防いだ。


「よく防いだ!やるじゃないか!『壊れろ!』」


彼がそう叫ぶと、犬笛は粉々に砕け散った。


「きゃっ!」手元で弾けた犬笛に驚き、シスターは身体を背けた。


恐らく、彼は犬笛の音を聴き、共鳴する周波数の音波を出して犬笛を破壊したのだろう。そんな芸当が出来る吸血鬼を、彼以外見たことが無い。


「さて、これで君達は催眠への抵抗が出来なくなった訳だ。『人間共は私の指示があるまで意識を手放す。目に付けたコンタクトを外せ。』」


3人とも虚ろな目になり、コンタクトを取り外した。


「さて、どちらにしようかな……と。」


シスターを交互に指差して、先程犬笛を吹いたシスターで指が止まる。


彼女の顎をつかみ、無理やり目を合わせると、魅了をかけた。


「初めまして、私は『藍上 央』。君の最も愛する人の名前を教えてご覧?」


「はい………央様です。お慕い申し上げます……。」


とろんとした、発情した表情を浮かべて、シスターは囁く。


「いい子だ。『人間共は意識が戻るが、身体を動かすことは出来ない。』」


彼らの催眠が一部解除される。はっとした表情の後に、司教は彼を見て、憤怒の表情を見せる。


「やめろ!二葉から手を離せ!」


「話し合いはしないのだろう?」


にやにやと、悪意の込もった笑みを浮かべながら彼は返す。


「君、二葉と言うのか。いい名前だねえ。『二葉は催眠を解除される。』」


彼がそう言うと、二葉は硬直してた体から力が抜け、、体の自由を取り戻した。


「さあ二葉。私か、あちらの2人だったらどちらと一緒に居たい?」


「迷う事などありません。そんなの央様に決まってます……。二葉に央様の寵愛を下さいませ………。」


央の腕に縋り付くように、二葉は身体を密着させる。


「二葉!だめ!その化物から離れて早く!」


「二葉!お前は魅了されているんだ!正気に戻れ!」


もう1人のシスターと司教は口々に喚くが、二葉の意識の中にはまるで央しかいないように、じっと彼を熱の込もった瞳で見つめる。


「いいねえ、ずっと仲間だった彼等より私の方がいいわけだ。随分軽いシスターが居たもんだ。いいかい、君はこれから、私にあべこべに犯される。上も下も、前も後ろも私に突っ込まれるんだ。」


「嗚呼……!素敵ですわ……っ!」密着したまま、彼の肩に手を乗せて身を捩る。


その様子を見て、央は独り頭を抱えて笑う。


2人は必死に二葉を呼び続ける。目は血走り、喉からは血が出るのではないかと思う程、必死に。


「その後、君を吸血する。その時君は処女じゃないから、間違いなくグールになるだろう。記憶も意識も失って、私の命令を聞くだけの考えることの出来ない化物になるんだ。そしたら、もう一度僕は、聞いてくれない意地悪な司教とシスターに、『良ければ話し合いをしないかい?』と聞いてみるんだ。」


「そんな意地悪な人がいますの?私、許せませんわ!」


わざとらしく頬を膨らまし、彼女は憤慨する。


「いるんだよ、ほらあそこに。」


彼は嘆くような調子で言うと、二葉顎に再び手を回し、シスターと司教に顔を向ける。


「あれ、めーちゃんと、一果……。ダメですわよ、央様のお話を聞かなきゃ。」


「本当だよねえ。人の話はしっかり聞かなきゃ。」ケラケラと笑いながら、化物は同意する。


「それでも話を聞いてくれなかったら、次は君が横にいるシスターを食い殺すんだ。そこで、また訊ねる。『良ければ、話し合いをしないかい?』」


「央様、私、央様のご指示でしたら今すぐにでも一果を殺しますわ!」


あまりの変わり果てた知り合いの姿に、司教と一果と呼ばれたシスターは、絶望した表情を浮かべ、歯を食いしばりながら涙を流し、必死に二葉の名前を呼ぶ。


「ダメだよ、君がグールになってからがいいんじゃないか。でも、偉いね。」そう言って、2人に見せ付けるように二葉の頭を撫でる。


「嬉しいですわ……央様……。」


「よかった。それでね、もしそれでも話を聞いてくれなかったら、司教くんは吸血鬼の仲間入りをさせてあげようと思うんだ。」


彼は下品な笑みを浮かべる。


「めーくんが羨ましいですわ……。」二葉は拗ねたような顔をした。


「そうだろう?君と違って記憶も意識も彼は残る。でも、私の命令には逆らえない。彼には教団のエクソシストに挨拶がてら、皆殺しをしてもらうつもりだよ。」


「私も央様と同じ吸血鬼にされたいですわ……。」


「そうなのかい?じゃあ選ばせてあげよう。私に沢山犯されるか、吸血鬼になるか。どっちがいい?」


「ぁん、いじわる……。そんなの決まってますわ。私を」これ以上は聞くに絶えない。その後に続く言葉を私は遮る。


「『二葉、眠れ!』」彼の分裂体に押さえつけられたまま、私は二葉を催眠にかけた。


糸が切れたかのように倒れる二葉の身体を支え、彼はゆっくり地面に寝かせる。


「これからが楽しい所なのに。」少しいじけた様に、彼はぼやく。


「もういい、お願いだ。辞めてくれ。央、君も教団とは争いたくないはずだろう。」


嫌悪感が隠せない。こうなるから、彼等には早く逃げて欲しかった。彼は、先程わざと彼を煽った。煽る事で、元々不可能に近かった会話による和解を確実に断らせた。


何故そうしたか。彼等を一方的に蹂躙する為だ。蹂躙して、見せつけた。自分に逆らうと、どうなるかを。そして恐らく、ここで私が止めることすら見越していたのだろう。


「司教と、シスター。名前は、連花と、一果と言ったか?お願いだ。私は彼を止められない。せいぜい出来ることは、彼女をこうやって眠らせるだけだ。」


自分の無力さに腹が立つ。彼を止めることの出来ない力の無さを、そして、結局嫌悪感を覚える彼の行動に助けられている情けなさを実感する。


「頼む。話だけでも聞いてくれ。そして、出来れば見逃して欲しい。今日だけでもいい。そしたら、彼にも君達に手出しはしないと約束させる。」


私は必死に懇願する。お願いだから、ここで引き下がってくれ。


「一応言うけど、私も涼も、まだ君達に攻撃すらしていないんだよ?まあ、ちょっと意地悪はしたけど。」


そう言って彼は高笑いをする。


「ここで涼の提案を断ると言う事は、そういう事だよ?」


次は命の保証をしない。彼は、そう脅迫しているのだ。


「…………分かりました。」


血が滲むほど、歯を食いしばりながら、司教は蚊の鳴くような声を絞り出す。


そうして、数百年ぶりの吸血鬼とヴァンパイアハンターの戦いは、あまりに一方的な結果で終わった。

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