表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
あの日、私が遅れた理由

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/189

第16話 人が吸血鬼を殺せる理由

以前彼に聞いたことがある。


吸血鬼とヴァンパイアハンターの歴史は、一言で表せる。


一言で言うと、被食者が捕食者をどうして殺せるようになったか。


その理由は至極簡単で、被食者にも牙があったから。知恵と信仰と、それを操る身体と言葉が。


聖十字教団の経典では、人間は死後あの世に行き、そこで天国や地獄のどちらか適切な場所に行く事で、魂は救われる、らしい。詳しくは知らない。あくまで彼からの聞いだけの話だ。


死した肉体のまま、現世を彷徨う化物の私には残念ながら縁遠い世界であるし、あの世の存在の是非を問うつもりは無い。とにかく、そうなっているらしい。


現世に彷徨う魂を救済しようと結成されたのがエクソシストで、その中でも吸血鬼の救済に特化した部隊がヴァンパイアハンター。


彼等の特徴として、皆銀製の十字架が付いたロザリオを着けている。いざと言う時の武器として、そして、自身が吸血鬼にされた時にそのまま自害するらしい。


また、彼等は吸血鬼の弱点を利用した武器を駆使し、私達吸血鬼を殺していたのだが、それらの武器の中で、最も私達が恐れていた武器、それが『連なる聖十字架(チェインクロス)』。


死んだハンターの遺品である、銀製の十字架を連ね、鞭のようにしなり、剣のように鋭く、音速を超える速度と、自在に動く切先は何人もの吸血鬼を葬ってきた。


死んだハンターの加護と恨みを受け継ぐ、人間の狂気的なまでの執着が産んだ武器。


過去にも相まみえたその武器が、今再び私の前に現れた。私を確実に殺すと息巻く司教の手元に。


彼が裾から『連なる聖十字架』が出てくるのを見て、私は直ぐに司教の反対側に駆け、張られている結界を破るつもりで思い切り殴る。


逃げるつもりはないが、流石にこの結界の範囲では一瞬で殺されるだけだ。結界の外に出る必要がある。


結界には大きくひびが入る。もう一度殴れば壊せる。そう思い、もう一度大きく振りかぶった。


「背後を見せるとは随分と余裕ですね。」いつの間にか司教は私に近付き、、手の内側で滑らせるようにして、直線状に十字架を飛ばす。


「くっ!」なんとか躱し、その勢いのまま羽を広げ、上空に逃げる。羽を広げると細かい方向転換は出来なくなるが、その分速度が出る。


とにかく相手と距離を置くためには、羽があった方がいい。


先程殴った箇所に目をやると、既にひびは塞がっている。


シスターが修復したらしい。かなりの練度で結界を張っており、目の前の司教から逃げながら破るのは無理だ。


司教は『連なる聖十字架』を自身を中心に円を描くように振り回しながら、私に駆け寄る。


私は必死に高度を保とうとするが、結界が十字架の届く高さでまでしかない。彼に背を向けないよう後ろ向きに飛び、距離を取りながら、飛んでくる十字架に警戒する。


「いつまでも逃げれるつもりですか!」彼はそう叫ぶと、私をめがけて十字架を振るう。


以前であった司教の『連なる十字架』より射程自体は長いが、軌道が直線的だ。速度に大きな違いはないが、これならばなんとか躱せる。


私は必死の思いで何度も迫る十字架を躱しながら距離をとる。その状況がしばらく続くと、私は違和感を覚えた。


おかしい。何故、何故私はまだ生きている?


以前会った司教であれば、恐らくもう既に5回は死んでいる。今思えば、最初に結界を破れなかった時点で死んでいてもおかしくない。


もちろん、真名を得たことで私の俊敏性も格段に伸びてはいるが、それでも説明が付かない。


そこで、私は一つの、考えてみれば至極当たり前の仮説に思い当たる。


彼が私に向かって十字架を振るったのを見て、今までは躱しながら距離をとっていたが、今度は反対に距離を詰めた。


「なっ!!」急な私の行動に驚いた様子で、彼は私の動きに対応できていなかった。


私はそのまま反対側に通り過ぎて、また体を司教の方に向ける。


司教も慌てて私の方を向くが、その際に『連なる聖十字架』に働いていた遠心力が歪み、急激に速度を落とす。


やはり、私の思った通りだ。


「なあ、一つ聞きたいんだが。」少し余裕を取り戻した私は、司教に訊ねた。


「化物と会話するつもりなど」そう言う彼の言葉を遮り、私は続ける。


「今まで、私以外の吸血鬼と戦ったことはあるか?」


「……それがなんだと言うんですか?」急に罰が悪そうに彼は返す。


そうだ。考えてみれば当たり前だったんだ。私と彼『藍上 央』以外に吸血鬼はいない。


もし居たとしたら、彼が間違いなく私を連れて余計な事をしに行くに決まっている。であれば、今目の前の司教の、あまりに不慣れな動きに説明が着く。


彼には、実戦経験がない。


恐らく普段はゴースト等を相手にしている、普通のエクソシストだ。脇に控えたシスターとの連携のスムーズさや、彼の若さに見合わない高い階級等は、それで説明が着く。


なぜ『連なる聖十字架』を持っているか、吸血鬼に強い敵意があるのか、私の能力使用を察知したのか、それは未だに疑問だが、とりあえずその点は今は考えなくていい。


1つの希望が見えた。これならば。


これならば、何とかなる。槿に恨み言を言う事は叶いそうだ。


だが、それはそれとして、もう一つ以前変わらない大きな問題があった。


私には、実戦経験がない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ